初めてはあの子に貸しました///
#はじめて買ったCD
そういえばちょっと面白い話ができそうなので。
これを思い出せば、割といつでも感傷的になってしまう。
私が初めてCDというものを買ったのは16歳だった。
もうその頃にはスマホ一台あれば、消費者としての
音楽的欲求は満たされる時代になっていた。
平たく言えばCDやレコードを買う理由は自分にとってあまり多くはなかった。それは俺が楽器を、バンドをやるほどに音楽が好きでも。
だから20手前になっても手元にあるのはあの時買ったあの一枚のみ。
とてつもない後悔とお手本のような青春を背負ったあの一枚のみだ。
・・・
丁度今から4年前で、高校1年生の頃。
ある女の子が同級生だった。
マキシマムザホルモンが好きで雪見大福みたいな女の子だった。
ありえないくらい好きだった。
イチゴをかじった時の白以上桃色未満のような肌で
猫の怠惰さと犬の好奇心と携えて、銀縁眼鏡が良く似合う。
好きすぎて嫌いなところを探すほど好きだった。
1年生の梅雨、その子と英語の授業で一緒になる時間があった。
先生から順番に
「あなたの好きな曲は?」
って聞かれて、その子はマキシマムザホルモンって答えたんだ。
それで俺が驚いて必要以上に反応してしまった。
そこからほんの少しずつ話すようになった。
あまりにも臆病だった私は音楽の話でしか関係を続けるしかできなかった。
話しているうちに、相手の方が音楽的な素養は豊富であることを知り、毎度分かってもいないのに首を縦に振っていた。
でもあるとき、誰もが中学生の時通るであろうアーティストについてその子は不識だというので、それならば私がCDを貸してあげようという話になった。
いや持ってない。
そのアーティスト、好きっちゃ好きだったけどこの時代CD買うほど好きではないし、何ならCDを流すプレイヤーも持ってはいなかった。
でも、そんな情けないこと言えないではないか。19の男がいまだに未練のようなものをタラタラ垂れ流しているほど好きだった女の子に
「あー、家探したんだけどなかったんだよねえ」
なんて言えるわけないだろうが。
血眼で探したよね。うちの住んでいるところはだいぶ田舎の方だったから、わざわざ町の中古屋さんに赴いてそのアルバムを探し抜いたんだ。
それが、
これ。正真正銘一番初めに買ったCD。バンドにはほとんど興味がない、その子のためだけに買ったという、透き通るほど爽やかで、不純な動機だった。
お目当てのモノが手に入った私は浮足立ってその子にこれを貸したら、
お返しにと、このCDを貸してくれた
しびれるよね。16歳の女の子の銀杏BOYS。
多分ここから後戻りできなくなってしまった。
めちゃくちゃ愛おしくなった。
それで、あんま時間経たないうちに告白をした。
一緒に楽器屋さんに行っている途中だった。
返事はというと
「あー…他の女の子とかいいんじゃない?A子ちゃんとかB子ちゃんとか。」
そのあとの楽器屋さんデートは想像できると思う。
なるべく楽しそうにしてますって顔してた気がする。
そのあとドラマよろしくの展開も無しに午後6時という健全な時間で解散。
・・・
というような感じでした。
まじでラッドウィンプスごめんって感じ。
いやあんな恋の駆け引きの道具になってんだから野田さんも本望だろ(知らんけど)
でもちょっとだけ続きがあって、良ければそれ読んでもろて‥‥
・・・
そんなこんなあってから1か月ほど過ぎた時、その子にCDを貸していたことはすっかり忘れていたけど、あの子はそうでもなかったみたいで律儀に返しに来てくれた。
久しく私の手に帰ってきたそれはいろいろなものが伸し掛かっている気がしてなんだか貸す前より重くなっているんじゃないかと。
あの告白の後、気まずくなりまったく喋っておらずもうほとんど関係は途切れたと言えていたが、これを返してもらったらその瞬間から本当に関係が途切れてしまうんだと自覚した。でも話を続ける勇気はなく、
「ありがとう」で会話を終わらせてしまった。
家に帰ると本棚の上から2番目の端っこの方に立てた。
それは埃を被り続けるだけのものになった。
3年生になった時ふと、この一連のことを思い出して2年ぶりにCDを手に取ってみた。
案の定、埃を被っていたが、あの時の確かな青春を鮮明に思い出させるには十分だった。
気まぐれにケースを開けてみると中にあったのは、色あせないCDと歌詞カードと
あの子からの手紙だった。
「私でよければ」と。
・・・
私のベッドに寝そべっていたA子がこちらを向かないように、興味を持たないように自然な動作を意識してCDを本棚に戻した。
一年くらい前だろうか。混沌とした教室の中であの子含めた4~5人が
あの経験を共有していた。私はそれを聞いてどうか大切にしてくれる人を大切にしてと願った。それで良いからと。
何も良くなかった。でもどう仕様も無くなった。
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