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Huling 全記事

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北大言語学サークル Huling の構成員による記事の一覧
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記事一覧

【活動記録】北大祭2024

北大言語学サークルです! 今回の記事では、6月7日から6月9日にかけて開催された「北大祭2024」での活動の内容を紹介します! 今年の北大祭では、文系祭の中の企画「書房Metis」として、北海道大学短歌会様、北大推理小説研究会様、北大文芸部様との合同出店を行いました。 昨年と同様、約250部の冊子を用意して無料配布を行いましたが、無事に全て配布することができました。 ご来場いただいた皆様、宣伝してくださった皆様、改めて本当にありがとうございました! また、会員の私物の書

アイヌ語疑問文について:最近考えたこと・話したこと

北大言語学サークルのfugashiです。 アイヌ語疑問文は、以下の疑問点に示すように特殊な構造をしています。アイヌ語輪読会では、ここ数回で統語に関係する内容を扱っていたのですが、その際にアイヌ語疑問文の構造について疑問が生じたので、皆さんの意見もお聞きしたくまとめました。 疑問点tanpe hemanta an. *tanpe hemanta ne. tanpe hemanta ne ruwe an. アイヌ語疑問文では、上に挙げたように、”あれは何か?”という疑問文

英語の発音記号とIPAの違い

本稿では一般米語(General American, GA)の発音記号とIPAを比較し、主な相違点について説明します。これを読めば、単語についている発音記号と実際の発音が違って聞こえるという謎が解決されるかもしれません。 / /と[ ]の違い私の体感では、発音記号に使う括弧は/ /より[ ]が多く使われている印象です。しかし英語の発音記号は英語の音素を表記したものですから、IPAの規則で考えれば/ /で囲むのがより正確だと思います。 母音図1~5は、IPAで定義された母音

アイヌ語輪読会レポ #7

こんにちは、北大言語学サークルのfugashiです。本記事は、サークルで行われているアイヌ語輪読会第7回のレポとなっております。過去のレポについてはこちらを参照してください。 第7回では、アイヌ語文法の基礎第19課「普通名詞の人称変化」第20課「位置名詞の人称変化」第21課「連体修飾表現」について学びました。 学習レポ第19課「普通名詞の人称変化」 アイヌ語の普通名詞(位置名詞に対置される概念です)は、「AのB」のような誰かに所属することを表現するとき、しばしば人称変化を

【活動記録】2024年 4-5月期

北大言語学サークルです! サークルの活動も三年目となりましたが、今年も、幅広いテーマを扱って充実した活動を行うことができているように思います。 そこで、試験的に、日々の活動の内容を記録してみることにしました! 私たちのサークルの活動を知っていただくほか、既に会員の方も、参加できなかった回の内容を覗いてみるなど、幅広い目的で利用していただければ嬉しく思います。 4-5月は新歓や北大祭の話し合いも行っていましたが、テーマを設定した活動としては、以下の5つの内容を扱うことができ

標準日本語との対照から学ぶ八重山語の音韻 後編

北大言語学サークル所属のもけけです。 第2回の今回は、いよいよ、八重山語の音韻というテーマに関して、音素とアクセントの内容を中心に紹介していきたいと思います。 八重山語の音素ここでは、中本(1976: 217-228)を参考にしながら、八重山語の音素について標準日本語との音韻対応を整理します。その際、標準日本語の音韻体系と変わらずに対応が見られる音素については割愛し、異同のある部分や例外的な部分を中心に紹介していきます。 なお、前回の記事でも確認したように、琉球諸語は島ご

標準日本語との対照から学ぶ八重山語の音韻 前編

北大言語学サークル所属のもけけです。 全2回に亘る本記事では、琉球諸島の南部に位置する八重山諸島で話される言語である「八重山語」の音韻的な特徴について、日本語の標準語(標準日本語)と対照して関係を確認しながら紹介していきます。 第1回の今回は、そもそも八重山語とはどのような言語なのかを簡単に紹介していきたいと思います。 琉球諸島と琉球諸語琉球諸島とは、北から順に奄美諸島、沖縄諸島、宮古諸島、八重山諸島からなる諸島であり、八重山語は、その中の八重山諸島を中心に話されている言

北海道大学への行き方(東京・京都付近の大学生向け)

たとえば東京から大阪へ行くとき、安価な移動手段といえば何ですか?高速バスですね。では、東京から札幌へ行くときは?高速バス?いいえ、東京から札幌へ直接行く高速バスはありません。津軽海峡に自動車用トンネルは無いのです。東京から札幌へ行く手段は、本州内のそれとは話が違うのです。 この記事では、東京・京都付近から北海道大学へ行く予定のある大学生向けの、安価な移動手段を紹介します。 札幌駅から北海道大学へこれから紹介するいずれのルートも、札幌駅までの経路になっています。では、札幌駅

映画「ボブ・マーリー:ONE LOVE」とパトワ

先日5月17日に映画「ボブ・マーリー:ONE LOVE」(原題 Bob Marley: One Love)が日本でロードショーされました。 (主にダンスホール・レゲエですが)レゲエを聴くことが少なくないのもあり、私も公開当日に早速見てきました。 映画を見て、私が感銘を受けたことの一つに、言語の使用があります。というのも、映画全編にわたってパトワで脚本が書かれ、主演のKingsley Ben-Adirを始めとした俳優陣も基本的にパトワで演じているのです。パトワは、レゲエシーン

グライス語用論 概説 後編

北大言語学サークル所属のもけけです。 第3回の今回は、ここまで見てきたグライスの公理の問題点を指摘し、それを再検討して発展させた理論であるホーンの理論を紹介します。 グライスの公理の問題点前回までで確認してきたように、グライスの公理は、発話が字義通りの意味とは異なる「推意」を生じる仕組みについて説明を加えたという点で非常に画期的なものと言えますが、問題点も考えることができます。 第一に、公理の数です。グライスは四つの公理について「カントにならって(グライス 1998: 3

グライス語用論 概説 中編

北大言語学サークル所属のもけけです。 第2回の今回は、前回確認した「推意」の具体的な例を確認しながら、公理の逸脱の類型についても整理していきます。 前回の内容の疑問点概説書などでは、前回の記事で確認したような原理・公理・推意の内容で説明を終えている印象がありますが、個人的には「公理がどのように逸脱されるのか」を考えることも重要だと考えます。 なぜなら、前回の内容を厳密に考えてみると、次のような疑問が生じてくるからです。 すなわち、推意が生じるような発話において、あくまでも

グライス語用論 概説 前編

北大言語学サークル所属のもけけです。 全3回に亘る本記事では、文脈(コンテクスト)から得られる情報を考慮に入れた上で言語使用を研究する言語学の一分野である「語用論」の中から、その黎明期に分野の確立に大きく寄与したポール・グライスが提唱した理論を紹介し、その後の研究で再編された理論についても紹介していきます。 グライス語用論グライス語用論とは、概略、発話の意味について字義通りの「言われた事柄(what is said)」と言外に示される「推意された事柄(what is imp

パトワ(ジャマイカ・クレオール語)文法概説

ジャマイカ・クレオール語は一般にクレオールとされる言語の中でもかなり話者が多く, また私たちにとっても(特にレゲエ・リスナーにとっては)身近なクレオールです. ですが, インターネット上にその文法を解説した日本語の文章はほとんどありません. そこで, 今回は自分の学習のまとめも兼ねてジャマイカ・クレオール語の文法についてまとめていこうと思います. 内容については学習が進み次第更新しようと思っています. ジャマイカ・クレオールとは?ジャマイカ・クレオール語(Jamaica

アイヌ語 輪読会レポ #6

北大言語学サークル所属のもけけです。 本記事は、4月16日に行われた第6回アイヌ語輪読会の学習記です。 第6回では、第16課「命令文」、第17課「疑問文」、第18課「主格・目的格人称変化」の内容を扱いました。 学習内容第16課「命令文」 佐藤(2008: 128)によれば、命令文は、動詞の命令形(主格人称接辞の付いていない形)を用いて作られます。また、三人称で無標の形式からは文脈やイントネーションによって区別されます。 なお、他動詞の命令文に関しては、目的格人称接辞が付