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もう1つの故郷

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現在、連載中の「もう1つの故郷」1~11話をまとめてみました。
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記事一覧

もう1つの故郷 ⑫

目覚めるとベッドの周りを囲むように水滴がたくさんあった。 もちろん、僕の涙だ。 不思議な空間をボオ~っと見ていたが恥ずかしくなったので、 タオルに染ませてオシッコとしてカバンに入れておくことにした。 オシッコ入れは、うかつに開くと出て行ってしまうから 今回はタオルで対応した。 とりあえず、見つけた水滴を全て処理したので、朝から疲れていた。 アンダーソン中尉が僕を見つけるなり近寄って来て、 「ミスターソラマ、睡眠は取れなかったのですか? なんだか、疲れてるようですね。 相談した

もう1つの故郷 ⑪

僕らは、ロビンソン船長のはからいで、 宇宙ステーションに荷物を運び出した後の 宇宙船の運搬スペースで、船外活動の訓練をすることが出来た。 宇宙船の腹部の扉を大きく開いた状態で宇宙空間の移動手順を体験できた。 慎重な行動が必要だが、宇宙船内という安心感が違う。 空気タンクと空気ボンベに余分はあまりなかったが、 いきなり宇宙空間に放り出されるストレスを 味合わなくて済むのは、有難かった。 僕が先頭を切って、宇宙空間での道具の管理・手順・作業を体験したが、 宇宙服を通しての視界の狭

もう1つの故郷 ⑩

ジョンは僕を見るなり、殴った。 『バカにもほどがある。だが、大成功だ。 運は、お前に味方したようだ。』 お腹に激痛が走った。熊のパンチは破壊力がえぐかった。 屈みこむ僕を見て、ケンが笑う。 『キャッキャッ、ダ~。』 僕も生きてこの部屋に戻った実感がわいた。 『晴れて、お前さん達は家族になったぞ。 イエ~イ!ワハハハ。ケンイチ、お祝いだ、飲もうぜ。』 『待ってください、BB。アルコールは飲まないで。 BBには、元の隠れ家へクリスとケンを連れて戻って 貰わないと!町中には、必ず反

もう1つの故郷 ⑨

ニューヨークシティの一角のホテルで、記者会見が行われる予定で 僕はそのホテルに1部屋、リザーブしていた。 そこの部屋には8時30分に入り、会見の準備をしていた。 ピンポーン。 ‘誰だろう?’僕は、不審に思いスコープから外を覗いた。 ドアップの赤ちゃんがいた。 僕はすぐにドアを開けた。 勢いが良すぎて、おでこをこすった。 『あっつ~。』 『初めまして、ドジなお父さん。』クリスが赤ん坊を抱っこして 部屋へ入って来た。 『ジョンさんも入ってください。外にいると返って目立ちます。』

もう1つの故郷⑧

ある朝、1本の電話がかかってきた。 『グッモーニン、ケンイチ。・・・。』 クリスだった。 『クリス、何やってんだよ。何も言わず居なくなって、 1度も連絡が無いなんて・・・。』 『良く聞いて、ケンイチ。今、私、あなたの子供を 身ごもってるの。詳しい事は、子供が1歳になってから、 あなたの目の前で話してあげるわ。 だから、よく聞いて。 あなたにハニートラップが始まってる。 席を離れたら、食べ物、飲み物に手をつけないで。 全て捨てなさい。大体、睡眠薬が入ってて、 ベッドに連れて行か

もう1つの故郷⑦

1週間後に卒業を控えた夕方、 どこからも就職の案内が来ないことにイラつきながら、 クリスがくれた1万ドルとバイトの金で 食いつないでいるが、3か月後にはお金も無くなる計算になった。 そんな状況だが、 ゆっくりした時間が流れている午後の事だった。 アパートの扉をノックする音がした。 ‘トムもジェシーも、就職先から卒業式に参加するはずで ここには居ないはずだし、誰だろう?’ そんな事を考えながらドアを開けると、クリスが居た。 僕は、幻を見てるんじゃないかと目をこすった。 『お久し

もう1つの故郷①

『え~、うっそ!僕って、天才かも。』 『また、自己満足の世界かい?』 トムが両手のひらを上に向けて押すように、おどけて見せた。 『まあ、見てみろよ。タン。』 僕は、月の公転軌道の画像をplayにし、enterを押した。 『ただの月の軌道じゃん。』トムがつまらなそうに呟く。 『覚えたかい?じゃあ、次は、これだ。タン。』 僕は、火星と地球が最短距離域にある時の 月の公転軌道の画像をplayにした。 『何も変わらないじゃないか?』トムは気付かなかった。 『フフッ!』僕が自己満足の世

もう1つの故郷②

ドアが閉まるとにこやかな教授の顔が 悪魔に変わった。 「ケンイチ、ハンガーチーフの要望は、 しっかりとこなすんだ。そして、遅滞なく経過を 私に報告する事。解ってるだろうが、 妙に嫌われるように仕向けたり、 話が壊れることがあった時は、 大学を卒業できると思うなよ。」 僕の身にとてつもなく大きな災いが降り注いだ瞬間だった。 ただ、僕にしては、1つ冴えていた事があった。 緊張で会話を覚えていないと困ると思ったので、 ボイスレコーダーを録音状態にして、 胸ポケットに入れていたのだ。

もう1つの故郷③

『ようこそ、ケンイチ。どうしたの、元気ないわね。 しっかり寝たんじゃないの?』 僕にクリスが話しかけた。 彼らの中に一緒に怒られるという感覚は無いらしい。 『いいえ、クリスさん。睡眠は十分です。 食事も助かりました。有難うございます。 今からの要求が怖いんですけど・・・。』 僕は恐る恐るクリスに話した。 『初回だからチーフも気を使ってくれるわ、多分。 まずは、36時間ぐらい、チーフが求める引力の計算を 端からこなす事かな?』 ‘さすがは、チーフアシスタント。ジャブの威力が強力

もう1つの故郷④

 ボブマネージャーと僕は、チーフの背中を見送ると 話の続きを始めた。 『ようこそ、ケンイチ。お前は、すごいよ!本当に。 待遇が悪くて済まないが、そこに見えている応接セットを 使ってもらえないか? ここの連中は、自分の物を触られるのが嫌いなんだ。』 ボブはそう言いながら、5mほど先の応接セットを指さした。 僕は『イエッサー』とだけ言って、応接セットの椅子と テーブルに急いだ。有難いことにコンセントもあった。 パソコンを充電しながら、画用紙にイメージを描き落とし始めた。 1時間も

もう1つの故郷⑤

カリフォルニアのアパートに着くと僕は1番にご飯を炊いた。 真夜中だったので静かにみそ汁とおかかを作って、 帰宅の幸せを噛みしめた。 僕は目覚ましをかけて数時間の仮眠をとった。 翌日は、教授を1番に尋ねた。 教授は留守だった。僕はあと6単位とゼミの単位を取れば、 卒業だったので久々に授業に出た。 『ああ、今日は、ソラマは出席か。ギリギリだな。無断欠席の ツケは厳しいぞ。』宇宙工学のマッド教授はそう言った。 授業終了時に、僕はマッド教授に尋ねた。 『マッド教授、欠席していて、すみ

もう1つの故郷⑥

そんな感じで2週間が過ぎたある朝、ドアをノックされた。 いきなり、乱入され部屋を荒らされた。 玄関に木刀を隠していたので、乱入者を追わず、 そのまま玄関から階下に降りて、アパートの前で待っていた。 ニヤニヤ笑いながら近づく同年代ぐらいの不良男子が3人。 ‘どう見ても、査察官じゃないな。’と思い肩と脛に 5~6太刀、振り下ろした。 辺りをのたうち回ってるのを見ながら、 僕は無言で部屋に戻った。 グチャグチャになった部屋を片付けて、教授に電話をかけた。 『おお、ケンイチか、どうし