酒気帯びの人間というのは実に厄介だ——。 まずもって会話が成立しない。質問から回答に至るまで思考プロセスが平常時とは比べ物にならないくらい幼稚に成り下がる。同じ文言を繰り返し、ひたすら自分の話ばかりを口にする。それをまた繰り返すものだから、聞いている側としてはたまったものではない。 それがまして『死んだ人間からの話』ともなれば、私が辟易するのも仕方がないと言うものだろう……。 「だぁかぁらぁ〜!娘はねぇ〜ほんっとに美人でぇ〜……ヒック」 「はいはい。要は亡くなっ
お前は世界を守る選ばれし存在だ——そう言われて“勇者”なんて仕事を押し付けられたあの日は浮かれていたと思う。 たまたま道端に突き刺さった剣を引っこ抜いたのが始まりだった。それまで誰の目にも止まらなかった男がたったそれだけの理由でみんなが持て囃した。どこの町でも歓迎されるのは悪い気分ではなかったが、滑稽というかなんというか……俺なんかに手放しで期待する人だかりが、見ていて少し痛々しかったのを覚えている。 仕事は大変だ。無償の人助けが当たり前でミスはひとつも許されない。
四月と言えば、エイプリルフール——。 どこの誰が決めたんだと腹が立って調べてみたところ、インド由来の文化だとかフランスでのデモ活動の一環だったとか、日本が起源と主張する参考文献まで出てくる始末である。 まぁソースをネットに頼ったのが間違いだった。やはり情報は自分の足と根気を使って探すに限るな……。 しかし迷惑な日を習慣化してくれたものだ。『嘘を言ってもいい日』——この免罪符を片手にメディアはこぞって嘘八百を並べたて、知人から親に至るまで無責任にこちらを陥れようと
俺は街の一角で冒険者御用達の武具修理店を営むしがない老鍛冶屋だ。昼下がり、そこにひとりの少女が依頼の品を持ち込んできた。 「……………」 顧客とそいつが差し出した一本の短剣を見比べながら辟易する。なんせ鞘どころか布一つ巻かずに素っ裸で渡して来やがったんだから。 見てくれはまだ年端もいかねぇガキ。当然剣の扱いなんて知らねぇんだろう。だが身なりは軽装のくせにそれなりの装備を纏っている。おそらくは盗賊職……この獲物もどこで盗んできたのやら。そんな具合である。 しかし