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こびり付いて取れない五徳のコゲ  ~QUANTAリトリート別府 雑感③~

ミッションでまわった渋の湯やひょうたん温泉のあたりを、鉄輪かんなわ温泉というそうだ。 地名の由来は下記に詳しい。

ところが私の頭には、先に能の演目「鉄輪かなわ」があったので、鉄輪かんなわ温泉と五徳が、しゅっと結びついてしまった。

雨夜の温泉地ってちょっと幽玄じゃない?
五徳の足にろうそくをくくり付けた、丑の刻参り装束の人が出てきても、
なんか不思議じゃなくない?
まあね、このくらいアホなことを考えていないと、ホテルの広い部屋とリトリートの雰囲気にからめとられて、ウツボカズラに落ちた虫みたいに消化されちゃいそうで、コワかったんだよね。
、、って、いや、変わりたくてわざわざここまで来てるんだが、、。


私のこんがらかった感情とは全く関係なくプログラムは粛々と進み、
初体験のMOTOKOさんのエネルギーワーク。 
『えねるぎーわーく とは一体、、??』 
及び腰、でもワクワクで会場に向かう。
当然今回も、1回では辿り着けていない。


室内には結構な音量で音楽が流れている。 歌声。 時折日本語。
つい歌詞を追ってしまうので、私はBGMに言葉が入るのが苦手だ。


それにしても
いくら良いホテルで防音もしっかりしてるっていったって、
音、大き過ぎじゃない? これもワークのうち? 集中できないなぁ。

楽しみにしていた分、万全の状態で受けられないかも、とイラっとした。

 、、ん? 「イラっとした」?  


「お好きな場所へどうぞ。 ベッドも使ってねー。」 
部屋の奥へと案内され、小さな引っ掛かりはどこかへ流れた。
あちこちにヨガマットが敷かれ、ベッドは2台。 
別にどこでもいいけど、腰痛いからベッド使わせてもらっちゃおっかなー

『違う! 一人になれるとこ!』

強烈な願望が喉元に上がってきた。
と、なればもう部屋の隅、壁とベッドの間、一択!   よし、確保!!
OK。ここなら誰も視界に入らない。

好奇心旺盛だから未知のゾーンに飛び込む気は満々。
でも丸腰の自分を複数人の前で晒すのには、まだちょっと抵抗がある。
だから私自身が【見られてない】と思えたら、それでOK。
『頭隠して尻隠さず』になっててもいいの。 心理的安全、大事。
気にしなくても大丈夫かどうかは、やってみなくちゃわかんないんだし。



さてワーク開始から少し経った頃、私の頭上で電話が鳴った。  

ビクーーッ!!


ホテルの一室、ベッドサイドとくれば電話機くらいあって当然。
広いお部屋でしたからね、呼び出し音の音量もそりゃ大きい。
(あ、いや、私が一番そばにいたからそう感じただけ、、?)
そしてBGMのボリュームは下げられる気配がない。
以下、当時の私の心の叫び。

『ほら! ほーらね、電話来ちゃった! だって音大きいんだもん!
ねー、音! ちょっと小さくしようよー! ねー!
絶対隣の部屋のお客さんがフロントにクレーム言ったんだよ!
早く出ないとフロントの人も困ってるよ~!
ねー‼
あー、、でもワーク中だしなー、、
私がこんなとこにいたら、誰も電話に手は届かないかー、、
私が電話に出る、っていう立場じゃ、、無いよね?  
え? ダイジョブだよね?  期待されて無いよね⁈
気が利かないって思われてたりする⁈
ねー!
電話出ないのー?
え? 、、電話、鳴ってるよね?
聞こえてんの私だけじゃないよねーー⁈』



電話はそんなに長い間鳴っていなかった、と思う。
でもまだ動悸は収まらない。  体勢を整えて深呼吸。 
あー、びっくりした。 さ、気を取り直して、、

コンコンコン!!


『うぎゃー!!! 直接来たよ!! 文句言いにこられちゃったよ!!
うわーうわー、どーすんのどーすんの⁉
怒られるよ、怒鳴られるよ、カチコミだよ、カチコミ!!
あぁぁ!もうどーしたらいいんだ、これ!!
どうしようどうしようどうしようどうしようど、、』 


運営の方がするっと部屋の外へ出られ、ドアが閉まる。


『ああああたし生きてる‼  神様ありがとう‼』


、、なんでこんなにびびってんだ、私。  

もちろんカチコミなんかであるわけもなく、ワークにだってさして影響はなかったんじゃないかと思う。


びびりまくっておどおどしている私の足首や背中に、
時折そっと触れていくMOTOKOさんの手。
あぁ、、、あったかーい、、

少しずつ落ち着いてくる。  

私の足首にはまだその暖かい手の感触があるのに、MOTOKOさんの気配はすでに隣のベッドに移っている。
不思議。
もしやMOTOKOさん、ろくろっ首みたいに手が伸びんの?


ワークの参加者は、泣く人、笑う人、しゃべる人、と様々な反応。
私は、カチコミの一件で動揺しまくったせいか、すっかり出遅れて盛大に
損した気分。
そしてここで、さっきの イラッ が帰ってきた。

イラッ としたのは、音が大きくて集中できないからだよね。
だって、集中できないとワークを全力で味わえないもん。
うん。私、このワーク、とっても楽しみにしてた。

そっかー、私、大きい音、こんなに嫌いだったんだー、、
知らなかったなー、、



、、ん?  んん?  違うわ。  私、わかった。

「大きい音のせいで集中できない」んじゃない。
大きい音は平穏を脅かす」っていう揺るぎない経験則が、私の中で警鐘を鳴らし続けてるんだ。

幼い頃、大きい音をたてるなどの様々な「やらかし」をきっかけに始まる、明治生まれの祖父母の機嫌の悪さは、後々何か月にも渡って、私のみならず両親共々ネチネチ文句を言われ続ける状態を生み出した。
家庭内には「戦時中か?」ってほどの言論統制がしかれ、窮屈な制約を受けることによって本来の学校生活にすら悪影響が及んだ。
祖父母の機嫌が直るまでは、とんでもなく理不尽だと思いつつ、息をひそめて生活することを余儀なくされた。
なかでも「嫁が悪いからこんな孫になった」と母が責められるのが一番悔しかった。「やらかした本人を詰れ!」と怒鳴ろうとして、母にスカートを引っ張られてやめた。

これが本っ当に、全力で、嫌だった。
そしてこの状況はすでに解消されているにも拘らず、未だに私の行動や思考を抑制し続けているって事に、初めて思い至って愕然とした。
大きい音は恐怖の始まりとして、私の芯にこびりついている。

そういえば、こんなこびりつきもあった。

ウチの五徳は、手前の一部分がコゲて盛り上がっていた。金だわしで擦ってもクレンザーを使っても取れないので、もうそういうもんだと思うことにした。 きっとその部分には “前” とか書いてあったり、設置用かなんかの印がついていて、元から盛り上がってるんだわ、と勝手にテキトーな理由までつけて、さっさと磨くのをやめた。 だって取れないんだもーん。

しかし隣の五徳を見ると、どこも盛り上がっていない。
奥のとろ火用の五徳も盛り上がっているところはない。
その上、五徳には何の印もついておらず、つるっとしているではないか。
なんてこった。 まぎれもなく件の盛り上がりはコゲであり、恐らく除去できるであろうことが確定してしまった。 
しょーがない、今度は五徳を重曹で煮てコゲを取るか。

異常も常態化してしまえば、危機感が薄れて通常になってしまう。
しょっちゅう鳴りだす火災報知機と一緒だ。
思い癖 とか ワカッチャイルケドヤメラレナイ も、じわじわ時間と言い訳を利用して深く深く侵食していく。 


ワーク終了後、
「自分が思っている以上に、頭も体もぼんやりしてるからね。足元に気を付けて!ゆっくりお風呂に浸かって!」というアドバイスとともに退室。
ドアのところでMOTOKOさんから声をかけられる。
「深いとこまで行ってたね」

ええええーーー⁈
私、全然没入感なくって、不完全燃焼なんですけどーーー!!



よろよろと廊下を進んでいく仲間に、おそるおそる聞いてみる。
「ねぇ、さっき電話鳴った?」
「鳴った」
「誰か来たよね?」
「うん、来たね」

よかった。 あれは私の幻聴思い込みじゃなかった。


露天風呂は結構混んでいた。
呆けたような顔で浸かっているのは、ワークを終えた仲間たちだ。
みんなきっと、それぞれにいろんな気付きがあったんだよね。
そしてアドバイスどおり、ちゃーんとお風呂に入っている。
そんな素のみんなが、やけに可愛く、たまらなく愛おしかった。


私に山ほどこびりついている頑なな「思い込みのコゲ」も、別府温泉でふやけてゆるんで削り取りやすくなったと思う。
コゲもスネもこじらせると面倒なのは一緒。
丑の刻参りをするほど思いつめるまえに。

後生大事に抱え込んでいる「それ」、ホントにお宝?




















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