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地獄蒸しの時間 ~QUANTAリトリート別府 雑感②~

初夏の別府。
あの時間を文字にするのにはやっぱり勇気がいる。
まあそんな大層な理由があるわけじゃなく、ただの消化不良だ。
「星の王子さま」の、象を飲み込んで帽子みたいなシルエットになったあのうわばみといっしょ。 4か月以上かけてまだゆっくり消化中。
しっかり消化してからじゃなきゃ、文字にするのはやっぱり怖い。
そのくらいこの3日間は、間違いなく象よりデカくてかたかった。

王国の神殿から私に下されたご神託は
『ゆるゆるになる自分をみとめてみてはいかがでしょうか?』
のっけから超高速左ストレートがクリティカルヒット。
目が泳いでるのが自分でもわかるほどの動揺。
(そんなふうになれてたら、ここへは来てませんて)
この期に及んでこの言いよう。 ヒドイ。 やる気あんのか私。


プログラムの合間には、各グループに温泉巡りのミッションが課され、悩む暇もなく街に下りる。


例えば、渋の湯。
ここは利用時間ギリギリに、私一人で入湯。
家では毎日、共同温泉浴場に通っている私だが、それでもビビるほどの
超絶地元感。 超アウェイ。
折しも雨の夜。すぐそばには一遍湯かけ上人の像。
濛々と立つ湯けむりにオレンジ色の街灯がにじんで、さあそろそろ物陰から誰かが飛び出してくる頃合、、
いやーん、火曜サスペンス劇場みたーい!


例えば、大谷公園の足岩盤浴。
座ったお尻からじんわり焼かれる。
バーベキューの魚や肉はこういう気分なんだー、と納得。


例えば、ひょうたん温泉の砂湯。
早い時間だったためか、少しの間、私達だけの貸し切り状態。
皆できゃあきゃあ言い過ぎて、係のおじさんに注意される。ごめんなさい。
ここは自分で砂をかけるシステムで、専用の道具で溝を掘って横になる。
足にも胸にもせっせと砂を盛り上げる作業は、もはやセルフタヒ体遺棄。
いや、セルフ土葬、、?
人生初の砂湯で、半世紀ぶりのお砂場遊びを満喫。笑い過ぎて疲。


そして極めつけは地獄蒸し料理。
こんなに美味しい野菜や鯛のアラを、今まで食べたことがない。
「滋味深い」とか「素材の旨さ」とはこういうことかと。
いやもう何をどう言っても、言葉が上っ滑りして薄っぺらな感じにしか伝えられないのが悔しい。差し出された料理には有無を言わさぬ圧倒的な自信とチカラがあり、それをそのまま私にいただく。
身体の内からも外からも別府がしみこむ。  
格別。



プログラムはもちろんグサグサのヨレヨレだったので、平静を装うためにも全力でミッションに当たった、つもりだった。 
でも実際は、これまでの自分ではありえないようなポンコツ続きで、それへの動揺もまたとても大きかった。

ん? そういえば、ポンコツは家を出る頃から、もうあったよね、、?

・マップを見ながら迷子。→ 駅近5分の前泊ホテルに20分かかる。

・新幹線の乗り換えで切符(翌日の乗車券)を取り忘れる。
 → ホテルについてから気付き、慌てて駅まで探しに戻る。無事発見。

・ATMで取扱不可表示。九州では中部地方の信金カードは使えないのか?
 どこかで出金できるはず と、銀行と信金とコンビニを5軒はしご。
 → 翌朝、挿入したカードがクレジットカードだと気付く。無事出金。

・エレベーターで2階から1階に行きたいのに、何度も上へ連れていかれる。
 → ボタンを押すのが遅い のか?(下行きを確認して乗ってるハズ)

・カードキーで自室のドアが開かない。→ 部屋間違い。階間違い。

・集合場所へ1回で行けない。→ 教えてもらった道順じゃない。

・更衣ロッカーが開かない。→ 暗証番号違い。

・露天風呂で沈没。→ 湯舟で座姿勢のままバランス崩壊。頭頂まで沈下。

「なにやってんの、私⁈」 自分が一番信じられない。 ありえない!
でも待って。幸いここには「いつもの私」を知る人は一人もいない。
今はお母さんでも長女でも、妻でも会社員でもなんでもない。
誰の迷惑にもなってないし、私さえこの惨状をなかったことにすれば、
このやらかしは誰にもバレない!
そう。 これは てへぺろ ってやつだ、、!

 あれ? 私もう十分「ゆるゆる」なんじゃ、、?


象よりデカくてかたくて煮ても焼いても食えなかったのは、リトリートの内容じゃなく私自身だった。
3日掛けて別府で蒸され、じわじわ殻がむける準備が成されていく。

蕎麦も麦も、殻をむいて粉にして水を加えて練って茹でてようやく食べられるようになる。絵本「モチモチの木」の栃餅とちもちなんて、簡単に書いてあるけどすんごい手間がかかっている。

栃のアク抜き、昔ながらの方法では木灰を使うそうです。遠く縄文時代に発明された方法だとか。
参考にした記事では、木灰または重曹を使っていました。

上記 栃の実の保存とアク抜きの方法

栃の実の本懐は、種子として子孫繁栄を叶えることだろうし、簡単に誰かに食べられたりしないためのかたい殻だ。

じゃあ、私の本懐は何だろう。
長年自分で栃の実のようにかたい殻を作り、鎧として身に着けてきた自覚はある。でも鎧で守ろうとしていたものは、種子としての私でも、安易に食料とならないためでもない。
「一般的な栃の実ってこんなサイズ感でー、ぷっくりしたフォルムでー」と
よそからの要求で出来ている鎧。それは中身が痩せていたり虫食いだった時、それを周りに悟らせないようにするためのものだ。

かたい鎧を纏ったら、それはもうちゃんとしていなくてはならない。
鎧にぴったりになるように常にドリョクして、オーバーサイズもダメ。
「どんぐりの背比べ」「出る杭は打たれる」目立たないように、謙虚に。
「いい大人」なんだからポンコツなんてあり得ない!


もうええわ!

(藤井 風氏 ふう


別府の事を書くのは確かに怖かった。
でもそれは、リトリートの内容が消化できてなかったからじゃなく、
「私は「ちゃんとしてない自分」を認めちゃったぜ」と全世界に向けて
公言する覚悟がなかったからだ。

鎧着たまま別府で蒸されるのは、とてもじゃないけど無理。
ずっとこれがデフォルト、正装だとインプリンティングされてきたけど
まー、脱いだらラクよ?


もう脱いじゃえば?


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