「幻視する梅原猛、会話する鶴見俊輔」『ユリイカ 総特集=梅原猛』の執筆メモを公開します

はい、ちょうど一年前、以下の雑誌に論考を寄稿しました。

1.『ユリイカ 総特集=梅原猛』への寄稿

『ユリイカ 総特集=梅原猛』です。梅原猛の追悼号ですね。

論考タイトルは、「幻視する梅原猛、会話する鶴見俊輔:孤独、共同体、辺境」です。梅原猛と鶴見俊輔という、新京都学派の著名な二人が、ともに「ニヒリズム」や「虚無」に繰り返し言及していたことに注目しつつ、彼らがその共通性にもかかわらず、なぜ思想的・伝記的にすれ違わざるをえなかったのかを論じました。

鷲田清一がちょうど両者について「辺境」という同じ語彙を用いて論じていた文章があったので、それも組み込めたし、いい論考に仕上がったと思います。

とはいえ、それ以上に、急遽頼んだ下読みの精度が高かったことはは注記すべきことです。非常にありがたい協力でした。朱喜哲さんには、改めてお礼を伝えさせてください。ありがとうございました。

今回の記事は、原稿執筆の依頼を受けてすぐに作ったメモを公開するものです。ふわっとした雰囲気やまとまらない感じが伝わるでしょうし、それにもかかわらず、論考につながる要素がある程度出ていることもわかってもらえるかなと。

執筆に悩んでいる方の参考になればと思いました。

2.依頼を受けて作ったメモ

ここに書き出すのは、依頼を受けたときにパッと作ったメモ書きです。

実際に論考を読んでもらわないとわからないと思いますが、かなり内容は違います。

理念を志向する 梅原―梅棹(文明論)
具体を志向する 鶴見―丸山(反射→「それが理念だ」)

新京都学派という括りについて何事か述べてほしいというオーダーがあったものの、彼ら全般の明確な傾向があるわけではないので、その辺りうまいことをやれないかと考え、上のような指針を立てました。

反射云々については、鶴見の下記の本に依拠しています。

このメモを作った時点で、特に梅原と鶴見に絞ろうということは既に決めていました。梅棹や丸山は補助的に出すにとどめるということですね。

この見立てが正しいとして問題は、この違いがどこから来るのかということ。

Q. 桑原武夫から学んだものの違い?
鶴見:人や環境をどう許容するかという身振り(鬱なら休職して給料はもらっとけ/鶴見の採用を当局に納得させるために一局うつ)
梅原:ぶっとんだ面白い人を集めてくる…? スーパーマンを集めて作られた日文研(スタンドアロン、『新京都学派』)

結局、桑原武夫は登場させませんでしたね。書くうちに論点が見えづらくなると思ったのと、根拠資料を十分に用意する暇がなさそうだった(見つからないかもしれないし)ので、諦めました。

ところで、この思考メモからわかるのは、「孤独、共同体、辺境」というテーマのうち、最初に前景化したのが「共同体」だということです。

追加的にこんなメモ書きもあります。

鶴見が丸山からもらったアドバイス。読者サークル。共同体を作る。→気楽な共同体への鶴見の共感。小林トミ(「声なき声」の会のデモ)。生活綴方、書いて読まれる、読んだ人が書くという共同性。
居場所、いること。共同体の持続性、続けること。運動体の拡がり、離脱可能性、間口、教育的効果(自己変容)。声なき声の会、40人「も」いるデモ、10mでも歩こう。スパイだと疑わずに民主性を維持しながら共同体を続ける作法(ベ平連時代のエピソード)

うーむ、全然論考と違いますが、いくつかの論点やエピソードは残っているようです。

なぜ彼らが比較されねばならないかなどの論点を書き出したり(「孤独」というテーマ)、鷲田清一を使おうと思ったりする(「辺境」というテーマ)段階が、ここに示したメモに続いたはずです。

その段階は段階で、メモを作ったはずですが行方知れずに。

論考執筆に困っている方は、ぜひ完成原稿とメモを見比べて参考にしてみてください(なるのかな)

かつて役立った、死んでしまったメモを、そのまま死蔵するよりは、公開する方がいい供養にもなろうというものです。

(仕事は相変わらずあるにもかかわらず)この手持ち無沙汰の時期に、こんな過ごし方もありなんじゃないかということで。

追記:原稿執筆時期などについて

原稿執筆の具体的な時期や時間などについて質問がありました。

梅原猛が亡くなったのが1月12日で、原稿執筆依頼のメールが来たのは1月下旬か末でした。

「新京都学派全般を扱うのは無理ですよ」と断りながらも快諾し、初校は2月の最初には出来ていました。

そこから、朱さんによるコメントのフィードバックを得ながら、2月の二週目入るくらいには一応完成したという流れだったはずです。

今回公開したメモは、メールによる依頼を確認した直後、返答を出す前のものだったはずです。最初期の思考のメモですね。

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