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メモをしながら映画を観る方法:「#君たちはどう生きるか 」論の、長いあとがき

オスカー発表前に、「君たちはどう生きるか」論を書いたよ

今回は、これまでも編集を担当してくださっている方からの依頼でした。

タイミングとしては「Perfect Days」論の依頼とかでもおかしくなかったのですが、「君たちはどう生きるか」を何度も劇場で見ていたらしく、編集者は熱烈に本作を推していました。

編集者さんは、私が過去に朝日新聞で書いた「君たちはどう生きるか」論を読んでくださっていたようで、「今回はぜひ内容にもっと踏み込んだものを!」とのこと。

こっちでは、〈「開かない箱」みたいに、公開前から劇中まで、謎をバンバン提示しまくっているのが、この作品だよね~~〉という話をしています。参加型の謎解きゲームなんですよね、実質的に。鈴木敏夫の仕掛け方がそうなっていて、まんまと観客が饒舌に本作についてしゃべっていた。

そんな感じの議論を書いていて、こちらではあまりストーリーに踏み込んでいなかったんですよね。当時みんな中身についてよくしゃべっていたので、天邪鬼な私はもっと手前の話がしたくなったのです。

それが朝日新聞の方の「君たちはどう生きるか」論。まぁ確かに中身に踏み込んでいいかもな、と思って書いたのが、今回のプレジデントオンラインの「君たちはどう生きるか」論。


ところで、みなさんは、そもそもオスカー(アメリカのアカデミー賞)気にしてますか。私はあまり気にしていないのですが、何年か前に「ドライブ・マイ・カー」がオスカーを取ったとき、濱口監督がすごく興奮していた姿は、なんかよく覚えています。

私があまり意識していないことの証として、「日本アカデミー賞」という文字列を「アカデミー賞」に空目して、「アカデミー賞受賞なん?(なんか早いな…まぁええか…)」と誤認し、「アカデミー賞とった」と誤情報をツイートしてしまったくらいで。


木村拓哉という「理解ある優しい父」

今回の論考のポイントを紹介しておきましょう。

抑圧された思春期を描くジュヴナイルものとして本作みたとき、優しい父親、役割を変化させる青サギ、そして綻びのある複雑さに独特の意味が見えるね、という話。

本論を書く前に、劇場で見直したのですが、一度目は母子関係に注目しがちだったのに対して、二度目は父子関係がやけに目を惹きました。父親が結構優しいやつであることが印象に残ったんですね。

「君たちはどう生きるか」の舞台は戦中。家長がとんでもなく権力を握っている時代です。そんな中で、主人公の父である勝一は、やけに家族に気遣いのできる父親でした。

彼は時々突っ走って変なことをするけど、それも息子や妻を思うあまりのこと。基本的に理解ある優しい父なんですよね。

で、ここからが大事なのですが、息子はそういう優しくて理解ある父親には反発しづらい。反発できない対象としての父を抱えながら、苦しい青春を過ごすとはどんな感じなのだろうか。そんなことを考えながら、今回の記事を書いていました。

結論としては、反発できるときよりも息苦しいよねって感じなんですけど、まぁ詳しくは読んでください。


さて、以下では、どうやってこの原稿の準備をしたのか、メモをどうやってとるのがいいのか、そして、原稿から削った内容について書こうと思います。

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