CoCシナリオ「京都の下宿で風邪をひく」

<はじめに>

・どうも、森見登美彦作品でシナリオを書く人です。今回の「京都の下宿で風邪を引く」は、『夜は短し歩けよ乙女』第四章「魔風邪恋風邪」に触発されて作りました。テーマは孤独と信頼です(?)。

・ふと気づくと、隙間風のふく木造アパートで孤独を噛みしめながら寝込んでいる。しかも玄関開かない!トイレにおっさんいる!?みたいなシナリオです。孤独をこじらせなければ、無事に出られる気がします。

・『夜は短し』シリーズのシナリオとしては、「夜は短し飲んでは歩け」(第一章)、「夏は寂しい、古書の海」(第二章)があります。京都舞台のシナリオとして、「奇妙な京都」というのもあります。これらもぜひどうぞ。

・シナリオ制作の資料集めとモチベーション維持のため有料公開としました。無料部分だけでも、シナリオの雰囲気がわかるようにしました。

・シナリオは、重要な情報以外は、特に技能を示さず情報だけ書いているので、技能ロールありで渡すかどうかはKPの裁量で決めてください。基本的にはロールプレイで進めていいと思います。

<シナリオの背景>

プレイ人数は1人。クローズドシナリオで直前の準備は意味ありません。アパートの中で過ごすお話です。<探索系技能>は必須で、戦闘はありません。1人プレイなので、どれだけSANが減っても一時的狂気のみで処理してください(この奇妙な事態も風邪を引いて幻覚を見ているからだと理性が言い訳する、とかそういう理由です)。プレイ時間目安は、2-3時間

プレイ人数を複数にしたい場合は、互いの電話番号を覚えているということにしておき、プレイヤー同士の電話だけは通じる状態にしておいて、同時に別の「同じ部屋」を探索する(物は同じものがある)という形式にするといいと思います。

<シナリオの導入>

あなたは目を覚ますと、(旅館で見かけるような)木の天井が見えた。そこは狭いワンルームで、あなたは布団で眠っていた。がたがたと窓が音をたてており、外の風の強さを意識させた。あなたは直前の記憶がない。しかし、このことだけはわかる。

「私の下宿は北白川の東小倉町にある。廃墟に近い木造アパートで、閑静な住宅街の雰囲気をぶち壊している。どことなく『風雲偏屈城』を思わせる。私の部屋は二階の西端にあり、窓を開けると疎水沿いの並木が手に取るように見える。今はその葉も落ちて、疎水の向こうにあるがらんとした大学グラウンドが見えていた。」(p.246-7)

それ以前についてどのような記憶を持っているのであれ、あなたは、ここが「私の下宿なのだ」と感じていた。「風雲偏屈城」がなんのことかわからなくても、とにかくあなたはそう思った。それ以前の記憶の不整合もあるかもしれないが、とにかくここが自分の家であることは違いないとあなたは確信する。

我知らず咳が出る。喉が痛んでいるのがわかる。頭も心なしか重く、身体も熱っぽい。頭もぼーっとして、うまく働かない(=具体的には、このシナリオ内ではINTをマイナス2して処理します。アイデアなどの数値も、このシナリオの間だけ、それに合わせて下げることになります)。そう、あなたは風邪を引いて寝込んでいるのだった。

<部屋のなか>

落ち着いて周囲をみると、四畳半ほどのスペースであることがわかる。自室であるにもかかわらず、自室にある物やその配置は、初めて見るような心地がするものの、いざ目にすると慣れ親しんだものであるようにも感じる。電球が一つ吊るされただけなので灯りは心許なく、四畳半のスペースにもたくさんの暗闇が残っていた。嵐のように吹く風が木造アパートを揺らし、電球も少し揺らいでいた。

【布団の周辺】【窓辺】【押し入れ】【文机】、【台所兼廊下】【トイレ】【玄関】がある。前半の四つは四畳半の四角の中にあり、後半三つはその四角から出たスペースにあるイメージ。

【布団の周辺】

耳を澄ましても風と窓の音、自分の咳しか聞こえない。枕の辺りには、葱と生姜、2リットルのコーラ、冷蔵庫に入れられていないままの卵パック、ダルマ、いくつかの林檎が転がっていた。布団の足元にはコンビニの袋があり、インスタント製品がいくつか入っている。(財布、スマホ、ケータイの類はない)

それらを見つめていると、「私は一人だ」という感覚にさいなまれる。

「暗がりへ向かって咳をして、『咳をしても一人』と呟いてみた。身体が弱ったまま思案して、私はろくなことを考えなかった。入学以来決して上がらず、今後上がる見込みもまるでない学業成績。大学院へ進むという逃げ口上を高々と掲げて、先送りしただけの就職活動。機転もきかない、才覚もない、貯金もない、腕力もない、根性もない、カリスマ性もない、愛くるしくて頬ずりしたくなる子豚のように可愛げのある人間でもない。これだけ『ないない尽くし』では、到底夜を渡ってゆけまいぞ。」(p.274 一部改変)

強制で<目星>ロール。成功でも失敗でも、あなたの輝かしい未来や才能は見つからない。SANチェック(0/1)。しかし、これだけははっきり思い出した。あなたは誰かが来るのを待ち望んでいる。それが誰かは思い出せない。

「大学に入学して以来、思えば、あらゆることに思案を重ねて、踏みだすべき一歩を遅延させることに汲々としていただけの無益な歳月ではなかったか。●●さんの外堀をめぐり、ただ疲弊していくだけの今も、その状況に変わりない。多数の私が議論を始め、一切の決定的行動を阻止するのだ。」(p.277 一部改変)

自分の心の声であるはずなのに、その誰かの名前は、文字化けでもしたかのように靄がかかっている。その姿も思い出せない。しかし、万年床を立ち上がったあなたは、その誰かに会うためには、待ち望むだけでなく、こちらから「呼びかける」必要があるのだと直観した。あなたは、あなたのなかの反対するあなたたちを押しのけて、心の中で叫んだ。

「だがしかし、あらゆるものを呑み込んで、たとえ行く手に待つのが奈落であっても、闇雲に跳躍すべき瞬間があるのではないか。今ここで跳ばなければ、未来永劫、薄暗い四畳半の布団で眠り続けるだけではないのか。」(p.279 一部修正)

いよいよあなたは四畳半の海へと漕ぎ出していくことになる。(実質ここまでが導入)

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