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京都でも生活は続く。

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京都で暮らすと見られるもの。観光客の後頭部、遠巻きに人間を見つめる猫と、キノコの生えた街路樹、回収の遅い郊外の生活ごみ。
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記事一覧

不安と物語とインターネット

最近寝る前によくポッドキャストを聴いているのだが、こちらの回で、5,000円くらいする学術書が「けっこう高いんですよね」「飲み会1回分くらいですかね」と紹介されていたのがなんだかよかった。

飲み会1回分の本。なるほどね!

5,000円の本と聞くと、私はちょっと身構えてしまうのだが、飲み会1回分と聞くとぺろっと買えてしまいそうな気分になる。もちろん「5,000円もあったら飲み会に行きたいよ」とい

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プラグマティズムと非合理な情熱。学びの果ての衝動。哲学者・谷川嘉浩氏インタビュー。

プラグマティズムと非合理な情熱。学びの果ての衝動。哲学者・谷川嘉浩氏インタビュー。

「プラグマティズム」という思想をご存知だろうか?プラグマティズムは、「実用主義/道具主義/実際主義」などと訳され、近代哲学の中でも特に注目され続けている思想ではあるものの…どうにもイメージが掴みにくく、きちんと説明できる人は少ないのではないだろうか。

Less is More.では2回目の登場となる哲学者・谷川嘉浩氏。今回は氏が専門としている「プラグマティズム」について詳しく聞いてみた。自身も哲

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哲学者が、近内悠太『世界は贈与でできている』を読むと気になるところ

近内悠太『世界は贈与でできている:資本主義の「すきま」を埋める倫理学』、むちゃくちゃ話題ですよね。

かつて、この本の書評を書きました。書いたのは、株式会社キャスタリアのメディアです。

書評はかなり好意的なことを書き、批判は重要なポイントに絞りました。

なので、ほかの懸念点は削ったのですが、テクニカルな問題点をいくつか本書は抱えています。それが、本書のカギを握る映画「ペイ・フォワード」解釈です

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2021年の活動

2021年の活動報告~~~

(去年のものは下記からどうぞ)

2021年に読んだ漫画の冊数を数えてみました。漫画は、669冊でした。自分でもびっくりした……。漫画アプリも結構使っているし、再読も含まれているとはいえ、かなり物語に接してきた感がありますね。

論文やアメリカ哲学を除くと、書籍は、267冊読みました。例年よりずいぶん少ないです(例年は月30冊ペース)。

Netflixなどでみた映像

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研究紹介 2020年度版

研究者の谷川です。

研究業績、社会貢献活動については、こちらをごらんください。

0.自己紹介主たる専門は「哲学」です。ただし、哲学の知識を活かしたり、哲学で培ったスキルを汎化したり、あるいは、新しく知識やスキルを身につけたりして、やれることは何でもやるという研究スタイルを採用しています。

それゆえ、教育学、観光学、文化社会学など、複数の副専攻、複数の専門を持っています。いずれも論文等の成果を

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「幻視する梅原猛、会話する鶴見俊輔」『ユリイカ 総特集=梅原猛』の執筆メモを公開します

はい、ちょうど一年前、以下の雑誌に論考を寄稿しました。

1.『ユリイカ 総特集=梅原猛』への寄稿『ユリイカ 総特集=梅原猛』です。梅原猛の追悼号ですね。

論考タイトルは、「幻視する梅原猛、会話する鶴見俊輔:孤独、共同体、辺境」です。梅原猛と鶴見俊輔という、新京都学派の著名な二人が、ともに「ニヒリズム」や「虚無」に繰り返し言及していたことに注目しつつ、彼らがその共通性にもかかわらず、なぜ思想的・

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複雑性、家族、公共性、モノローグーー『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学するII 』丸山俊一+NHK取材班

NHKのディレクターである丸山俊一さんから、著書を頂いた。

新刊の『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する:自由と闘争のパラドックスを越えて』(NHK新書)である。

ぼちぼち思いつくままに、雑感を書いてみようと思う。ちなみに、まだ発売していないので、全世界最速のレビュー。たぶんこれが一番早いと思います。

1.NHKドキュメンタリーこれは話題を呼んだ、2020年春の番組を元にした本で、下記

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思いを重ねる、同じでなくて #うちで踊ろう

大好きなげんちゃんこと星野源がInstagramではじめた #うちで踊ろう がよかったです。

InstagramやTwitter、Youtubeなどで、このハッシュタグ、このタイトルで検索すれば、色々な人がげんちゃんの声と歌に重ねるように、楽器の演奏をつけたり、踊ったり、ハモったり、絵を描いたり、動画を重ねたり。

例えば、仲良しの三浦大知さんがさっそくコラボしています。

歌詞がほんとよいので

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未来社会を思い描くときに、人はなぜ「昔見た夢」を持ち出すのか

去年観に行ったシンポジウムがあって、そのときのメモを死蔵するのももったいないと思い、一部提示します。

タイトルの割に、深い内容があるわけではないのですが。

未来社会を思い描くときに、人はなぜ「昔見た夢」を持ち出すのか
⇒未来について、実は特に予測や仮説を持っていない
⇒正確には、未来について「疑問」を持ったことがない。必要に駆られて思い描くと、かつての夢を持ちだすのでは。

ここで、「昔見た夢

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桑原武夫による「人文科学の共同研究」(人文研の共同研究を一覧にしてみた)

このノートは、タイトルの通り、桑原武夫が人文研にてチェアとなって開催していた「人文科学の共同研究」という、当時としては先駆的な試みについて、一覧にしたものです。

「あれ、どういう順番でどんな共同研究あったっけ?」って思って調べたのですが、ウェブ上には、新京都学派とカウントされる人たちの共同研究の一覧が存在しませんでした。

なお、桑原武夫と共同研究の雰囲気が知りたい人には、こちらをご覧になること

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鯨の胃/棺から六億年後に出ることーー「植物園」(宮沢もよよ)、ピノキオ、3月のライオン

宮沢もよよさんという人の、「植物園」という曲が本当に好きで、2012年にネットで公開されて以来、毎月のように聴いています。

歌詞はこんな風に始まります。

Ah ひび割れた小瓶を投げた朝に 僕は夢をみる Ah まるで鯨の胃の中のようだ 喰らい続ける

Ahから歌が始まるという斬新さよ。

「ひび割れた小瓶」というモチーフがどこから来ているかわかりませんが、「鯨の胃の中」は間違いなくピノキ

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書評へのライナーノーツ:「どちらの日本になさいますか?――小熊英二『日本社会のしくみ』レビュー」

1.前向上お久しぶりです。いま、お久しぶりですと打とうとして、「お非才」とタイポしたので、才能のなさを感じます。ちなみに、「打とうとして」も「ウトウトして」になりました。世界は難しい。

今回紹介するのは、社会学者・小熊英二さんの『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』!

ではなく、株式会社キャスタリアの自社メディア「まなびとき」で、その書評を書いたときのメモです。

書評のメイキング

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三十一文字への追伸――穂村弘の例の短歌に寄せて

かつて『京大短歌』に寄せた、短歌評です(まぁ、エッセイとして読んでください)。少し加筆修正しました。精緻に考えれば、よくわからない箇所もあるけれど、イメージ連鎖的な文章はかつてから変わっていない。文芸誌『カラフルパッチワーク』に書いた小説に繋がるものがずっとあったのだな、と思う。

この時すでに、マフィア的なものに興味を示していることも面白い。というのも、こんなことをブログに書いているのです。(な

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【前書き】「人生で一番長い文章を書く」

前向上 この文章は、私が非常勤として行った京都市立芸術大学の四回生と修士課程の学生たちが書いた論文をまとめた冊子に、「序文」として寄稿したものです。

 学生たちは、4月から7月の授業で、論文を書き上げました。厳密には修正期間などもあるので、冊子として完成したのは、9月の終わりか10月の頭くらいだったようです。

 個別に内容に言及するには、少し学生数が多かったので諦めました。何人か特筆するのは、

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