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マッドパーティードブキュア 231

「ん?」
 女性がメンチたちに視線を向ける。そのまなざしは鋭く、どんな違和感も動揺も、浮かべた瞬間に見破られる予感がした。
「ああ、知り合いだよ」
 メンチは噓をつかずに答えることにした。嘘やごまかしは苦手だ。
「先に様子を見に行ってもらってたんだ」
「そうかい。で、あんたたちは何者なんだい?」
 女性は再び問いかけた。メンチはわずかに惑う。女性はその迷いに踏み込もうと口を開く。だが、その前にメンチが言葉を発した。
「そういうあんたは誰なんだい?」
 意外そうな目で、女性がメンチを見つめた。その目にはどこか面白がる表情も浮かんでいるように見える。
「あたしかい? あたしはこいつらのお母さんだよ」
「そのわりには随分と年を取った子供たちだけれど」
 メンチは棲家にひしめく男たちを見渡した。どう見ても女性と同じか、それ以上の年齢に見える男も混ざっている。
「女性に年齢なんか聞くもんじゃないよ」
「別に、あんたの年齢は聞いていない」
「同じようなもんだよ。それは」
 それで、と女性は笑ってメンチに尋ねる。
「今度はこっちからの質問だ。もう一回聞くけど、あんたらはなんなんだい? 何のためにここにやってきた?」
 すっと、女性の目が細くなる。口元は笑っているけれど、目元は笑っていない。メンチはじっと見返す。ズウラにも、老婆にも視線をやる余裕はない。二人とも何も言わない。メンチは口を開く。言葉を絞り出す。
「あたしたちは以前ここに住んでいた奴の使いだ」
「そうかい? それで?」
「物を探しに来た」
「なにを?」
 目線を逸らさず、女性が再度問いを投げかけてくる。威圧感に息が詰まりそうになる。
「それは……」
「失礼します」
 声が差し込まれた。野太い声だった。振り返る。先ほど茶を汲みに行った「子ども」が戻ってきたのだ。いくつかコップの載ったお盆を持っている。
「あ」
 低い悲鳴が上がった。ぱしゃりとぬるい液体がメンチの身体に降りかかった。

【つづく】

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