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マッドパーティードブキュア 213

「どういうことだ?」
 ダイナーのソファに腰を下ろしてメンチは不機嫌そうに言った。
「言った通りです」
 背の高いウェイターにオーダーを伝えてから、セエジは冷静な顔でメンチに向き直った。その顔はいくらか色を取り戻しているように見えた。店内の隔離された秩序はセエジの体調に良い影響を与えているのだろう。
「『ドブヶ丘の心臓』があれば、テツノを元に戻せるって話じゃなかったのか?」
「あくまで、『可能性があった』というだけの話です」
「なんで、過去形なんだよ」
「そのようにならなかったのだから、仕方がないでしょう」
 セエジはため息をついて首を振った。メンチは荒々しくコップを机に置く。かつんと大きな音がして、わずかにコップの中の液体が溢れた。

 獣たちを追い返した後に、メンチたちはレストランを目指して歩いた。一度話し合い、状況を整理する必要があった。
 なにもかもが交錯して混乱しているように思えた。メンチは自分の身に何が起きたのかわかっていなかった。何が起きたのか、何を受け入れたのか、どのように解釈すればよいのか。何もわからない。話して、判断してもらう方が良いと思えた。
 考えるのは苦手だ。
「苦手でもちゃんと考えたほうがいいよ」
 声がした。
「うるさいな」
「なんですか?」
 セエジが不思議そうな表情でメンチの顔を覗き込んでいる。メンチはきまり悪そうに咳払いをして「なんでもない」と答える。セエジは首を傾げてから、気にしないことにしたように言葉を続ける。
「問題は僕が想定していた形で手に入れられなかったということです」
「悪かったな」
「いいえ」
 セエジは首を振った。
「手に入らないよりは遥かにましです。そこに、あるのですよね」
「ああ」
 セエジはメンチの隣の席に置かれた斧に目をやった。メンチはきまり悪そうに斧を撫でた。
「その中にある力に上手く干渉できればよいのです」
「どうするんだよ」
「それは調べる必要がありますね」

【つづく】

 
 

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