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マッドパーティードブキュア 217

「というわけで、この本に書かれているらしい」
 レストランの机に一冊の本を置いて、メンチは言った。
 その本は図書館にあったたくさんの本と同様に、真っ黒な無個性な表紙のついた本だった。
「本当に、これに『ドブヶ丘の心臓』のことが書いてあるんでやすか?」
 ズウラが本を見つめながら言った。メンチは答える。
「わからん。わからないから持ってきた」
 司書とのやり取りを思い出しながら、メンチは言った。司書はいろいろと本をかき集めて、メンチに見せながら『ドブヶ丘の心臓』について説明しようとした。最初の5秒くらいで、メンチは理解することをあきらめて、本を持ち出すことにした。司書は激しく抵抗していたが、うまく話し合って説得して本を持ってくることができた。
「ちょっと見ていいでやすか?」
「ああ」
 ズウラは本を手に取ると、ぱらぱらとページをめくった。しばらくそうしてから首を振った。
「あっしにはちょっと難しすぎるみたいでやす」
「僕にも見せてくださいよ」
 セエジが本を取り上げた。ページをめくる。
「なるほど」
 セエジは内容を理解できているようだった。
「なにが書いてあるんだ?」
「『ドブヶ丘の心臓』の由来と、その使い方について書いてあるようです」
「どうすれば使えるんだ?」
 セエジのもったいぶった言い方にメンチはいらいらと先を促した。
 セエジはページから顔を上げないままで答える。
「ちょっと、すぐには分かりそうにないですね。かなり入り組んだ現象ですし、書き方も簡単に書かれているわけではないですから」
「そんなことあるかよ」
「すこし時間をください。解読できないというわけではないでしょうから」
 そう言うと、セエジは黙り込んで、ページに頭をうずめるように読書に没頭し始めた。
 メンチは肩をすくめる。邪魔をしない方がよさそうだ。今の段階でメンチにできることは何もない。
「おおい、すみません」
 メンチは声を上げてウェイターを呼んだ。

【つづく】

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