商業連載と個人連載の差【私見まとめ】

まえがき

こんにちは。漫画家の矢野トシノリです。
今は特定の出版社で連載せずにSNSで個人連載して生活してる漫画家です。この文章は最近知り合った新人の子に向けた内向けの文章なのですが、昨今の問題から迷う人に少しでも指針になればと思い公開することにしました。

あくまで私見と伝聞によるものですが
一応商業での連載(商業単行本発刊15冊)、個人での活動を続けている
プロ活動歴15年の感覚なので参考にしていただければ幸いです 


商業連載と個人連載の違い

お金編

【原稿料】
商業…1ページ8000円〜10000円が平均
最近では高額化の傾向。

個人…0円
当然ながら描いただけではお金にはならない。

【収入源】
商業…上記の原稿料+単行本印税(価格の10%)
大手だと電子の単話売り、広告費などもあるが
基本は上の2つのみ。
会社から支払われる。
原稿料はアシスタント代に消えることが多いので
実際のところ単行本売上がかなり大事。

個人…描いたものを同人誌化及びそれの電子版販売。FANBOX等のサイトでの支援など多岐にわたる。
会社からの支払いではなく個人で売る。

【部数】
商業…1万部出れば続刊確実。
3000部を切ると打ち切りコース。
累計10万でそこそこ。
累計100万部及び単巻10万部を超えるとほぼアニメ化確定。

個人…同人誌なら一回のイベントで1000部売れば大手。(500円の本なら500×1000で50万。会場で1000部売る大手なら委託も含むと3000部以上はいける。単価は100円くらいなので儲け多め。)

【売上】
商業…単行本売れなければ即打ち切りで借金コースに近い。(年収200万くらい)
ただし売れれば売上は青天井。(100億もあり得る世界)10万部で500万。100万部で大体5000万。100万部売れてればアニメ化も確実なのでもっと増える。

個人…自分のペースでできるのでアシスタント代や締め切りに追われず基本的に借金まではいかない。
あらゆる手を尽くして大体年収1000万いけばかなり上物。うまくやれば3000万以上も可。(エロが描けてDLサイトで当たると億もある)

【原価】
商業…機材と制作費に加えて
アシスタント代がかなりかかる。
締め切りに間に合わせるためアシスタントは必須。日給1万で5人雇えば…原稿消し飛びますね。

1人でやればそんなにかからないが
週刊は1人では無理だし 月刊でも1人はきつい。

個人…機材代と制作費くらい。
1人でやる人が多いので出費は少なめ。

(以下は同人誌に限る)
印刷費が高いのでそこそこのお金は必要。
(10万から20万)
※ただし同人誌を刷る前に人気獲得が必須なのでいきなり刷らなくても大丈夫。
また昨今は電子版販売やKindleインディーズなどの
原価なしの販売形式も増えた。

執筆編

【必要ページ数】
商業…週刊だと18〜20ページ
月刊だと16〜50ページ
(月刊の16Pだと2作以上の連載必須?)

これくらいをコンスタントに描けないと
商業作家でやっていくのは不可能。
描くページは雑誌の枠によって決まるので
まとめる力も必要。

個人…頻繁な更新が必要ではあるが
週に4ページ 月に16ページ描ければ
生計は立てられるやり方はある。

多ければ多いほど更新などでは有利だが
原稿料は出ないので注意。
筆が早い人はどんどん発表できる。

こちらもコンスタントに発表し続けないと
マネタイズは難しい。

【締め切り】
商業…もちろん毎週、毎月で存在する。
大体載っている原稿は週刊であれば2話くらい先。
月刊でも編集、製本などの都合もあるので1話以上先行している。

個人…ある意味「ない」
ただし更新頻度が多いのが有利な世界なので
毎日締め切り…という人もいる。

【締め切りの考え方】

商業…編集さんが催促してきたり、明確な締め切りが存在するので追い込まれてやる人も多い。

個人…誰も何も言わない。
ある意味自由だが更新しない作家のことを読者は忘れてしまうので
自分自身が自制して漫画描き続けないと
あっという間に忘れ去られる。

バックアップ編

【誹謗中傷、権利侵害などの対策】

商業…基本的に出版社が間に入って守ってくれる。
(ファンレター等も検閲されてる)
出版社には法務部もあるのでそういうのは安心
自分で探さない限りは直接的には少ないので
比較的心穏やかに漫画に集中できる。

とはいえ昨今の映像化などの件をみると一概にそうとは言い切れないところもある(特にメディア化が絡むと)

個人…誰も守ってくれないので
ダイレクトにくる。対策も自分でしないといけない。(この辺りが前述したネットリテラシーの必要性にもつながる)

【メディア化】
商業…(売れればという前提であるが)
アニメ化などは比較的容易。話題作なら1巻の時点で声がかかる(もしくは決定している)
出版社がバックにいるのでここは強い。
実写化に関しては出版社とはまた別のメディアが絡むので権利関係は難しくなる
※筆者はこの段階の経験はないので伝聞や世間に出ている情報などが主です 

個人…絶望的。
個人レベルからメディア化を目指すには結局
商業化(出版社から単行本を出すなど)が必要。
しかも出版社が1から育てたものではないので
基本的には消極的。ごく稀に爆売れした個人作品がアニメ化などすることもある。

広報編

【漫画の発表難易度】
商業…激ムズ。
基本的には読切→好評なら連載ネーム(3話分)→連載会議という流れだが
特に大手は少ない席を巡って実力者達が見えないところでしのぎを削っている。
週刊アシは週に3〜5日勤務 2日の休みでネーム→持込 という生活をしている人が多い。
なので漫画に人生かけてるようなレベルでないと
連載会議は突破出来ない。というか読切にも至らない。その上で読者人気も必要。
中規模ならまだ緩めになるがそれでも連載会議通すにはかなりの練度が必要。
エロだけは比較的容易に載ることができる。

個人…簡単。
なぜならSNSで発表すればいいだけだから。
なので求められる漫画力は低め。
読者から支持されればそれでよい。

【求められる漫画力】
商業…激高。
誌面を見ればわかるがそこにいる連載陣らを「倒す」ことを前提に描かなければならない。
そして商業なので「大衆」に「売れる」ものを描かなくてはならない。(でないと出版社も儲からないので)

個人…比較的低い。
もちろん高いことに越したことはないが
SNSで個々人にウケればいいので
狭い範囲でも「個人」に「刺さる」作品が描ければ
個人にお金出してくれるのでファンがそこそこな数でも存外なんとかなる。

【広報】
商業…基本的には出版社が担う。雑誌に載ることが大きな宣伝。自己アピールが苦手で漫画を描くのだけが得意な人は広報は任せられる。
(ただし最大手のジャンプ等週刊誌以外は個人でのSNS宣伝も推奨される。世知辛い。)

個人…全て自分で行う。
SNSなどでフォロワーを獲得し自らファンを増やすことが必要。自己アピール等のセルフブランディング能力やネットリテラシーが必須。(炎上したら終わりなため)
マメな更新など漫画を描く以外の広報活動もマルチにこなす必要性がある。

【知名度】
商業…基本的には雑誌はほぼ読まれていないので
単行本が出た時に世に出るくらいのイメージ。
最大手ジャンプだと読切載っただけでも大きな知名度を得ることができる。ジャンプで連載すれば漫画史に確実に名前を刻むことができるが茨の道。(理由は上記)
売れれば世間に認知されるので青天井。

個人…フォロワー数に依存する。
昨今であれば10万超えるくらいが基準レベルか?
トライアンドエラーの繰り返しでうまくバズれば比較的すぐいける可能性がある。
ただし所詮はSNSなので世間的な知名度は低め。

コミュニケーション編

【年齢の壁】
商業…ぶっちゃけ「ある」
面白ければ問わないとは言うが やはり雑誌ごとの
狙ってるターゲット層に合わない年齢になると厳しい。(少年誌なら若い方が有利。感性が近いから。なので高齢化すると青年誌に移行していったりする)
商業誌は過酷なので体力ある若い人の方が有利だしまた編集者は成長度を見込むので若い方が当然有利。

個人…ない。
ただSNSでウケるというのはそれなりに感度合ってないと厳しいかも。
ただ商業誌より壁はないと思われる。
読者にとっては成長度とかわからないし。
その時の作品が面白ければいい。

※ただし商業も個人も
漫画がダントツに面白ければ
年齢の壁は無視できる。

【作家間の交流】

商業…基本的には同じ雑誌であればライバル。
あまり会うことはない。
(謝恩会などで顔合わせるくらい)
ピリピリしてる人もいるが作品にリスペクト持ってて尊敬し合ってる人がほとんど。

個人…基本的には仲間。
相互間でリツイートしたり情報交換したりして助け合ってる印象。なので意外とコミュ力必要かも。
ただし一匹狼のように行動する人もいるし、交流が肌に合わない人もいるのでスタイルは様々。

【コミュニケーション能力の必要性】
結論から言うとどちらでもある程度必要。

商業…対編集者との対話スキル、人付き合いスキルが必要。ビジネスライクな付き合い方でいいが、
企画を通すためだったり 作品の説明だったり
色々と連絡はするのでやり取りのスキルは必要。

個人…先の作家間交流、またSNSの活動などでも必要。対編集のようなビジネス的なやり取りは少ないが人間関係は大事。

【事務能力の必要性】

商業…あまり必要としない。
漫画に集中するため他のことは出来ない(しない)人が多い。
売れれば出版社紹介で税理士付けてくれたり
権利関係の契約など
割と出版社がサポートしてくれる。

個人…めっちゃ必要。
各種マネタイズの申請、管理や
同人をやるならイベント申込、発注、企画、作成、広報、入金、配送手配などなど…全て自己責任でやらなくてはいけない。
売れれば当然税理士さんなども必要だが自ら探す必要があるので選び方が難しい。
権利関係も自らで管理する必要があるので知識が必要。

まとめ

【まとめ】
商業…息をするように漫画描くのが得意なマンガモンスターで、それ以外は全て他に任せたい人向け。死ぬほど忙しくても漫画描きたい人向け。業界トップを目指すならこちら一択。お金にこだわりがない(もしくは超大金が欲しい)人向け。一発逆転、アニメ化したいならこっち。
売れた時と売れない時の差が激しい。
100億と200万の世界。(合間もいるけど極端に言えばこういう構図に近い感覚)

個人…そこそこの漫画能力で漫画で食べていきたい人向け。高い漫画力を求めない代わりに他のことは全てやるくらいのマルチ能力が必要。
忙しさは商業より緩めだが自制心が必要。
個人アピールなどのセルフブランディングができる人はこっち向き。
業界トップになるのは難しい。がそこそこで生きたい人にはよさげなのはこっち。
出入金がシビアになるので金銭管理が苦でない人向け。そこまで爆発的には売れないがうまくやればそこそこは売れる。
うまくやれば500万から1000万くらいが多い世界。

あとがき

自分は商業でバリバリにやれなくて個人でやっている作家ですが
比較的ストレスなく伸び伸びと漫画描けてると思います。

とはいえいきなり個人よりは一度は商業を体験したほうが
よりよいのではないかなというのが私見です。
特に若いうちはまず頂点目指して挑むのも大事かなと。


以上! 少しでも参考になれば幸いです

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