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就活ガール#295  給料は会社と職種で決まる

これはある日のこと、ゼミ室まで就活相談に来た時のことだ。ここは本来は研究をしたり卒業論文を書いたりするための場所であるが、俺にとってはアリス先輩に就活相談をする場所となっている。

「こんにちは。」
「こんにちは。」
「就活の相談いいですか?」
「ええ。」
そっけない挨拶をして、さっそく本題に入る。今日聞きたかったのは、お金を稼ぐ方法だ。これは就活生、いやこの国で暮らす一般庶民なら誰もが気になるところだと思う。

「すごく率直に言って、お金ってどうやったら稼げるんですかね。」
「私よりも社会人に聞いたほうがいいと思うけど……。」
「そうなんですけど、なかなか社会人の知り合いはいないですし、アリス先輩ならいろいろ詳しいんじゃないかと思って。」
「ふーん。まぁ私が知ってる範囲のことでいいなら答えるわ。」
「ありがとうございます。」

「まず前提として、ここでいうお金を稼ぐっていうのは給与所得のことでいいわよね。相続とか、資産運用とか、あるいは自分で事業を起こすみたいなのはナシっていう意味よ。」
「はい。実家は普通の家庭だし、資産運用の元手はないし、起業はリスクが高そうなので今のところ考えてないです。なので、お金を稼ぐっていうのは言い換えると給与や賞与をたくさんもらうという意味です。」

「そういう意味では、平均年収が高い大手企業に入ること、これだけね。」
「それはわかるんですが、その中でも出世しやすい人とかって決まってますよね? あるいは、俺みたいなFラン生が大手に入っても出世できないから、あえて中小企業にいくという考えもあると思います。」
「ないわね。」
「ないんですか……。」

「結局、給料は個々人の頑張りではなく、その会社がどういう給与制度になってるかで決まるのよ。ここを理解していない就活生が多すぎるのよね。意図的に目をそむけてるようにすら思うわ。」
「うーん。そう言われるとあえて別の方法を探してるというところはあるかもしれません。コンサルとか商社とかに入ればお金を稼げるのはしってるんですが、それを理由にあまり興味のない業界を志望するのって、なんかあまりにも夢がない気がするんですよね。もっとこう自分の努力で道を切り開いていきたいというか……。」

「もう少しスケールを大きくしたり小さくしたら、現実が見えてくる気がするわ。」
「どういうことですか?」
「例えば、アフリカで超優秀だったとして、年収2000万円とか稼げると思う?」
「思わないですね……。まぁサッカー選手になるとか、そもそも王族に生まれるとかすれば別だとは思うんですけど、今回は会社員という前提での話ですし。」
「そうよね。逆にスケールを少し小さくすると、同じ会社の中で四国や九州の支店でほそぼそと地元の中小企業に営業をかける部署に配属された人が出世コースに乗れると思う?」
「それも思わないですね。やっぱり本社で会社への影響度の大きい業務をした人が出世すると思います。」
「でしょう。それと同じことなのよ。」
「たしかに、アフリカに住んでる人がお金を稼ぎたいって言ってたら、まずはアメリカとか中国に行くよう勧める気がします。」
「ええ。こういう話だと誰もが納得するのに、なぜか小売りや外食みたいな平均給与の低い業界・職種で頑張ってお金を稼ごうとする人が後を絶たないのよね。こういう人たちはもう少し自分を客観視して、言っていることのおかしさをしっかりと自認した方がいいわ。」
「きびしい……けど、それが事実なんでしょうね。」
「ええ。だから、まずはとにかく平均年収が高い企業に入ること。これが稼ぐための唯一かつ最大の条件よ。」

「唯一なんでしょうか。さっきも言いましたが、ベンチャー企業などで幹部になるのはダメですか?」
「基本的にはダメでしょうね。まずは入りたい企業の取締役報酬を調べるといいわ。まぁ公開してないし教えてくれないことが多いと思うけど、1000万円前後の企業が多いでしょうね。ということは、従業員はそれよりも安いことが多い。まさか『弊社には役員よりも給料貰ってる従業員がいます』みたいな宣伝文句を信じてるわけではないでしょう?」
「うーん。1000万円でももちろん多いんですが、大手企業の平社員とか課長クラスでももらえそうな金額ですね。ということは、大手企業だとわりと誰でももらえる気がします。」
「ええ。少なくとも会社員として誰かに雇用されて働くという枠組み内においては、鶏口牛後というのは嘘だと思ったほうがいい気がするわね。」
「そもそも会社員をやってる時点で全員が牛後のほうですもんね……。」
「うん、そういうことね。本当に人の上に立ったり独立して自分の道を歩みたいなら起業や個人事業主を目指せばいいし、それを目指すなら大企業経験の方が活きるでしょうね。」

「そうなんですか? ベンチャー企業とかで経営陣の間近で経営を勉強したほうが将来の起業に活きると思うんですけど。」
「もちろん、全く無価値とは言わないわ。でも私はあまり賛同できないわね。」
「なぜですか?」
「まず、夏厩くんが何らかのビジネスで起業するとするじゃない。業種にもよるとは思うけど、基本的には取引先は大手企業よね?」
「あ、そっか。取引先の内情がわかってるほうが得ですもんね。」
「そうなのよ。例えば小売業だったら大手の卸売り業者や流通業者がどういう思考回路で値段を決めたり商品を世に送り出してるかっていうのがわかっていた方が得だと思うわ。」
「BtoBビジネスはもちろん、BtoCビジネスでも大手企業と関わらない方が珍しいですもんね。」
「ええ。結局は大手企業が市場を作ってるっていうケースが多いからね。ベンチャー企業がこじ開けた新規市場も大手が参入して先駆者が潰れていくなんていうのもよく見るし。」
「最近だとQRコード決済とかがそうでしょうか。」
「そうね。今では後から生まれた大手企業のものがほとんど市場を寡占してしまったわね。」

「そう考えると、いずれにしても大手企業に就職するのがよさそうですね。」
「もちろん、中小企業でも平均年収が極めて高い企業とかもあるから、なんともいえないけどね。」

「はい。それ以外に給料を稼ぐ方法はありますか?」
「うーん。会社だけでなく、職種についても同じことがいえると思うわね。」
「つまり、稼げる職種とそうでない職種が決まってるってことですか。」
「そういうこと。わかりやすい例だと、接客業とかは一般に稼げない職種と言われてるわよね。」
「はい。アルバイトが多い職種はそういうイメージあります。」
「逆に稼げる職種でいうと、理系の職種全般ね。」
「やっぱりそうですよね。研究職はもちろんですけど、システムエンジニアとかもなんだかんだ稼げてる気がします。」
「ええ。成り手が少ないし、給料の上限が高いのよね。だからもちろん安月給で働いてる人もいるけど、どんどん転職して給料アップが見込めるわ。」
「あ、そっか。稼げる職種だと、同じ職種で転職しやすいですもんね。」
「そうそう。」

「文系だとどういう職種がおすすめですか?」
「経理や財務などの会計関係、それから法務ね。この辺は人手不足が深刻だわ。」
「うーん。たしかにいずれも文系ですが、高度な専門知識が必要という意味では理系に近い気がします。」
「いいところに気付いたわね。結局、稼げる人は高度な専門知識を身に着けてることが多いのよ。で、理系分野とか会計分野だとそれが目に見えてわかりやすいっていうだけね。」
「逆に営業職とか企画職だとわかりにくいですけど、実際は外部に説明するのが難しいだけで専門性が高いものもありますよね。その辺をうまく社内でアピールできれば給料があがるし、社外にアピールできれば転職機械に恵まれるってことでしょうか。」
「ええ、そういうことよ。例えば自動車メーカーにばかり営業をしていたら自動車ビジネスに詳しくなったとか、業界の大物とコネクションができたとかね。」
「文系で特に専門知識のない俺が目指すとしたらそういうポジションが現実的な気がしてきました。」
「そうね。頑張って。」
「今日もありがとうございました。」

アリス先輩に礼を言って、話を終えた。今日は会社員の立場でどうやってお金を稼ぐかについて話を聞くことができた。結論として、個人の努力はもちろん、それ以上にどういうグループに属しているかが重要だということがわかった。どういう企業でどういう職種になるのかはよく考えた方がよいだろう。企業や仕事を選ぶ基準は給料が全てではないとはいえ、後から稼ぎたいと思ってももう手遅れだということも多いと思う。そんなことを考えながら、一日を終えるのだった。

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