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就活ガール#247 ガクチカと自己PR

これはある日のこと、キャリアセンター前のカフェでエントリーシートを書いていた時のことだ。集中してパソコンに向かっていると、突然聞きなれた声が聞こえた。

「あら、音彦じゃない。」
「あ、美柑か。」
白々しく挨拶をしてみたものの、実は登場を期待していた。相談したいことがあったので、わざわざよく美柑と遭遇するこの場所を選んで作業をしていたのである。

「ちょっと相談したいことがあるんだけどいいか?」
「いきなり? まぁいいけど。」
「自己PRとガクチカってどう違うのか知りたいんだ。」
「なるほどね。たしかに境目は曖昧だと思うわ。」
「だろ。だからこそ多くの企業ではどちらかしか聞いてこないんだと思う。でも、両方聞いてくる企業もそれなりの数あるんだよ。ということは、別のエピソードが必要ってことだろ?」
「当然、同じ話を繰り返しても意味がないでしょうね。わざわざ違う聞き方をしているということは、違う答えを求めているということよ。」
「だよな。俺の場合は課外活動がバイトくらいしかないから、困ってるんだよ。サークルとかボランティアとかインターンとか留学とか、そういうのがないんだ。」
「それは重要な問題ではないんじゃないかしら。」
「え、自己PRとガクチカで違うエピソードが必要って話をしたばかりだろ。」

「エピソードの定義が間違ってるんでしょうね。どちらもアルバイトの話で、別々の話をすればいいだけよ。」
「まぁそれはわかるけど、それでもやっぱり『この人バイト以外やってないのかな?』って思われるだろ。」
「もしそう思われた場合は、サークルはやっていないのかとか趣味はあるかとか別の話を振ってくれるだろうから、それに乗っかればいいだけよ。」
「聞かれるまではバイトの話だけで十分ってことか? なんかもっと幅広くアピールした方がいい気がするんだけど……。」

「いい? これは重要というか、自己PRとガクチカの違いは何かっていうそもそもの質問の答えでもあるんだけど、エピソードはスキルを示すための裏付けに過ぎなくて、大事なのはスキルのほうなのよ。もちろん、ここでいうスキルっていうのは英語が上手とかプログラミングができるとかっていうような技術的なものだけでなく、『主体性がある』みたいなポテンシャル要素も含んでるわよ。で、エピソードそれ自体にはほとんど価値が無いと思っていいわ。」
「わかるようなわからないような。」
「ガクチカってのは学生時代に力を入れたことでしょ。」
「それは知ってるが……。」
「つまり、エピソードなのよ。自己PRはスキル、ガクチカはエピソード。」
「あ、そういうことか。あれ、でも待てよ。」
「なによ。」
「自己PRをするときも、結局それを裏付けるエピソードを話すだろ。自分にチャレンジ精神があるとだけ言っても信じてもらえなくて、それを裏付けるエピソードが必要になる。そのエピソードって、つまりガクチカなんじゃないか?」
「いいところに気付いたわね。概ねその通りよ。だからこそ、自己PRとガクチカを両方聞く企業が少ないんでしょうね。結局同じところに行き着くから。」
「だよな。逆にガクチカを聞かれても、最終的にはそれを通してどういう能力を身に着けたかっていう自己PRに近いまとまり方になることが多い。」
「ええ。」

「ガクチカと自己PRの違いは理解できてきたぞ。でも、それだとますます両方を聞く意味がわからんな。厳密に言うと違うものだとしても、どちらかを聞かれた時点で両方を答える必要があるってことだし。」
「そうね。結論としては、自己PRを二つ聞かれていると思えばいいと思うわ。主にアピールしたいことを自己PRの方で書いて、ガクチカはサブアピールを匂わすのが良いんじゃないかしら。」
「匂わす?」
「よくガクチカの最後に、『〇〇能力を身に着けたので、これを御社でいかしたいです。』とかってつける人いるでしょう? あれは基本的に不要だと思っていいってことよ。」
「え、そこまでがテンプレの一部じゃないのか?」
「あれを言うと押しつけがましいのよね。そもそも綺麗な日本語で適切な説明ができていたら、その一言がなくてもどういう能力を持っているかは相手に伝わるのよ。」
「それもそうだな。仕事でどう活かせるかとかって話も社員である面接官の方が詳しいと思うし、学生がわざわざ想像して語るようなことでもないか。」
「ええ。それが聞きたければ自己PRとかキャリアプランとかを聞くんじゃないかしら。ガクチカを聞かれた場合はあくまでもガクチカを答えればいいのよ。ただし、それを通して自分の有能さが伝わるようなエピソードを語らないといけない。私はそれを匂わせるって呼んでるわ。」

「ありがとう、理解できた。あともう一つ疑問なんだけど、自己PRとガクチカで2つ別のエピソードがなければどうすればいいんだ? 例えばアルバイトしかやってない人は、アルバイトという枠組みの中でひたすら違う話をし続けるしかないってことだと思うけど、実際問題としてはやっぱりキツいだろ。」
「キツいけど仕方ないじゃない。嫌ならサークル活動をしたり留学に行ったりしておけばよかっただけでしょう。」
「まぁそうだけどさ……。」

「さっきも言ったけど、自己PRでアピールするのは、例えばチャレンジ精神とか柔軟性のようなスキルの話でしょう? で、自己PR以外の質問、例えばガクチカであっても結局は自分を売り込む必要があるのは同じ。」
「うん。面接ってのはそもそも自己PRをする場だから、自己PR以外の質問であっても自己PRに繋がるようなことを言わないとダメだよな。」
「ええ、そうね。面接官に伝えるべきこと、言い換えると採点項目と言ってもいいわね。その採点項目は、『主体性』とか『ストレス耐性』みたいなスキルベースで設定されていることが多いわ。『バイト経験』みたいな感じでエピソードベースで決まっている採点表はほぼ存在しないと言っていいんじゃないかしら。」
「なるほど。つまり、主体性やストレス耐性が伝わるのであれば、エピソードはなんでもいいってことか。」
「ええ。いわゆる強いガクチカっていうのはそれが伝わりやすいっていうだけで、別にガクチカ自体が重要なわけじゃないの。だから別に趣味の話でも問題ないと思うわ。ただ、第一印象で悪くなりすぎるような趣味を選択すると損だから、せめて人に言える趣味の一つくらいは作っておきなさいよ。」
「わかった。」

「あと、これもさっきから言ってることの繰り返しになるんだけど、同じバイトの話であっても主体性を発揮したエピソードとリーダーシップを発揮したエピソードとストレス耐性を発揮したエピソードは全く違うでしょう?」
「主体性を発揮して自ら新しい業務を行ったエピソードとか、リーダーシップを発揮して後輩を指導したエピソードとか、いろいろ横に話を広げるってことだよな?」
「ええ、そうよ。そんな感じで一つの取り組みから複数のエピソードとスキルの話ができるよう準備しておくといいわね。」
「なるほど……。『ガクチカはバイトの話で、主体性をアピールする。一方で自己PRはサークルの話でストレス耐性をアピールする。』みたいな区分の仕方がそもそもおかしいってことだな。」

「その通りよ。バイトの話から主体性に繋げたり、ストレス耐性に繋げたり、色々できるようになっていた方がいいわ。そして、サークルの話からも主体性の話に繋げたり、ストレス耐性に繋げたりできる方がいい。」
「結局同じアピールに繋がるなら無駄じゃないか?」
「いいえ。複数の場面で同じスキルを発揮していたら再現性があるってことの証明になるから。」
「なるほど、それもそうか。それに、面接官がやたらバイトの話に食いついてくるときとかもあるしな。」
「そうそう。そういう時にバイトだから主体性の話をしようと思ってひたすらそればかり話してても、総合点数では高くならないわ。面接官が一つの取り組みについてを深掘りしたいタイプであっても、様々な取り組みについて幅広く聞きたいタイプであっても、どちらでも対応できるようになっている必要があると思うわね。」
「わかった。ありがとう。」

そこまで話したところで会話を終えた。今日は、ガクチカと自己PRの違いについて意見を聞くことができた。ガクチカはエピソードであり、それによって裏付けられたスキルが自己PRになるという考え方には納得ができた。そして、アピールしたいスキルの裏付けとなるエピソードは複数あったほうがよいに決まっている。エピソード自体が重要というわけではないというのは正しいと思うものの、そうはいってもひたすら同じ話を繰り返しているだけでは説得力のある自己PRにはならないだろう。いろいろな切り口で自分をアピールできるようネタ探し、ネタ作りをする必要があると思いながら、一日を終えるのだった。

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