見出し画像

就活ガール#263 転職は就職以上に情報戦

これはある日のこと、バイト先のコンビニで店長の薫子さんと雑談をしていた時のことだ。

「薫子さんって、この店を開く前にも転職してますよね? どうして転職しようと思ったんですか?」
「給料を増やしたかったからよ。」
「もちろん人にはよると思うんですけど、薫子さんみたいに社内で評価されていた人の場合、一つの会社で働いてるほうが給料増えやすかったんじゃないですか?」
「別に私は社内で特別評価されてたわけではないけど、それはおいとくとして……。長くいた方が評価されるっていうのは今時ほとんどないわよ。やっぱり転職するのが最も簡単に給料が増えるわ。というか、今の仕事より給料が低い会社には転職しようと思わないから、転職して上がるのは当然よね。」
「たしかに、わざわざ給料低い会社に移ろうとは思わないですね。今現在がほどのブラック企業とかだと別ですけど、一度稼げていた金額が稼げなくなるというのは生活水準を保つためにも難しいと思います。」

「ええ。だからダラダラと何年も転職活動をして、良いところに受かれば転職するって人が多いわ。」
「何年も、ですか……。」
「ダラダラとっていうのもポイントよ。就活みたいに集中して短期間でやるものじゃないの。ずっとアンテナを張り続けて、よい求人があれば応募するっていう感じ。不動産売買とかに近いわね。転職エージェントとかが応募を焦らせてくるけど、無視していれば問題ないわ。」
「あ、そうか。新卒と違って定期的に確実に募集があるわけではないですもんね。企業が募集していたとしても、中途採用はポジションごとの差異ようだから、狙ってる職種が募集してるとは限らないですし。」
「そうそう。だから新卒採用よりも自主的に情報を収集することが求められるわね。会社説明会とかもないから大変よ。」

「え、説明会がないんですか。」
「当然でしょう。人によって入社タイミングが違うんだから、会社としては面倒でやってられないわ。」
「たしかに言われてみるとそうですね。ということは口コミサイトとかを頼りにするしかないんですかね。」
「あとは口コミね。新卒の頃と違って、同年代の友人がいろんな会社で働いてるでしょう?」
「なるほど。他にも、元同僚が同じ会社に転職してたりもしそうですね。だいたいの場合、近い業態の企業に転職するでしょうし。」
「そうそう。いずれにしても口コミ情報やインターネットの情報、それから有価証券報告書のような定量的な情報が記載されているものを参考にするしかないわ。選考フローに関する情報とかもほとんどわからないし、適性検査も新卒用と中途用では違うものが使われるから解答集なんかが役に立つとは限らない。手探りで進めるしかないのよね。」
「難しそうです。」
「まぁ社会人になると当たり前のようにそういうことをするし、仕事をしてる上でどの企業がいい企業なのかっていうのもなんとなく耳に入ってきたりするから、そこまで心配いらないわよ。もちろん、ある程度大手企業への就職、転職を前提とした話ではあるけど。」

「そうすると、やっぱり最初に入社する業界や職種は重要そうですね。」
「そうね。」
「最初に入社すると転職に便利な業界ってありますか?」
「あるわよ。まずは人材業界。」
「意外です。人材業界ってわりとブラック企業が多く、あまり専門知識を使わずに法人営業するスキルしか身につかないと思ってました。」
「人材業界出身の人が転職しやすい理由は、何よりも労働市場に詳しくなるからなのよ。どういうタイミングでどういう立ち振る舞いをすれば転職できるかというのが明確になるの。それに、どの企業がホワイト企業だとかどういう選考フローだっていうのも、それぞれの企業を担当してる同僚からの口コミで簡単に手に入ったりするし、とにかく情報戦で圧勝できるわ。」
「なるほど……。たしかにリクルート出身の人ってあらゆる業界に転職してる気がしますね。」
「ええ。あれはリクルート出身者が優秀というのももちろんあるんだけど、それ以上に、情報戦で圧勝してるからというのが大きいわ。」
「ということは、人材業界の中でもある程度大手企業じゃないとダメですかね?」
「ええ、もちろん。大手企業の方が有利なのはどの業界でも共通よ。人材業界だって、大手の人材会社じゃないと大手企業と付き合いが少ないことが多いから、転職したいと思うような企業の情報は入りにくいでしょうね。」

「他に、転職市場で有利になる業界や職種はありますか?」
「最近だとコンサルとかシステムエンジニアね。この辺のスキルはどの企業でも求められてるから転職先が幅広い。コンサルは優秀な人が多いし、システムエンジニアは需要が年々増えてる職種だから、いずれも市場価値が高いと言えるわ。」
「どの企業でも求められるスキルといえば、経理とか法務とかもそうっぽいですね。」
「そうね。ただ、実際は経理や法務でも事業規模や業界によって微妙に商慣習が違ったりするから、他業界に行くのは簡単とはいえないわ。もちろん比較的楽な職種ではあるんだけど。」
「そうだったんですか……。」
「あと、バックオフィス系はそこまで枠が多くないのよね。各企業に何百人も在籍してるような職種じゃないでしょう?」
「たしかに……。」

「とはいえ経理と法務は最近人手不足が顕著だから、今は比較的転職しやすい時代と言えるわね。今後どうなるかはわからないけど、今のところ大きく状況が変わるようには見えないわ。逆に、人事や総務はわりと誰でもできるし、枠が狭いし、バックオフィス系の中では今後も転職が難しい状況が続くんじゃないかしら。」
「人事とかって面接得意そうですけど、そもそも枠が小さいと仕方ないですね。」
「ええ。それに、採用担当以外の人事もたくさんいるしね。あとは、人事は基本的に会社が好きというか、会社に対して過度な期待をしている人が少ないから、転職する人が多くないのよ。だから枠が空きにくい。」
「転職しても幸せになれるとは限らないっていうのを知ってるんですね。」
「そうね。多くの会社員が転職に夢を見るんだけど、人事はある程度現実をわかってる気がするわ。」

「少し話が変わるんですが、転職を前提とすると、どういう就職先を選ぶのが良いでしょうか?」
「まずは残業が少ないことね。」
「やっぱりそうですか。」
「ええ。転職活動っていうのは、今の仕事を辞める前にしないとだめなの。1週間でも間があいてると不利になるわ。だから、転職活動をする時間が取れないような仕事だとそれだけで大きなハンデね。」
「新卒と違って土日に面接とかしてくれることは少ないでしょうから、有給の取りやすさとかも重要そうですね。」
「そうね。あるいは仕事中に一時的に離脱して面接を受ける人も最近は増えてるわ。特に在宅勤務だとやりやすいんじゃないかしら。」
「なるほど。子育てとかで一時的に離脱する人もいると思うので、別に面接で抜けても不自然ではないですね。」
「ええ、もちろん転職が正式に決まるまでは、今の会社には内緒にしておいた方がいいけどね。」
「はい。」

「他には、年収が高いことね。」
「今の年収を転職後も引き継ぐんでしたっけ?」
「ええ。これは重要なんだけど、転職用の求人票にかいてある想定年収っていうのは、この金額で雇いますという意味だけではないのよ。」
「どういうことですか?」
「今これくらいの金額を稼いでいる人を探していますっていう意味ってことよ。」
「なるほど……。今500万円しか稼いでない人が、800万円以上の求人に応募しても、書類で落とされやすいっていうことですね。」
「そんな感じね。転職先から見ると、今の年収っていうのは他の会社がお墨付きを与えた市場価値っていうことになるから、それを大きく上回る金額を出すという判断はしづらいわ。」
「はい、わかります。今と同じ金額だと転職しようとは思わないはずなので多少の上乗せはあるとしても、大きくは年収アップできないっていうことですよね?」
「ええ。あとはもう今更だから語らないけど知名度も大事よ。」
「はい、それはわかります。今日も色々とありがとうございました。」

そこまで話したところで会話を終えた。今日は、転職活動において情報を集めることの大切さについて学ぶことができた。転職活動は、就職活動以上に情報戦だ。同業他社などとの付き合いがあることは、転職で大きなアドバンテージになるだろう。そういう意味では、俺が志望している営業職は、取引先を介していろいろな企業の情報を聞くことができるので、悪くないのではないかと思った。そんなことを振り返りながら、今日も一日を終えるのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?