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就活ガール#288 社長と会社

これはある日のこと、バイト先のコンビニの店長である薫子さんと雑談をしていた時のことだ。

「薫子さんって、社長なんですよね?」
「私の場合は個人事業主ね。とはいえ一般論として、フランチャイズだと法人化してオーナーが社長をやってるというケースは珍しくないわ。」
「なるほど。フランチャイズでもいろいろあるんですね。」
「ええ。それがどうしたの?」

「就活をしてるとたまに社長が説明会に出てきたりするんですけど、働き始めてから社長と関わる機会ってどれくらいあるのかなって思って聞いてみたんです。」
「なるほどね。うちみたいな小さな会社だとあると思うけど、大手だとほとんどなさそうよね。」
「ですよね。大手って言っても別に何千人、何万人いるような会社でなくてもそうだと思うんです。数百人程度、下手をすれば数十人程度の会社ですら、社長とはすれ違う程度だったりするんじゃないでしょうか。」
「部署にもよるけど、そんな感じでしょうね。ちなみに大手だと社長とすれ違うことすらないわよ。」
「同じビルにいないっていうことですか?」
「一応いるんだけど、社長室みたいなところに隔離されているの。稀にお手洗いや喫煙室で会うことはあるかもしれないけど、社長室のあるフロアは一般社員は秘書とかしかいないケースも多いから、なかなか珍しいわね。」
「そうすると、あとはエレベーターとかですか。」
「役員は専用エレベーターがあるケースが多いわ。」
「そうなんですか……。結構距離を感じますね。」

「役員を尋ねてくる来客は、大物であることが多いのよ。社長とか、政治家とかね。」
「あ、なるほどわかりました。社長が偉そうにするために専用エレベーターがあるというよりは、大物客をもてなすために必要だからあるっていう感じなんですね。」
「一応建前としてはそういう設置理由になることが多いけど、実際は偉そうにするためかもしれないわ。」
「人間って出世すると偉そうにしたいものなんですかね。何か嫌だなぁ。」
「必要以上に不快感をばらまく必要はないんだけど、特別感や威厳を保つというのも実は結構必要なのよ。」
「社長がフレンドリーすぎると舐められるからですか?」
「それも理由の一つね。」
「他にもあるみたいな言い方ですね。」
「他の理由としては、社員のモチベーションを上げるためね。はっきりと口にする人は少ないけれど、偉そうにしてみたいとか、周りに尊敬されたいとか、そういう願望を持ってる人は少なくないわ。」
「ああ、わかります。特に男性にはそういう人多い気がしますね。」
「でしょう。だから、頑張って働いて出世するとこんないいことがあるぞという様子を社員に見せつけるのも管理職の役割なのよ。」

「そういえば課長クラスの中間管理職が一番大変そうって話とか、名ばかり管理職の過労死問題とか、そういうのが出始めた時期と、若者から出世欲がなくなった時期って一致しますよね。」
「そうそう。加えて言えば、パワハラやセクハラの概念が広く浸透し始めたのも同じ時期ね。」
「そう考えると、昔は良かったって話になるんですかね?」
「個人的にはそうは思わないけどね。昔よりも今の方がゆるく働けるもの。管理職が威張れないわりに忙しくて大変ってのは問題だと思うけど、そもそも管理職だからって威張っていいという方が異常な状態よね。」
「まぁたしかに、それはそうですね。とはいえ、競争本能を掻き立てて従業員のモチベーションをあげるためには、何らかのメリットが必要だとも思いました。」
「そうね。給料が高いっていうのが最もシンプルかつ従業員の要望に応えたメリットだと思うけど、そうなってない会社もまだまだ多いわよね。」

「はい。あと、別に威張らなくても社長が尊敬されてる会社とか、社外でも有名な会社とかってありますよね。」
「あるわね。経営者としての腕が認められてるパターンとか、メディアへの露出が多いパターンとかかしら。」
「はい。そういう会社って人気だと思うんです。もちろんメディア等では良いところだけ見せてると思うので実際は悪い部分もあるとは思うんですけど、それでもかっこいいと感じる場合が多いし、何よりオープンで風通しがいいと思うんですよね。」
「ベンチャー企業はわりとそういう会社が多いわね。」
「はい。とはいえベンチャー企業に入りたいとは思わないんですが、たまに大手企業でも社長がSNSをやっていたり、社会的に有名だったりする企業が多いじゃないですか。例えばソフトバンクとか楽天みたいなIT企業には多い気がしますし、ファーストリテイリングとか日本電産の社長だって誰でも知ってますよね。もちろんトヨタとかもそうです。」
「そうねぇ。たしかに今名前が挙がった企業の社長はいずれも有名ね。そして、優秀な経営者というイメージも強いわ。」
「ですよね。まぁこの辺の人たちは会社説明会に出てこないと思いますが……。」
「説明会で社長に会いたいんだ?」
「はい。」
「どうして?」
「会社全体が社長の影響を受けてるかと思うからです。」

「うーん。それは多くの会社でそうなんだけど、個人的には、社長のキャラクターに依存している会社にはあまりいいイメージがないわね。」
「後継者問題的な話ですか?」
「ええ、それも理由の一つね。特に社長が高齢なのに副社長以下が育っていない場合は要注意よ。次期社長候補を育てていたけど『やっぱりまだ引退しません』なんて発言をして社長が続投し続けている企業だって珍しくないわよね。」
「はい。大手企業でもたまにニュースで見ますね。」
「仮に後継者が決まってもわだかまりが残ったり、全経営者が会長として権限を維持し続けたりするとろくなことが無いのよね。」
「たしかに、『会長』っていう肩書きにいいイメージはないですね……。院政を敷いて社内をかき乱してるイメージが強いです。」
「そうよね。そして後任の社長と揉めたりとかね。」
「はい。」

「他にもワンマン企業を避けた方がいい理由はあるわ。中間管理職が育ってないとそもそも組織として未熟で仕事を円滑に進め辛いとか、社長の気分で振り回されるとかね。例えば、会社説明会に社長が出張ってくるのって、人事担当者からすると本当に嬉しいことかしら?」
「あー。そう言われればそうですね。自分の業務を社長に見られるってのはあまり居心地が良くない気がします。アテンドで不手際があると怒られそうだし。」
「そうよね。もちろん世間的に有名な社長とかだったら客寄せパンダにして求職者を集めるっていう使い方もできると思うけど、単に出しゃばって来られたら迷惑に感じることも多いと思うわ。採用現場って、理想と現実の乖離が結構大きいしね。」
「社長の仕事の8割は人事っていうくらいですし、社長と人事は基本的に仲が良いと思ってました。」
「まぁそれは間違ってはいないわ。人事以外でも財務や広報、株主対応関係の部署とかもそうね。ただ、だからと言って社長が張り切って説明会に出てくるのを歓迎するかというと、別の話よ。」
「なるほど……。」

「まぁちょっと話がそれてしまったけど、個人的には、社長が明日交代してもうまくいきそうな会社を選ぶことをお勧めするわね。」
「たしかに、個人の能力やキャラクターに依存してるのは危険ですよね。いつ何が起こるか分からないですし。」
「ええ。社長が客寄せパンダをやってくれると従業員としても働きやすいと感じる場面は多いから、ある程度有名でうるさく口出ししない社長が一番ありがたいと私は思うわ。」
「大企業だとそこそこありそうですね。あと、一般的に有名でなかったとしても知る人ぞ知る大物とか、業界内では一目置かれてるっていうような場合もあると思います。」
「ええ。むしろ社長が必要以上に大衆ウケを狙ってる会社はちょっと冷めた目で見てしまうわよね。」
「そうですね。今日もありがとうございました。」

そこまで話したところで会話を終えた。今日は、社長が会社に与える影響等について考えることができた。社長に限らず、管理職が過度に感傷してくると、部下はどうしても気を遣ってしまうだろう。一方で、完全に放置していては会社として成り立たないし、社長が自ら有名人になることで、会社の評判を構築するのに役立つこともある。

就活を始めてから知ったことだけれど、大手企業などでは説明会どころか最終面接でも社長や役員が出てこない会社もある。昔の中国の科挙試験の最終面接を皇帝自らやったのと同じく、社長から直々に合格判定を貰うと嬉しいという効果があるのかなと思っていたけれど、反面、社長が干渉したがる会社なのかなととらえることもできると思った。

結論として、社長がどうこうということで企業選択をするのは非現実的ではないかと思いながら、一日を終えるのだった。

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