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花覗き。

道すがら、ホタルブクロを見かける季節になった。
個人的に釣鐘型の花が好きで、昔から見かけるとついつい目を留めてしまう。
花屋の常連、サンダーソニアや、庭のブルーベリー、スノードロップなんかも。
コロンとプラプラしていて、なんともいえない愉しさがある。
虫を誘うように花びらをひらく花に対して、あの先すぼみの形はなんとも挑戦的にすら感じる。

ホタルブクロの側を通るたび、中を覗いてみたい衝動に駆られて。
なんとなく人目が気になり、数日横目に通り過ぎたけれど、やはりささやかな欲求には抗えず、ようやくその機会に恵まれた。
まわりに誰もいないことを確かめて、そっと花弁を持ち上げる。

中は思っていたよりもスッキリとしていた。
細かい共色の斑が入っていて、正面から見るとどこか桔梗を連想させる。
「もしかして、何か入っているかも」なんて淡い期待をしていたけれど、ちいさなランタンみたいな空間がぽっとあるきりだった。

ホタルブクロを見るとどうしても、子どもの頃何度も読んだ、いわむらかずおさんの「14匹シリーズ」を思い出してしまう。
道の途中、子ネズミのひとりが頭にホタルブクロを被って夜道を歩く。

当時は本物のホタルブクロを見たことがなくて、ナスの先を切ったような不思議な花はまるで物語の中だけに存在しているような気がしていた。

あの頃は今よりもずっとあちこちに野生の花が咲いていたけれど、濃い青や紫の花はどこか特別な存在で。
帰り道、群青色のフデリンドウなんかを見かけると、なんだか得したような気分になったものだ。

人は花を外から眺めるけれど、そのちいさな空間でひとときを過ごすものたちもいる。
一瞬だけ、そんなことを教えてもらったような気がした。

初夏の花見は身を縮めて眺めるのも一興かもしれない。








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