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社会の課題解決の担い手は「私たち」である。(田内学『きみのお金は誰のため』を読んで)

「お金」が社会の中でどう位置づけられているか/位置づけられるべきかを考える良書でした。

フランス革命のころと同じくらいの格差やと思っている人は、お金しか見てへん。格差はずっと縮んでいると僕は思うで」など、本質を突いた言葉が何度も出てきて、その都度ハッとさせられました。

『きみのお金は誰のため』
(著者:田内学、東洋経済新報社、2023年)

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「お金の教養小説」と帯にある通り、本書はゴールドマン・サックス証券にて16年間、金利トレーダーとして勤務していた田内学さんによる著書だ。編集協力にコルクの佐渡島庸平さんがクレジットされている通り、おそらくコルクの編集陣の助力のもと、読みやすさを徹底的に意識してライティングを行なっていたのだろう。

投資家として成功したボス、外資系の投資会社で働く七海、中学生の優斗。三者三様の立場でお金と社会の関係性を論じ合う。

お金の奴隷にならないために、お金を稼ぎたい」と告げる七海に、ボスは「それこそが、奴隷の証拠なんや」とそっけない。警鐘を鳴らしながら、いきなりプロローグでお金に対する既成概念を打ち壊してくる。

(「お金の正体とは、たったの3つの真実から成り立つ」と告げつつ)
「一、お金自体には価値がない。
二、お金で解決できる問題はない。
三、みんなでお金を貯めても意味がない」

(田内学(2023)『きみのお金は誰のため』東洋経済新報社、P19より引用)

どれも「?」が浮かぶ記述だが、小説の中で、ボスがひとつずつ真意を解き明かしていく。

僕が印象的だったのは、「お金の力は選ぶだけの力」という項だ。

お金こそが世の中を牛耳る力の大元だと疑わない七海に対して、ボスは、その力は限定的だと告げる。

「お金に力があることは間違いない。しかし、それはただ選ぶ力でしかないんや」
「お金の力は選ぶ力、ですか」
七海は、意味を探るように、ボスの言葉をくり返した。
「逆に言うとな、選べないとお金は力を失うんや。教育に力を入れようと国が予算を増やしても、学校の先生がおらんかったら何もできへん。お金がえらそうにできるのは、働いてくれる人から選べるときだけや。災害が起きて働ける人が減ると、お金の無力さに気づくやろ」
「たしかに……そうですね。大地震が起きると、お店が営業していることのありがたさに気づきます。エッセンシャルワーカーという言葉を使うようになったのもコロナ禍でしたね」
「選べることは、日常生活でも大事なことやで。僕らが毎日使うスマートフォンも、20年前やったら、一兆円出しても買われへん。当時は、それを作れる人がいないから、選べなかったんや」
どれだけお金があっても、働く人がいなければ世の中は回らない。

(田内学(2023)『きみのお金は誰のため』東洋経済新報社、P78より引用)

お金に関わる「内側」と「外側」の違いを述べながら、生産力に注目してお金の価値を伝えるボス。生産する人がいなければ、買い手は価値を受け取ることができない。情報社会だから錯覚するものの、日本は少子化で労働人口が急速に減っている。いや、少子化を挙げないにせよ、海外のサービスがグローバルで普及したことをきっかけに、日本に住む人たちが海外へお金を落とすようになっている。輸出<輸入が増えることによって、お金の価値がじわじわと下がっていくのではないか……。まさに円が160円台になった今だからこそ、その「怖さ」を実感するところでもある。

*

ボスは最後に、「誰のために働くのか」という問いを投げ掛ける。

この問いに対して「自分のため」あるいは「家族のため」と答える人は、ぜひ本書を読んでみてほしい。その答えは間違いではないけれど、ともすれば、あなた自身の経済圏“ぼくたち”を狭めることになるかもしれない

手触りのある形で、あなたの経済圏はつながりを持てているだろうか。

経済圏を意識することは、ものの見方、購買のスタンス、社会への関わり方を変えていく。

お金は課題解決に直接寄与しない。社会の課題解決の担い手は「私たち」であることを、本書は力強く宣言するのだ。

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本書を読んで、真っ先に思い浮かんだのは、鎌倉市で投資信託の運用を行なっている鎌倉投信だった。

「いい会社」に限定して投資する金融商品「結い2101」を通じて、すべての関係者の幸福を追求しようと頑張っている会社に投資し、なめらかなお金の循環を目指している会社だ。(僕もアカウントを有している)

本書をすでに読んでいて、より経済について学びたいと考えている方は、ちょうど鎌倉投信がスポンサードして始まったポッドキャストを聴いてみてほしい。

初回〜4回まで、鎌倉投信の代表・鎌田さんがゲストとして出演、会社創設の思いや自身の投資哲学について語っている。

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