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そして、BRUTUSはつづく

下北沢・本屋B&Bで、久しぶりにオフラインイベントに参加した。

3月末に雑誌「BRUTUS」の編集長を退任する西田善太さん。嶋浩一郎さんと今井雄紀とともに、西田さんがこれまでの振り返り&現在の心境をメインで話す。

とにかく、べらぼうに面白かったので、印象に残ったことを(公開して良さそうな範囲で)メモしておきたい。

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20代は暗黒時代?

博報堂で4年間コピーライターの仕事をした後、マガジンハウスに入社した西田さん。入った当初から西田さんが携わった雑誌は「売れた」そうだ。

他社に比べてマガジンハウスは「こんなにページもらえるの?」という感じだったそうで、入社早々、テーブルウェアについての誌面制作を16ページも任されたという。

意外だったのは、20代は「自分は何者なんだろう?」と、よく考えたということ。「みんなとちょっと違う=決してメジャーになれない予感した」という感覚を持っていたそうで、いまの西田さんからはあまり想像できなかった。

だがそこから何回も、何十回もヒットを飛ばす西田さん。「何が面白いのか」に関する自信を深めていったのは想像に難くないが、自らメジャーであり続けたのは「凄い」のひとことだ。

イベントでは、BRUTUSの歴史を、誌面を通じて振り返る形で進行した。誌面ごとのエピソードには、どれも西田さんの胆力を感じる凄みがあって、メモをとる手が止まらなかった。

早すぎた、というのは失敗

とある雑誌の号を挙げ「これはあまり売れなかった」と語った西田さん。ただその言葉は意外な感じがして、司会の今井さんからも「(世の中で)早かったんですかね?」と質問が入る。

それに対して西田さんは「早すぎた、というのは失敗なんだよ」と答える。その真意が聞きたくて、質疑応答のとき「早すぎが失敗という点を、もう少し聞かせてほしい」と質問した。

すると、

・僕らが特集のテーマを「面白い」と思っているのは確か
・だけど、それを読者とつなぐルートを築けられなかった
・結果としてあまり売れない

と説明してくださった。

ウェブメディアの場合、ストーリーを作りづらい。

ひとつの記事は面白いかもしれないが、前後の文脈をきちっと固定させることは不可能だ。

西田さんは「雑誌は切り取って読んでも価値があるけど、リニア(線形)で流れで読むともっと面白くなる」と話した。1つの特集を、頭から読む(=順番通りに読む)からこそ、情報の価値は立体的になる。

そんなことを意識しながら、これからBRUTUSを読んでいこうと思う。

チャーミングか、退屈か。

イギリスの劇作家・小説家のオスカー・ワイルド。彼の言葉「人間を善人と悪人に分けることはできない。人間はチャーミングか退屈かのどちらかである」を引用して、西田さんはイベントを締めた。

いわく「どんな悪者でもチャーミングなら生き残れる。企画をつくる人はおよそ編集にかかわるわけで、退屈な人間だと良い企画を立てることはできない」。

それは「悪者であれ」と推奨しているのでない。

例えば、西田さんは誌面づくりをする上で「ちょっとしたルールを破ることはあった」と告白する。(「ルールを破る」という言葉だったかは、すみません、うろ覚えです)

古い伝統や慣習によって成立しているような業界。そのルールにすべて従って誌面を作ると、面白みは減じてしまう。BRUTUSらしさを考えながら、素材を面白くしていく。企画にして、「売れる」ものにする

14年間、編集長を務めた西田さんのプライドがそこかしこに見られ、「こんな贅沢な時間をもらいっ放しで良いのか」と、イベントの最中に(なぜか)苦悶するほどだった。

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BRUTUSを読んで、自分の人生を変えた人たちが社会にはたくさんいるのだろう。

世の中は変えられないけれど、ちょっとだけなら変えることができる。

雑誌づくりの面白さ、編集の醍醐味が詰まった2時間超だった。

西田善太さん、本当にお疲れさまでした!これからも、いち読者としてBRUTUSを楽しみにしています。

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