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ひとりの浦和サポーターから見た松本山雅 ~山と城と沼の底~

サッカーライターになるとは、夢にも思わなかった。

今の、偽らざる気持ちである。

きっかけは3月に書いたこの記事。

OWL magazineに触発されて書いたものだが、これを中村さんや辻井さんが見つけてくれた。

もちろん嬉しかったのだが、正直に言えば、この展開は想定内。少なくとも僕自身は、OWLの皆さんに読まれても恥ずかしくないように、むしろ目に止まれば良いなと思って書いた(ちょっとした移動の際にスマホからやったものなども含めれば、推敲した回数は二桁ではきかないと思う)。

ただ、力を入れて書いた分、ポジティブな反応をもらえたのが嬉しくて、思わず中村さんにDMを送り、お礼を伝えた。

想定外だったのはその後だ。

次に旅記事を書こうと思ったときは是非OWL magazineにご寄稿下さい!

・・ま、まじか!?!

僕は一介の浦和レッズサポーター。過去に日記やブログが続いた試しはない。世の中にレッズサポは星の数ほどいるし、対価をもらえるほどの文章を紡げるか、甚だ自信はない。

しかし、人間誰しも人から認められるとやる気が出るものだ。相手がその道のプロなら尚更。少しその気になって、記事に出来そうなアイデアを書き出してみる。出てきたアイデアのリストを眺め、前向きな返事をしたためる。

数日寝かせた後、思い切って送信ボタンを押した。程なくしてレスがあり、そこでもあらためて誘ってもらったので、決断した。

メッセージをいただいたあと少し勢いがついて、今1本書いています。

前置きが長くなった。

「OWL magazine読者の皆さま、はじめまして。ほりけんと申します。皆さんと同じ一読者ですが、この度、ご縁があって、こちらで記事を書く機会をいただきました。これから宜しくお願いします。」

【プロフィール】
▼浦和育ちのレッズサポ。スタジアムに通い始めたのはJ1復帰後、2002年〜03年あたりから。さいたま市に戻ってきたのを機に、2018年から念願のシーズンチケット(自由席)を取得。現在は北と南のゴール裏を行き来。
▽座右の銘:日本人である前に浦和人
▽アイコン:2004年の長谷部誠のユニフォーム
▼基本は代表よりクラブ、海外より国内だが、2年間の欧州駐在やDAZN襲来などを機に、様々なサッカー(海外、女子など)を幅広く観るようになる。
▼プレー経験はなし(遊びだけ)。ミシャ以降は戦術的な話にも興味を持っているが、歴史、文化、経営など、ピッチの外の話も好き。
▼サッカー以外の趣味:旅、読書、クラシック音楽

さて、ライターとしてのデビュー戦の舞台は松本。初稿を仕上げた頃はOWLがイベントをやるなんて露にも知らなかったが、我ながら「持っている」。

OWLのイベントでは「アウェーサポーターが松本に思うこと」「札幌、仙台、東京サポーターから見た松本山雅」といった内容でトークするようなので、その前哨戦として読んでもらえれば、望外の喜びだ。

念願の遠征 ~レッズが歴史に刻まれた土地~

2019年3月9日、人生で初めて、松本に遠征をした。今季で2度目のJ1挑戦となる松本山雅だが、前回の2015年は海外赴任から戻ってきたばかりで、スケジュールの都合がつけられなかった。

今回はシーズンの日程が発表されたときから最優先でスケジュールを確保していたが、チケットの入手は困難を極めた。販売開始日、10時より前からPCの前でスタンバイしていたもののビジター席は瞬殺。争奪戦に完敗した。

しかし、諦めきれずに毎日twitterで検索していたところ、1週間前になって譲ってくれる方が見つかった。ようやく、念願の松本遠征の権利を手に入れることが出来た。

松本山雅とのアウェイゲームには、以前から行きたいと思っていた。最大の理由は、浦和レッズと松本山雅との縁である。
(もう1つ理由を挙げるとすれば、松田直樹がいたクラブだから。浦和以外で好きな選手はそうそういないが、松田直樹は数少ないそういう選手だ。)

松本との初対戦は2009年の天皇杯2回戦。当時のレッズは、2007年にアジア王者になった後の混乱から立て直しを図っていた時期で、決して盤石ではなかった。とはいえ、相手は北信越リーグ所属、カテゴリーとしては3つ下(注:J3創設前)、まぁ大丈夫だろうというのが正直なところだ。

しかし、結果は0対2。松本の地で屈辱の敗北を喫する。スタメンを書き出してみたが(参考)、今から振り返っても、何故このメンバーで負けたのか、不思議で仕方がない(まぁそれがサッカーなのだが)。

GK 山岸範宏
DF 平川忠亮 坪井慶介 山田暢久 細貝萌
MF 鈴木啓太 山田直輝 ポンテ 原口元気
FW 田中達也 エジミウソン

この試合は後年、日本サッカー史に残るジャイアントキリングとして、やべっちFCのクラブヒストリーでも取り上げられた。

他のクラブの歴史に名前が刻まれるのは敗北したときだ。タイトルがかかった試合(リーグ優勝が決まる試合やカップ戦の決勝)が最たる例で、レッズで言えば、ガンバ大阪や鹿島アントラーズなどとの間には苦い記憶がある。

しかし、松本山雅に敗れた天皇杯の記憶には、少し違った味わいがある。もちろん当時は「何をやっているんだ」と憤ったけれども、カップ戦の途中でコケることは珍しいことでも何でもない。ましてや目の前でタイトルを逃したわけでもない。

むしろこう考えたらどうか。もしあれが浦和レッズでなかったら、例えば大宮アルディージャだったら、あそこまでのインパクトをもって、松本山雅の歴史に刻まれただろうか?たぶん、そうではなかっただろう。

あの試合が、松本山雅の、日本サッカーの歴史に残るようなものであったとすればそれは、浦和レッズというクラブの存在感の裏返しなのだ。そう考えると敗戦の苦さは消え去り、誇らしさすら芽生えてくる。

松本 ~山と城の街~

ようやく実現した松本遠征だったが、チケットを手に入れたのが直前だったこともあり、生憎の日帰り。試合前に松本城に行き、試合後に蕎麦を食べて帰るという、ざっくりしたプランだけを持ち、朝早くに家を出た。

松本に着いて最初に目に飛び込んできたのは街並みの合間から覗く山々だ。僕自身は登山はしないが、松本は北アルプスへの玄関口。そういえば何かの小説で、松本から上高地へ向かうバスの描写があったことを思い出した。

街中を散策していると、松本山雅の「全緑登頂」という幟がそこかしこに掲げられている。個人的にこうしたスローガンからは部活っぽさを感じてしまい、プロサッカークラブが掲げるのはどうかなという思いがある。しかし、実際に現地を訪れると、登頂という言葉やアルプスを形どった幟のデザインが、松本という土地に根差したものだとわかる。Jリーグの理念である地域密着を体現しているようで、良いなと感じた。

全緑登頂

松本城は小ぶりだが、姿形がとても格好良い。天気に恵まれたこともあり、スマホで撮っても凛々しい。こういう華のある場所を訪れると「遠征行ってきた感」が高まり、大変気分が良い。

松本城(表の顔)

松本城(裏の顔)

試合まであまり時間はなかったが、松本城のまわりには移転・復活した喫茶山雅があることを知って、少しだけ散策し、雰囲気を味わう。

現在の喫茶山雅

喫茶山雅の駐車場にあった、ピッチの形をしたホワイトボード
「J1でもジャイアントキリング」は無事に阻止。

くらぶ(スナック?)の看板まで緑。

アルウィン ~アルプスと風のスタジアム~

いよいよスタジアムに向かう。駅前のバスターミナルからシャトルバスが出ているのだが、この日は結構な行列で、乗るまでに数十分かかった。また、渋滞のため松本山雅のチームバスの到着が遅れており、スタジアムを目前にして我々のシャトルバスが追い抜いていくというハプニングもあった。交通量などはクラブ側ではコントロールできないので、このあたりの運営上の難しさはあるんだろうなと感じる。

バスから降りると、山々を遠くに仰ぎつつ、盆地の真ん中に鎮座しているスタジアムが見える。松本山雅の本拠地、サンプロアルウィンだ。アルウィン(Alwin)とはアルプス(alps)風(wind)を組み合わせた造語だそうだが、名は体を表すとはこのこと。特にこの日は尋常ではないほど風が強く、アウェイの洗礼を受けた(試合後にはオリヴェイラ監督はじめ皆が言及)。

真ん中の白い骨組みがアルウィン。
降車場からスタジアムまで少し距離があるが、それがまた良い。

ビジター側ゴール裏のコンコースより。旗のはためき方がやばい。

サッカー専用スタジアムなのでピッチも近く、雰囲気はとても良かったが、何より印象的だったのは松本山雅サポーターの一体感。どんなスタジアムでもゴール裏とそれ以外でテンションの差があるのは当たり前だが、アルウィンはその差が小さいように感じた。試合前、三方のスタンドのサポーターが一斉にマフラーを掲げた光景は敵ながらあっぱれ

レッズのサポーターをやっていると、正直「アウェイ」を感じることはほとんどない(どこだろうと我々が大挙して駆けつけるので)。しかしアルウィンは正真正銘の「アウェイ」を感じられる、素晴らしいスタジアムだった。

試合前、スタジアム中のサポーターがマフラーを掲げる。
「雷鳥は頂を目指す」の弾幕は3代揃い踏み

沼の底 〜この街には山雅がある。~

旅の直前、こんな記事を目にした。

松本山雅サポーターの方が運営しているサイトに掲載されたもので、4年ぶりのJ1での浦和戦を前にして、これまでの対戦を振り返っている。全編とても興味深いが、特に目を引いたのが、2009年の天皇杯の試合前、ウルトラスマツモト(松本山雅のサポーターグループ)が配ったビラだ。

ビラの内容は記事の中に全文が載っているが、本当に1枚に収まったのかと思うほどの長文(たぶんフォントは小さかったのだろう)。しかし、柔らかな筆致で、真っすぐに言葉が綴られていて、松本に限らず、特定のクラブのサポーターなら共感できることばかりだ。

そこにこんな言葉があった。

浦和にレッズがあるのと同じように、この街には山雅がある。

以前OWL magazineにて、峰麻美さんが「アウェイ沼」という秀逸な表現をしていたが、「この街には山雅がある。」という言葉からは、沼を沼たらしめている根源のようなものが感じられる。

街に、街の人の心に棲みついたクラブ。これこそがアウェイ沼の底に潜むものであり、深淵なる沼の中へと僕らを引きずり込むのだろう。

アディショナルタイム ~蕎麦と酒~

帰りのシャトルバスも結構並んだ。風は相変わらず強く、日も落ちてきたので、3月の信州はまだまだ寒いことを実感した。ただ、今回は勝利の凱歌We are Diamondsをスキップして列に並んだこともあり、程なくして乗ることができた。

松本駅に帰りつくと、井上百貨店の地下でお土産(主に日本酒)を仕入れ、松本城下、女鳥羽川沿いにある「女鳥羽そば」を訪い、蕎麦をいただいた。

女鳥羽そば

帰路の供に小瓶の日本酒を購入して「あずさ」に乗り込む。名残惜しくも、今回の旅はここで終わりだ。

しかし案の定、松本という沼にはまってしまった気がする。次もチケットの争奪戦に勝てるかは甚だ怪しいが、出来ることならもう少し長く滞在して、松本という土地を楽しんでみたいと思う。

この試合で奮闘した背番号31番DF岩波拓也に乾杯。
ホイッスルのあと、ピッチを叩いて感情を爆発させた姿は心に響いた。

この記事は「旅とサッカー」をコンセプトとしたウェブ雑誌OWL magazineのコンテンツです。多彩な執筆陣による面白い・興味深い・アツい・愉快な記事を読むことができます。コスパ(情報量÷購読料)はとても良いと思いますので、ぜひ購読していただければ幸いです。

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