ほりありのぶ

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最近の記事

映画「オッペンハイマー」を見て考えたこと

 「オッペンハイマー」を見てきた。良作だった。  この作品は2023年にアメリカで公開され、第二次世界大戦を扱った伝記映画として歴代最高の興行収入を記録するなど、世界中で話題となっている。しかし、この映画の注目すべき点はその興行成績だけではない。この映画がどのように原子爆弾の開発と使用に伴う罪悪感を扱っているのか、その点について本ブログでは考察する。映画の詳細に触れるところがあり、ネタバレが含まれるので注意していただきたい。  この作品は、原爆投下が必要だったという見解への

    • 水原通訳の問題と岸田首相のアメリカでの演説から考えたこと

       大谷翔平選手が賭博に関与していた疑いについて、本人の関与が最小限であったことが明確にされ、出場停止などの大きな責任を問われることがなくなったことを嬉しく思う。大谷選手自身の責任が問われるとすれば、それは、あまりにも金銭に無頓着であり、通訳だった水原氏を信用し過ぎたということになるだろう。このように大変な精神的試練の中でも冷静に試合への出場を続け、相応の結果を示し続けていることには驚嘆するばかりで、これからもさらに活躍してほしいと切に願う。  私の心理学的な関心に引きつけて考

      • 自民党の政治資金疑惑と、大谷翔平と水原通訳のニュースを比べて考えたこと

        野球のスーパースターの大谷翔平が、通訳の違法賭博をめぐる疑惑を告発され、大問題となっている。この数年、大谷選手の大活躍に勇気づけられてきた私たちは、何とか大谷選手のかかわりが最小限だったことが証明され、強い処罰を受けることがないように祈るばかりである。一方で、アメリカのジャーナリズムや国民が示した姿勢と、日本のそれとの違いを意識してしまう。日本では、大谷選手について飼い犬や奥さんのことばかりをマスコミが追いかけていた。少し前にはジャニーズ事務所で行われていた性的虐待が問題視さ

        • なぜ今の時代に『ブルーロック』が生まれたのか

          流行する漫画や小説、音楽などの作品は、その時代の深層心理を理解し、そのニーズを満たしている。  『ブルーロック』は、2018年から「週刊少年マガジン」に連載されているマンガである。単行本の売り上げは2023年11月時点で3000万部を超え、アニメや映画、舞台にも展開されている(Wikipediaによる)。高校生のプレーヤーたちを中心としたサッカーマンガであるが、スポーツものにありがちなチームワークの大切さが主題になることは少ない。ブルーロックは一つのプロジェクトで、日本がワ

        映画「オッペンハイマー」を見て考えたこと

          なぜ私たちは「原作者」を軽んじてしまうのか

          マンガ『セクシー田中さん」がテレビドラマ化され、原作者がその内容に納得できないものを感じて抗議した。その後、脚本家・テレビ局・出版社が関わるやり取りが発生し、原作者が命を絶つという最悪の事態を迎えることになってしまった。 豊かな才能をその作品に注ぎ込むことで私たちを楽しませてくれたのにもかかわらず、それにふさわしい報いを得ることのできなかった原作者の思いをしのび、心からの感謝の気持ちを表明するのと同じに、その魂が慰められて安らかであることを祈りたい。 この記事では出来事の詳

          なぜ私たちは「原作者」を軽んじてしまうのか

          日本人の「礼儀正しさ」と「イジワルさ」についての、ナルシシズムの観点からの解釈

          2023年中に講談社現代ビジネスで好評だった記事として「日本人は世界一礼儀正しい」が「世界一イジワル」だった…「自分の利益より他人の不幸を優先する度合い」を測る実験で「日本人ダントツ」の衝撃結果」が紹介されていた。 https://gendai.media/articles/-/119449?imp=0 大阪大学社会経済研究所で行われた実験で、次のことが示された。投資に関するあるゲームを行った場合に、一対一で競合する場合に、日本人の被験者は、アメリカ人の被験者と比べて、自分

          日本人の「礼儀正しさ」と「イジワルさ」についての、ナルシシズムの観点からの解釈

          イスラエルとパレスチナの問題の考えにくさについての心理学的考察

           イスラエルとパレスチナの間で凄惨な抗争が発生している。世界中に大きな影響を与える大きな出来事であるが、この問題は日本人にとって考えにくい。考えにくいことの第一の要因は、私たちの経験不足・知識不足によるものだろう。これについては、地道に勉強を続けて少しずつ分かるように心がけるしかない。  一方で、パレスチナ問題についての考えにくさは、知識の不足だけに尽きず、日本人にとって二つの水準で深層心理的な抵抗が働くことにも由来している。一つは文化・宗教的なもので、中東情勢の抗争の中心に

          イスラエルとパレスチナの問題の考えにくさについての心理学的考察

          ジャニーズの問題から考えたこと

          〇ジャニーズ問題から考える日本社会の問題点  ジャニーズ事務所で恒常的に行われてきた性加害がようやく大きな問題となり、さまざまな意見が提出されている。その中には「事務所の行ったことと、個々のタレントの行ったことは異なる」という形で、ジャニーズ事務所の関係者を擁護する意見もあるようだ。  しかし私は、ジャニーズ事務所の解散も視野に含めたような、厳しい対応が妥当だと考えている。もちろん、それぞれの俳優については個人ごとの評価とそれにふさわしい対応がなされる必要があるが、全体として

          ジャニーズの問題から考えたこと

          反復される「押し付けやすい所に押し付けて問題を解決した気になり、永続性のある構造改革を指向できない」傾向について

          〇精神分析的な解釈について 書き言葉と話し言葉 現在、精神分析的な思考法は、そこに妥当性が認められる場合でも、その内容に厳密さが乏しいとして評価されないことが多い。一見無関係な出来事の中に、隠された構造が反復されているのを見出そうとするのが精神分析的な解釈であるが、それが強引なこじつけであるという印象を与える場合もある。「背後にある構造」について定量的に評価することは容易でないことがほとんどで、それについての説明を聞いても、その真偽を統計的に判定できないことが多い。 しかし

          反復される「押し付けやすい所に押し付けて問題を解決した気になり、永続性のある構造改革を指向できない」傾向について

          福島第一原発からの処理水の排出について

          私は自分がリベラル寄りの人間だと思っている。東日本大震災・原発事故の後、2012年4月から福島県南相馬市に移住して働くことを選択した。今でも時々、日本の政府や文化について、それが画一的なありようを国民に強制しているように感じられる面については、批判的な文章を書いて発表することを続けている。 しかし困ったことに、「リベラル」的な言動を行うとされている人たちと、考え方が異なる、と気づくことが増えてきた。現在、東京電力福島第一原子力発電所から処理水を排出することが話題になっている。

          福島第一原発からの処理水の排出について

          日本論は意味がないという主張に対する再反論

           「日本人は本当は集団主義ではない。だから日本人は集団主義だと決めつけてそれを批判する日本論には意味がない」という主張を見かけることがある。  私は、「日本論」として展開されてきた議論には重要な価値があると考え、それらに依拠して主張を展開している人間である。したがって、今回の小文は、そのような批判に対して再反論を行うことを目的としている。  そもそも既存の日本論が「日本人は集団主義だからよくない」と議論してきたと考えるのは、不正確な読解である。例えば、講談社現代新書のなかに

          日本論は意味がないという主張に対する再反論

          G7広島サミットが開催されたことを受けて

          G7広島サミットが開催された。さまざまな意見があるだろうが、世界と日本に取って得たところの大きい、成功と呼べる会議だったと思う。G7の首脳が揃って原爆死没者慰霊碑に献花を捧げるシーンには、胸が熱くなるものを感じた。 ウクライナのゼレンスキー大統領をはじめ、インド、インドネシア、ベトナム、韓国、ブラジル、オーストラリア、クック諸島、コモロの招待国の首脳を迎えた上で、核兵器廃絶の理念を掲げてのロシアによるウクライナ侵攻についての強い非難を行ったこと、それを議長国の日本が取りまとめ

          G7広島サミットが開催されたことを受けて

          WBCと岸田首相のしゃもじ

           WBCが開催され、3月21日には日本がアメリカと決勝戦で優勝を巡って争い、最後は大谷選手が投手としてトラウト選手を三振に打ち取って勝利を確定させるという劇的な結末を迎えた。日本中で大変な盛り上がりが見られ、私も個人的にとてもワクワクとしながら、可能な時には試合をネットやテレビで観戦していた。少しだけ違和感を持ちながら。 そのような時に、21日に岸田首相がウクライナを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と会談したという。20日からは中国の習近平国家主席がロシアを訪問し、プーチン大統

          WBCと岸田首相のしゃもじ

          森保ジャパンについての連想

          サッカーのワールドカップ、今回もとても楽しませていただきました。日本チームもドイツ・スペインを破っての決勝トーナメント進出、さらに強豪クロアチアとPK戦にまで至っての惜敗と、素晴らしい活躍で私たちを勇気づけてくれました。 これだけの実績を残した森保監督の貢献の大きさは、称えられるべきでしょう。私も感謝の思いでいっぱいです。 一方で、自分なりの視点から、森保ジャパンにおける選手のマネージメントがどんなものだったのかについて分析し、その記録を残しておきたいと思いました。 結論

          森保ジャパンについての連想

          安倍元首相が殺害されたことで、考えたこと

           安倍元首相が統一教会の関係者に銃殺されるという事件が起きた。まず、故人に対して心からの弔意を表したい。その上で、通算日数が3188日に及ぶ首相在任期間中の活動について、筆者が提唱する「日本的ナルシシズム」の観点から振り返らせていただく。「日本的ナルシシズム」は、周囲に巻き込まれ、自ら主体性を発揮しようとしないことを美化・理想化する病理的な精神性である。それには、権威や空気が強制する内容に抵抗する力が、極めて弱い。「日本的ナルシシズム」を克服することには、政治的・経済的なメリ

          安倍元首相が殺害されたことで、考えたこと

          ウクライナ政府のツイッターで、昭和天皇の写真がヒトラー・ムッソリーニとともに登場した件について

           今年2月にロシアがウクライナに侵攻した。当初は軍事力で勝るロシアが圧倒するという予想もあったが、ウクライナ国民が良く準備していて勇敢かつ頑強な抵抗を示していること、アメリカ・ヨーロッパを含めた多くの国がウクライナを支援していることもあり、情勢は長期化しつつある。日本も西側諸国の一員としてウクライナへの支援とロシアへの制裁に参加しているが、ロシアの関係者が核兵器の使用や、日本の領土への関心を口にするなど、安全保障の面でも憂慮するべき事態となっている。  そのような中で、4月

          ウクライナ政府のツイッターで、昭和天皇の写真がヒトラー・ムッソリーニとともに登場した件について