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アイスワインって、何

アイスワインって、ご存知ですか。

3年前、ブログで一番ヒットしていた記事が、アイスワインと貴腐ワイン「トロッケンベーレンアウスレーゼ」についての記事でした。
アイスワインについては、書いた当時、“恋ダンス”で話題となった星野源と新垣結衣のドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で、新垣結衣演じるみくりさんが飲んでいたためか、気になる人が多かった模様。

酒を飲まないのにワインエキスパート合格してしまった元ワイン屋の私。
あらためてnoteでワインについて書いていくにあたり、この記事をリバイバルしようかと。

アイスワインとは

主にドイツ、あとカナダで造られる甘口の白ワインの一種。

非常に甘い。
普通の白ワインと比べるとシロップみたいに甘いので、よくデザートワインとして用いられる。チョコやケーキと合わせるほか、お肉料理と合わせるマリアージュもある。

一般的な750mlのボトルではなく、375mlのハーフボトルや、オリジナルの500mlくらいのボトルに入っていることが多い。
しかもそういったワインボトルはスタイリッシュな細身だったりするので、飲む以外にも楽しめる。ただ、アイスワインをはじめとする上質な甘口ワインは、日本で買うと若干高い。


アイスワインの作り方

アイスワインとはIce Wineと書く。つまり凍る。
ドイツ語では"Eiswein"。Eisは氷、Weinがワイン。

凍りはするけど、凍るのはワインではなく、原料のブドウ。
ブドウが凍ることでうまく水分が抜け、うまく果実の甘味がギュッと凝縮される。そんな果実を使うのがまずスペシャル。

主たる生産地はドイツやオーストリア、それとカナダ。ワインの産地の中でも涼しい地域。収穫時に-7℃くらいになる気候がベスト。
いやそれは涼しいっていうか随分寒い…それくらいの気候であれば、上述以外の地域でも作られているようで。

果実が凍ると言ったけど、収穫して冷凍庫に入れるのではなく、畑で凍ってもらう。寒くなるまで、房は樹についたままキープ。
寒い地域では果実が熟すのには時間がかかる。とはいえ凍るくらいまで樹についているとそれだけ熟し続ける。もう完熟。そこで凍る。
ブドウが凍ることで、水分が果実の外に出る。すると成分がシワシワになった果実内に凝縮されるわけです。自然の力で濃密にするのです。

選抜メンバー

アイスワイン造りに使われるブドウの粒は選抜メンバー。
通常の収穫時期(北半球なら9月〜10月)を過ぎても摘まれず熟し、だんだん冷えてきても摘まれず耐え、水分が抜けても枝から落ちず、いよいよ凍ってきてもなお樹に留まり続ける。
これらの試練を耐えぬいた果実は、まさに選抜メンバー。

そんな果実はそう多くない。落ちちゃったり、食べられちゃったり、枝に残っていても、何もワイン作りに貢献できない子も多いわけだ。
そう、アイスワインになれる果実はとても少ない。

丁寧に造る

通常のワイン向けの時期を大きく過ぎ、熟しすぎと言えるくらいに糖分が多い果実。そのタフなボディに残る濃密な果汁。それを、ゆっくり時間をかけて圧搾して、丁寧にしぼる。

発酵の時間も、通常のワインより長くかける。
そして頃合いを見て、発酵タンクに二酸化硫黄(SO2)を注入し、タンクの温度を下げて、発酵を止める。

酵母菌(サッカロミセス・セレビシエなど)は、「糖分を食ってアルコールを出す」というはたらきをする。この作用が「発酵」。ほぼ全ての発酵作用に「S.セレビシエ」などの酵母菌が関与している。ビールもワインも日本酒も。

なお「セレビシエ」は学名なのでラテン語。
アルファベット表記だと"Cerevisiae"。

スペイン語学習者さんは見覚えありませんか?
そう、"Cervesa"=ビール。
この単語は、このセレビシエが由来ないしは派生、語源が同じ。

アイスワインで使うブドウは糖分たっぷり。その果汁で造っているため、酵母は普通のワイン以上に「糖分を食べてアルコールを出す」際の「ごはん」がある状態。
だから、作っているワインに求める甘さとアルコール分に差し掛かったところで動きが鈍る温度までタンクの温度を上げたりSO2を入れないと、アルコールばっかりになってしまう。
(実際は、酵母はある程度以上のアルコール濃度で活動をやめるんですけどね)

この発酵の段階が終了したら、ワイン内に残る酵母やもろもろを濾過して、瓶詰めと。

原料のブドウを作るのに手間がかかるだけでなく、とれる絶対数が少ない。さらにワイン作りの過程も時間と手間をかけている。まあ、やや値段がはるのも頷けるね。

※知識のソースの半分が「もやしもん」(石川雅之・講談社)、もう半分がワインの勉強で読んだ本数冊から。


ブドウ品種

ドイツのアイスワインは基本的にリースリングというブドウから作られる。寒冷な地域で作られるブドウで、甘口も辛口も作れる。

ドイツでは白ワインの品種として、ゲヴェルツトラミネール、ジルヴァーナーと並んでメジャーな品種。

味わいは、結構テロワール(畑の土壌の性質)によって異なるが、一般的には、以下の特徴がある。
・柑橘系(オレンジやレモン)、リンゴ
・アカシアやミント、スイカズラ
・ミネラル感、石油っぽさ(ペトロール香)

果実や花の香りよりもミネラル感が先に来るとも言われる。
石油とかミネラルとか大丈夫かよ…大丈夫です。入ってません。

ワインの味や香りの表現で言われる意味不明ワードの一種で、“ミネラル”の場合「…あ、石灰石っぽい…貝殻とか…なんつうか、チョーク?あー、これ…が、ミネラル、かな?」となったらそれがミネラル。
“オイリー”は、オイリーじゃない白ワインと飲み比べるとわかってきます。塩ビ人形とかその辺の香りをイメージしてくれると。

何に合うの?

デザートワインと書いたものの、実はアイスワインをはじめ、甘口ワインは結構いろんなものに合います。もちろん、食前酒や食後酒として単体でたのしむのもOK。

アイスワインと相性良いのは、料理ではフォアグラみたいな濃厚な食材、肉なら鶏肉料理。あとブルーチーズ。イメージとしては、フレンチとかでハチミツがかかってもいけそうな料理ならいける。

デザートと合わせるなら、桃や柑橘などのフルーツ、あと濃厚なクリームを使用したもの、シャンティがかかったパウンドケーキなんかも合うだろうなあ。

飲む機会があれば、その途方も無い甘さの中に、自然の作用と、手間暇かけた造り手の苦労を感じてみてください。

自然の作用の神秘と丁寧な人の手によって生まれた…うんぬん。

バンクーバーの空港でお土産に買ったアイスワインキャンディが、信じられないくらい甘いんだけど、だんだんハマってしまって、結局一袋自分で食べちゃったのを思い出しました。

次回はドイツワインについて。


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