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執拗な人には届かぬ声

わたしの指紋は警察署に保管されていると思う

過去に2回、ストーカー被害に遭い
1度目の被害は夜逃げする羽目になった
2度目の被害は弁護士へも介入してもらった

1度目のストーカー被害は
ストーカーされているのを知らずに生活し
風呂上がりに玄関チャイムが鳴り
無防備にドアを開けた瞬間、人が乱入 

わたしは悲鳴をあげた
壁に頭を押しつけられて、物で叩かれた後
人は立ち去った

それからは神経質になり夜が恐ろしかった
もしかしたら間違えてうちへ入ったかもしれない

しかし希望的観測は打ち砕かれた
毎晩わたしが帰宅する時間にアパートの側へ
白いセダン車が停まり車中には人がいる

でも、わたしの自意識過剰かもしれない
部屋の灯りを消し、眼鏡をかけて
カーテンの隙間から外を見る
まだ白いセダン車は停まっており、人がいる

日にちが空かない朝7:30過ぎ
隣の住人がチャイムを連打しながら
「ももまろさん! ももまろさん!」
ドアを開けると玄関の前が放火されていた

うちが取ってない
新聞や広告を丸めた燃えカスが廊下に3ケ所
プランターの中に1カ所
モルタルの廊下が焼けて黒い輪になっており
刃渡15センチほどの包丁が置いてあった

迷わず警察に通報

制服の警官や私服警官、鑑識係の方々など
大勢の警察官が訪れ
昨夜からの気づきやわたしのアリバイなど
事細かな事情聴取を受けた

その時、わたしは両指を押印した

仕事に出掛ける時間は過ぎており
上司に電話をして、その日は有休にしてもらう

夜、幼なじみに電話する
わたし、ストーカーに遭ってるかもしれない
先日からの出来事を打ち明けた

幼なじみは今でも変わらぬ
「はあ〜ん」「ほぅ」間の抜けた返事をして
「折り返し電話するから、ちょっと待って」

小一時間すると
「今から夜逃げすっぞ!適当に荷物まとめて」
いきなりの夜逃げ宣告

白いセダン車が居ない隙に
「着いたよ」幼なじみからのメール
アパートの外へ出ると何人も人がおり
彼女の行動力と人脈はわたしの想像を超えていた

彼女の友達が軽トラなどを用意してくれ
オーディオやベッドなどの大きい物以外は
コンテナへ詰められ
一斉に部屋の荷物は片付けられた

明け方には幼なじみの部屋へ 
とりあえず必要な物を運び、お世話になる

犯罪は未解決のままで全容は書き控えるが
犯人は分からぬまま今日に至る


犯罪が起こるとすぐに被害者叩きが始まる
憶測や妄想はネットの波に呑まれ
被害者に落ち度があった、自業自得などと言われ
犯罪未遂や恐怖体験は
「たったそれぐらい」揶揄される

自分が何をしたんだろうか振り返る時間は
心当たりがないだけ、世界が敵にしか見えない
自分を責めて眠れない日々
自己防衛するほど自由な行動は制限され
「次は何をされるのか」
不安は嘔吐や食欲不振、蕁麻疹を引き起こした

幼なじみの部屋から新たなアパートへ引っ越す
この間も正面玄関しかない会社から
駅へ直接出向かずタクシーを拾う
ランダムに駅を選んで下車し、用心に用心を重ねた

精神だけじゃない
時間もお金も身を守るために減っていく

世の中には執拗な人がいる
それは多分無自覚であり、何事も正当化する人
きっと「やめてほしい」と願う声さえ
執拗な人には届かないのだと思う

他人に迷惑をかけながら
自分だけは誰にも迷惑をかけてないと思い込み
他人からの迷惑に人一倍敏感で、不寛容な人


立ち止まると
「自業自得」「自己責任」
こんな言葉が罷り通る世の中に生まれた
皆が被害者に思える

この度、西新宿で痛ましい事件があり
加害者に同情した人々の
「自力救済」がトレンドに入っていた

自力救済とは「私刑」のことで
警察などに被害を訴えても動いてもらえない
司法の手を借りないこと
以前、山上徹也被告へも向けられた言葉だった

自業自得や自己責任、因果応報
事件が起これば加害者を自力救済と
人の不幸を娯楽にし、面白がっている

それは誰かを慮る肝心要な想像力の欠如
過剰な自己愛の副産物に思える