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著…桂望実『僕は金になる』

 昭和54年から平成29年にかけての時間軸で綴られる小説。

 「将棋小説」というよりも「歪だけれどどこかぬくもりのある、多様な家族関係を描いた小説」だと思います。

 全体的に穏やかな雰囲気が漂っている作品なので好きです。

 両親が離婚し、母親の方に引き取られた主人公・守。

 守は、母親に嘘をついて時々父と姉に会いに行きます。

 父も姉も気ままそのもの。

 父は仕事をしませんし、姉は高校に行きません。

 天才的に将棋が強い姉が賭け将棋で儲けたお金で、父と姉は生活しています。

 守は「自分には他人より優れたところが無い」と思っているので、将棋を指す時だけは人が変わったように輝く姉のことを羨ましがります。

 けれど、父と姉にとっては、まっとうに生きられる守の方が羨ましいのだそう。

 守は姉に将棋のプロになって欲しくて手を尽くそうとするけれど、姉は己の感覚のみで将棋を指しており、将棋を指したい時に指せればそれで幸せで、強くなろうと努力する気がないし、棋譜を勉強する気もありません。

 父も姉も、世間一般的に見れば「社会不適合者」と評されるような人物。

 父も、姉も、守も、「家族」と呼ぶには微妙な関係性。

 しかし、将棋という存在のおかげで、そしてお互いの存在のおかげで、みんな明日も生きていけます。

 きっとこれからもずっと。

 この小説を読んでいると、「こういう家族関係があっても良いんだ」と寛容な気分になれます。

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