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芦原妃名子『セクシー田中さん』

 今日、夕方。

 わたしは何気なくニュースを観ていました。

 そして、先生の訃報を知りました。

 嘘だと思いました。

 きっとフェイクニュースだ。

 一体誰がこんな趣味の悪い冗談を?

 これ以上先生を追い詰めるのはやめて欲しい。

 ドラマの件で元気をなくしているのだから。

 …と。

 けれど…、残念ながらフェイクニュースでは無いようです…。

 繰り返し流される先生の訃報。

 それを見ながら、わたしは『セクシー田中さん』の1巻と出会った時のことを思い出しました。

 書店の漫画コーナーを歩いていて、ふと、「変わったタイトルだな」と目に止まったのが、出会いのきっかけです。

 「この表紙の女性が田中さんなのかな? 試しに読んでみよっと」とレジへ持って行きました。

 1巻を数ページ読んだだけで、この作品のことが大好きになりました。

 いつも新しい巻が出る度にすぐ買って、「次早く出ないかな〜」とワクワクしながら待っていました。

 田中さんの不器用さや生きづらさに共感し、また、その聡明さ、心の美しさ、脆いけれども芯の強いところを大好きになりました。

 朱里ちゃんは素直で可愛くて面白くて、でも実は例えようのない絶望を抱えていて、なのにお日さまみたいにみんなを照らしてくれるので、わたしは朱里ちゃんのことも大好きになりました。

 田中さんと朱里ちゃんの友情はあったかくて、二人が一緒にいるのを見ると元気を貰えました。

 もしもわたしが二人と会えたなら、朱里ちゃんが田中さんに言った、

 「私 田中さんと出会えたおかげで
  今まで言えなかったことが言えるようになったから」

(芦原妃名子『セクシー田中さん』1巻から引用)


 という言葉をわたしも二人に伝えたいです。

 なぜなら、二人が奮闘する姿を見ていたら、「わたしも頑張ろう!」と思えるようになったから。

 生きていると嫌なことって沢山あるし、誰もが悩みを抱えているけれど、人生は一度きり。

 だから、自分にとって大切なことや楽しいこと、そして大好きな人たちと過ごせる一瞬一瞬を大事に生きていこう! とわたしも思えるようになりました。

 わたしも、曲がった背筋を何度でも伸ばすんだ! って。

 …でも…。

 7巻のはじめに載っている、ドラマ化についての先生の告知コメントが、悩んでいる感じなのが妙に気にかかり、「あれ?」とずっと引っかかっていました。

 何かあったのかな? って。

 原作者が実写化にあたって色々意見を言うのはよくあることだけれど、まだ『セクシー田中さん』は連載中の作品。

 連載という激務を抱えながら、脚本の直しもしなければならないというのは、想像を絶する大変さだったのではないでしょうか?

 『セクシー田中さん』のドラマ化は楽しみだったけれど、いざ始まっていると、「あれ?」となんだかモヤモヤしました。

 実写化ってそういうものだよな…と思いつつも、先生が原作で大切に描いた部分が大切にされていない感じがして。

 そもそも「実写化ってそういうものだよな…」という考えそのものが間違っているのかもしれませんが…。

 作家にとって作品は我が子か分身にも等しいのに、それをいじくられて、先生はショックを受けているのではないかな? と勝手ながら心配していました。

 『セクシー田中さん』については俳優の皆さんの演技が素敵だったので観続けはしましたが…。

 特に、田中さん役の木南さんも好きなので…。

 でも、先生や脚本家のSNSを見ていると、先生がドラマの制作側とのトラブルでどんどん元気をなくしていくのも伝わってきて、胸騒ぎがしました。

 …わたしはいちファンにしか過ぎないので、先生の本心ははかりかねますが、先生が自ら死を選ぶほど追い詰められてしまったのがただひたすら悲しいです。

 誰が悪い、なんて責める気は起きないです。

 責めたからといって先生は生き返りません。

 もしかしたらこの件でファンが誰かを責めるとしたら、先生は悲しむかもしれませんし。

 人の心の機微を繊細に描いてきた方ですから、きっとご自分以外の誰かが責められることにも心を痛める方なのでは無いでしょうか?

 そのことが、先生がSNSに遺した最後のコメントにも表れている気がします。

 ただひたすら悲しいです…。

 『セクシー田中さん』が未完の作品になってしまったことも、先生がこれから生み出すはずだったであろう作品たちともう出会えないことも、ただひたすら悲しいです。

 心からご冥福をお祈りいたします。

 失われた命は決して戻らないけれど、せめて今わたしの周りにいてくれる人たちには、7巻で朱里ちゃんが田中さんに言う、

 「田中さんが
  誰を選んでも
  誰も選ばなくても
  背筋をピンと伸ばしていても
  時々曲がっても
  私は
  いつでも
  田中さんの味方です」

(芦原妃名子『セクシー田中さん』7巻から引用) 


 といった言葉をたくさん贈りたいです。

 そして、これからも、わたしの本棚にある『セクシー田中さん』を全巻大切にしていきます。

 わたしを含め、みんながこれからも愛し続ける作品だと思います。

 たとえもう、続きを読めないのだとしても。

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