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同時上映

 私が小さかった頃、家族と見にいく映画の中に、ときどき同時上映のものがあった。
 記憶にあるのは、アニメーション映画の二本立て。片方が30分程度の短い作品で、一方が一時間前後の作品である。
 二作品連続で見たから疲れた、といった覚えはなく、幼いながらに映画を楽しんでいたと思う。

 大人になってから知って驚いたのは、かの有名な『火垂るの墓』と『となりのトトロ』も、同時上映だったということである。
 この二作品が上映されたのは、1988年。私はまだ生まれていない。そのため、上映された当時の様子を知る由もなく、あとから書籍を通して知ることになる。
 両手で数えられないぐらい見てきて、親しんでいる作品でもあったから、この作品を連続で見るという事象に興味が沸いた。特に、当時の映画鑑賞者の様子、感情の起伏に。
 あまりに気になりすぎて、一度土砂降りの日、家に篭って、『火垂るの墓』『となりのトトロ』を連続視聴した。前者の世界観と後者のそれが地続きになり、飢えで亡くなった兄妹とトトロと空を駆ける姉妹を、否応にも比較してしまう。このときの感情を、一言では形容できない。

 実際の上映時の館内は、どんな感じだったのだろう。その疑問に対応する記述を、以前ある書籍の中に発見した。

「封切り時の二本立てを劇場で観たとき、「火垂るの墓」上映中にうろうろ歩き回っていた学童未満の子どもたちが、いつのまにか静かになっていた。そして、大トトロが傘に落ちてきた雨だれにビリビリ震えると、大声をあげて笑った。理屈じゃないのだ。
 月夜のトトロが傘を手にしてお祈りし、力みかえったあげくにポンと芽がでる。このときも小さい子が大喜びして笑い声をたてた。わたしもこのシーンが好きだ。芽がみるみる伸びて、ものすごい大樹になってしまうところも本当にいい。」
荻原規子『もうひとつの空の飛び方』角川文庫、P66)

 上記の文章を読んだとき、「そうきたか!」と思わず唸った。映画館を訪れるお客さんであれば、漏れなく最初から最後まで映画を見る、と思うのは「決めつけ」だった。映画の内容についていけず、席を離れてしまう子どもの存在にまで、想像が及ばなかった。
 おそらくトトロ目当てに足を運んだ親子連れが多かっただろう。そうなると、連続視聴可能な親(大人)の側の反応が知りたいものだが、残念ながら荻原規子はその点について語っていない。
 ……とはいえ、『火垂るの墓』『となりのトトロ』同時上映時の館内の様子が知れただけでも、貴重である。こういう情報は、後世に残りにくい。



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