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【土佐の皿鉢料理】華やかな皿にあふれんばかりの山海の幸(高知県高知市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2023年1月号より)

「土佐料理 つかさ 高知本店」の目を見張るほど立派な皿鉢さわち料理を前にしてお話を伺ったのは、RKC調理製菓専門学校の元校長で、土佐料理に精通する三谷ひでさん。

 皿鉢料理の起源は直会なおらい*1にあり、江戸時代、本膳料理*2に彩りを添えるために、料理を大皿(皿鉢)で供したのが始まりだという。

*1 祭事後に神前から下げた神酒みき神饌しんせんをいただく酒宴
*2 日本料理の正式な膳立て

土佐料理 司 高知本店では華やかな九谷焼の大皿を使用。おめでたい絵付けの皿が多い(上下写真)

「その後、皿鉢料理は形式を重んじる本膳料理から離れて、土佐ならではのおきゃく文化と結びつきながら独自に発展し、郷土料理として定着したんです」

「おきゃく」とは土佐弁で宴会のこと。気どらない宴で杯を交わすのが大好きな土佐の人。そこに欠かせないのが皿鉢料理なのだ。

大人も子供も一緒に食卓を囲む昭和50年頃の「おきゃく」のひとコマ 写真提供=三谷英子

 皿鉢料理は、特定の料理を指すわけではない。「大皿に盛りつけてあれば皿鉢料理。ルールはあってないようなもの。ただ、会席料理と同じように前菜からメイン、甘味まで……全部盛り込むのが基本ですね」と三谷さん。

「決まりはないけれど……皿鉢料理に鯖寿司(写真下)はマストね!」と三谷英子さん(写真上)

 おきゃくの規模に応じて皿鉢の数は変わるが、もともとは、旬の魚の刺身のみを盛りつける「生」と、寿司や煮物、揚げ物、果物などさまざまなメニューをまとめて盛りつける「組み物」に大別でき、別々に出すのが基本だった。そのほかにも、大人数になるほど、そうめん、蒸し鯛、ぜんざいの大皿など、バラエティーに富んだ皿鉢料理が見られたという。

高さを出して美しく盛りつける
看板メニューのかつおのたたき。「高知は魚の皮をおいしく食べる知恵に富んでいます」

「昔のように大勢が集うおきゃくは少なくなって、今はこんなふうに一つの皿に盛り合わせる『全組ぜんくみ』がほとんどですね」

「土佐料理 司 高知本店」の皿鉢料理。総料理長・伊藤範昭のりあきさん曰く「豪快さが皿鉢料理の真髄です」。同店は、郷土料理を「土佐料理」と命名して広めた1917(大正6)年創業の老舗
土佐料理 司 高知本店の店長・北村宏輔さん。「近年は、皿鉢料理のテイクアウトや県外発送も承っています」

皿鉢料理のよいところは、「調理をする人も、ご馳走をさっと出し終えたら、一緒におきゃくに加われること。好きなものを好きなだけ楽しめますしね」と教えてくれた。土佐のおきゃくには、こうした点がよく合っていたのだろう。お正月や結婚式も皿鉢料理で祝うという。「人数を気にせず融通が利くし、自由で合理的よ」。そして何より、土佐人のおもてなしの心意気があふれている。

文=神田綾子 写真=阿部吉泰

ご当地INFORMATION
高知市のプロフィール
土佐藩の城下町として発展した都市。街のシンボル高知城は、初代藩主・山内一豊とその妻千代が礎を築いた土佐24万石の歴史ある城。毎週日曜、高知城から東へ約1キロにわたり約300の露店が並ぶ「日曜市」は、快活な土佐弁が飛び交い多くの客でにぎわう

問い合わせ先
土佐料理 司 高知本店
☎088-873-4351
https://kazuoh.com/

高知城 高知城管理事務所 ☎088-824-5701

出典:ひととき2023年1月号

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