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「ひととき」の特集紹介

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旅の月刊誌「ひととき」の特集の一部をお読みいただけます。
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#伝統工芸

【井波彫刻】次世代の彫刻家、田中孝明さん「目の眩む明かりではなく、軒先に下がる灯を発信していきたい」

 井波彫刻は欄間、というイメージを強く持っていればいるほど驚きが大きいのが、田中孝明さんの作品である。最初に目にしたのは、3体の女性像だった。細やかに匂い立つような小さな姿。それぞれ名がついていて、「たね」「みず」「ひかり」。田中さんは言う。 「観る方がその方なりの種子を見つけていただき、水を与え、光を浴びて芽を出していけるように、との願いです」  表面の滑らかさも鑿だけの技だ。サンドペーパーではどうしても質感が生まれない。糸のように細い刃で、囁くように削っていくのだろう

【駿府の工房 匠宿】静岡の伝統工芸に触れる|林家たい平さんと楽しむ駿河和染

駿府の工房 匠宿駿河和染、駿河竹千筋細工や漆など、今川・徳川時代から静岡に伝わり、いまも大切に受け継がれている伝統工芸の数々に触れられ、体験もできる。伝統工芸の体験施設としては国内最大級。広い施設内の各所に匠の技がちりばめられているので散策も楽しい。 地元・丸子の養蜂場の蜂蜜を用いたドリンクなどが味わえるカフェ「HACHI & MITSU」、地元の名店の味を引き継ぐ「蓬きんつば ときや」、クラフトビールなど食も充実。静岡みやげも揃う。 型染体験~「ミナ ペルホネン」の描き

【駿府の工房 匠宿】お茶染めでサスティナブルな染物を|林家たい平さんと楽しむ駿河和染

丸子宿~東海道五十三次 二十番目の宿場 丸子宿にある「駿府の工房 匠宿」。鷲巣恭一郎さんは、工房「竹と染」内の和染の工房長になって1年余り。静岡の茶葉を使った独自の染物を編み出したパイオニアで、「お茶染めWashizu.」を立ち上げた。 「紺屋町にあったうなぎの寝床みたいに細長い家に育ったんです」。半纏やのれん、幟など印物と呼ばれる型染を請け負う紺屋は、染めの作業で布を張るため細長い土間が作業場で、鷲巣さんはその五代目に生まれた。病に臥した父の後を継ごうと決めたのは21歳。

【静岡市立芹沢銈介美術館】林家たい平さんと楽しむ駿河和染

「やあ、今日は富士山がめちゃめちゃきれいだね」と林家たい平さん。  目指す芹沢銈介美術館は、登呂公園内にある。教科書にも載っていた高床式倉庫の先に、くっきり富士が姿を現していた。  たい平さんが、芹沢銈介の存在を知ったのは武蔵野美術大学3年生の時。落語家になることを決めていたたい平さん、落語家必須の手ぬぐいが世間から忘れられつつある状態を危惧し、手ぬぐいのよさをポスターで表現したいと先生に相談した。 「そしたら、『芹沢銈介*という人がいるから見てみなさい』と言われて、図

【奈良】甦る仏像~新納忠之介の技と心を継ぐ者たち

 よく晴れた青い空に、ラクダのこぶのように、あるいは猫の耳のように、ふたつの頂がくっきり浮かんでいる。奈良と大阪にまたがる二上山だ。ふたつがいかにも仲睦まじそうでほのぼのした気分となりつつ、この山を背にして建つ當麻寺へ向かった。  来る前に聞いてはいたが実際に仁王門を目にし、思わず声をあげてしまう。ふたつ並んで守っているはずの仁王様、金剛力士像のひとつが欠けている。まるで二上山のひとつの頂が姿を消したかのような喪失感。残るもうひとつの仁王様も恐い形相ながら、どこかさみしそう

倉敷ガラス──民藝との出会いの物語

 ガラスとはもっと親しくなれる。 日本人とガラスは、もう2000年くらいにもなろうかという長い付き合いだ。それほどはるか昔に、人間がおこす火のなかでいくつかの物質が溶けて混じり合い、生まれたのがガラスである。  光を受けてさまざまな色に輝く美しさから、古代では宝石と同じくらい貴重で高価だったガラス。いまは私たちのまわりに当たり前にあり過ぎて、生活を支えてくれていることさえ忘れがちだ。だが辺りを見回してみれば、スマートフォンのディスプレイ、薬品を封じ込めるアンプル、グラスフ