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「ひととき」の特集紹介

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旅の月刊誌「ひととき」の特集の一部をお読みいただけます。
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#動物アート

「奇想の絵師」の才能が開花した地へ|南紀と長沢芦雪(和歌山県串本町)

串本町 本州最南端へ 江戸時代後期の天明の世、ひとりの絵師が本拠地である京都をあとにして紀伊半島の南部へと旅に出た。その名を長沢芦雪。写生を重視した円山派の祖、円山応挙の門弟である。  旅の目的は届け物だった。本州最南端の地、串本町の無量寺は地震による大津波で流失する悲運に遭ったが、およそ80年後に当時の住職だった愚海和尚が再建した。愚海は応挙と長年の親交があった。ずっと再建に奮闘する愚海に応挙はつねづね言っていた。 「あなたの寺院が完成したときは、前途を祝い必ずわたしの

【東天王 岡﨑神社】おみくじも提灯も卯づくし「狛うさぎ」|京都 動物アートをめぐる旅

「京都は歴史があるだけでなく、同時に新しいものを受け入れる自由な気風がある。そこがこの街の底力だと思います」  伝統と現代を掛け合わせる竹笹堂*のセンスに心酔した様子の金子さんと訪れたのは、平安神宮近くの岡﨑神社。平安遷都に際して王城鎮護のため、都の東(卯の方位)に建立されたことから東天王とも称されている。また、かつてこの地域一帯にノウサギが多くいたため、兎は氏神の使いと伝えられている。その境内には、昭和時代の提げ灯籠などとともに、平成と令和に建立された狛犬ならぬ「狛うさぎ

新年特別鼎談「京都──動物アートの魅力」@京都国立博物館

神社にいる狛犬は……金子信久 今日は動物の美術のお話を面白くできるといいなあと思って参りました。京都国立博物館は動物アートの宝庫ですよね? 淺湫 毅 例えば当館には獅子と狛犬がたくさん寄託されているんです。獅子と狛犬は私の専門分野である仏像ではないので、赴任前はあまり詳しくなかったのですが、縁起物ということでお正月に獅子と狛犬の特集展示をすることがありました。慌てて勉強しましたが、これが面白くて。 金子 獅子と狛犬は日本人にはおなじみの存在ですよね。 淺湫 ええ。でも、

風船みたいなぷっくり象(養源院・俵屋宗達『白象図』)|京都 動物アートをめぐる旅

「涅槃図には動物たちがたくさん描かれているでしょ。お釈迦様の死を動物たちが泣いて悲しんでいる絵。とくに象は、大きな体をよじるようにして、おいおい泣いている。あれを見るとすごくきゅんとしてしまうんです」  京都に向かう新幹線の中でそんな話をしてくれた金子信久さん。動物を探しながらの京都美術散歩のトップバッターは、洛東にある養源院だった。1594(文禄3)年、豊臣秀吉の側室・淀殿が父・浅井長政の追善のために建立した寺である。 「ここには、俵屋宗達が描いた素晴らしい白象がいるん