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「ひととき」の特集紹介

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旅の月刊誌「ひととき」の特集の一部をお読みいただけます。
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2024年1月の記事一覧

【どぜう飯田屋】伝えたい老舗の小鍋|浅草鍋めぐり

 池波正太郎さんは隅田川の畔、待乳山のある聖天町*で生まれ、浅草、上野で育った。著作には鍋も登場する。記念文庫がかっぱ橋道具街の北端にあり、観覧してから鍋めぐりといけば興趣が深まるというもの。池波さんは「江戸風味の酒の肴」*というエッセーに「……江戸湾には隅田川や神田川がながれ込んでおり、その川水と海水とが混じり合った特殊な水質に育まれた魚介は、独自の味わいをもっていたのである。……貝類は、葱をつかって鍋にもする」と書いている。 「ともかくも、さっぱりと手早く調理をして出す

浅草のすき焼き文化を牽引する名店「ちんや」へ|浅草鍋めぐり

 食いしん坊の父は、外食で覚えた味を家で蘊蓄を傾けながら家族に食べさせるのが好きだった。鍋もよくやり、すき焼きともなると、肉やねぎはあの店で買えと指令を発し、大晦日も正月もすき焼きを囲んだ。食を通じての団欒にはひとつ鍋を囲む鍋ものがいいが、とくにすき焼きはおすすめ。肉を入れるや、座は静まり、誰もが鍋を見つめ、このとき心はひとつになる。肉、脂、ねぎの風味が醤油と砂糖にくるまれて放つ香りに、人は誰も抗えない。わたしがすき焼きこそ日本の最高のごちそうだと思い、“すきや連”を主宰する