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「ひととき」の特集紹介

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旅の月刊誌「ひととき」の特集の一部をお読みいただけます。
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2023年5月の記事一覧

【井波彫刻】次世代の彫刻家、田中孝明さん「目の眩む明かりではなく、軒先に下がる灯を発信していきたい」

 井波彫刻は欄間、というイメージを強く持っていればいるほど驚きが大きいのが、田中孝明さんの作品である。最初に目にしたのは、3体の女性像だった。細やかに匂い立つような小さな姿。それぞれ名がついていて、「たね」「みず」「ひかり」。田中さんは言う。 「観る方がその方なりの種子を見つけていただき、水を与え、光を浴びて芽を出していけるように、との願いです」  表面の滑らかさも鑿だけの技だ。サンドペーパーではどうしても質感が生まれない。糸のように細い刃で、囁くように削っていくのだろう

【井波彫刻】木槌の音が響く町、井波彫刻のみなもと(富山県)

綽如上人が開いた瑞泉寺井波には木彫刻の長い歴史が流れ、現在も100人をこえる数の人が制作に携わっているという。まさに日本を代表する木彫刻の聖地である。そのみなもとが八日町通りに導かれる古寺であると聞いてきた。真宗大谷派井波別院瑞泉寺だ。  山門が見えてきた。瑞泉寺は、砺波市と南砺市にまたがる高清水山系の北端である八乙女山を背にして立っている。  輪番(別院の最高責任者)の常本哲生さんに訪問のごあいさつをする。背筋の伸びた立派な体格であり、きわめて物腰の柔らかな高僧の常本さ