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旅と野球

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全国津々浦々にあるもの、それは美しい空と自然、そして野球場。誰もを魅了するスターだって、彼らに憧れるスター候補だって、諦めちゃった趣味人だって、グラウンドに立てば皆同じプレーヤー… もっと読む
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#エッセイ

空を見上げて、飛んでいるものを追っかけて笑顔になれる。それが尊い日常ってやつだ。(宮城県石巻市 石巻市民球場)|旅と野球(4)

「日常の尊さって、なくなってはじめて分かるんですよ」  そうなんでしょうね。畳店の主人の言葉に頷きながら、僕は少し前に名古屋の住処のそばにある公園で見た草野球のことを思い出していた。  巷の正月休みもそろそろ終わりを迎える休日だった。  大柄な少年が打席に入り、ユニフォームを着た子どもたちが守備についていた。地域の少年野球チームの練習試合なのだろう。審判はコーチらしき男性で、周りにはベンチコートを羽織った母親たちが見守っている。  公園の隅っこには、孫との凧揚げを楽し

過去は懐かしむもんだ。ただ、心の中にとどめとけ。(名古屋市東区 バンテリンドーム ナゴヤ)|旅と野球(2)

「@*&%$#!!!!!!!!!!!」  中日ドラゴンズの打者、宇佐見真吾が放ったサヨナラヒットで、球場内は言葉にならない大歓声ではち切れんばかりになっていた。  僕も周りと一緒になって歓声を上げながら、一瞬、すべての動きが止まる静寂があったような錯覚に陥っていた。  そんなわけない。  9回の裏。1対1の同点。相手は宿敵の読売ジャイアンツ。ドラゴンズの打線が相手投手を攻め立てて一死満塁。お盆の最中で満員の観客。  あらゆる要素が、静寂を拒否していた。今宵最大のチャ