創業期プロジェクトの振り返り~幾度とない危機を乗り越えた赤裸々体験談

 この文章は、2019年11月末に開かれたPOLA ORBISとの共催イベントについて、始まりから終わりまでを振り返ったブログです。今でこそHonmonoはいろいろな企業から信頼を得られ仕事をもらえるようになりましたが、もちろん最初は経験も実績も信頼も何もない状況でした。そんなときにどうやって未知のプロジェクトを準備し、完遂したのか。そんな記録を赤裸々にお伝えします。

参考:(株)ポーラオルビスホールディングス主催「ちょこっと展」に、Honmonoがコラボ参戦決定!11月29日に「体感イベント~冬の陣~」を開催へ!


コラボの始まり

 「ご相談ですが、今回のPOLAの件、プロジェクトリーダーしませんか?」
 9月11日、朝起きてスマホを見るとそんなメッセージが入っていた。受信時間は午前6時14分、Honmono代表の三井所健太郎さんからだ。

(朝、はやいな)

 Honmono協会に加入したのが9月1日だから、そこがどんな協会で、どんな人が集まっているのか、まだよく分かっていなかった時(もっとも、この原稿を書いてる時点でもまだよく分かってないけど)。
そうだ、その前に言っておくと、この日記は2019年11月29日に開かれたHonmono協会と㈱ポーラオルビスホールディングス(ポーラオルビス)の共催イベント「ちょこっと展×体感イベント 冬の陣」とその準備段階について、起こった事柄を記録したもの。
ただし、Honmono側のプロジェクト・マネージャー(PM)をやった大竹一平の心の動きが中心。だから一人称だし、その表現は原稿を書きながら、その時の心境によって「オレ」または「おれ」、「自分」になっていくんだと思う。雰囲気的に「私」と「僕」はないと思うけど。


 さて、Honmono協会とPOLAが共催でイベントを開く。まだ加入して日が浅いなりに、このコラボレーションの意味と重要性はなんとなく感じていた。

・すべての作家、職人、クリエーターに向けてHonmono協会の知名度を上げること
・Honmono協会として大手企業とコラボレーションすることで、法人向けの実績をつくり、次の新規プロジェクトへつなぐこと
・メンバー同士のつながりをより深めて協会の可能性を高めること

(だいたい、そんな感じだろうか?)

 朝のボーっとした頭でそんなことを考える。ならば、今回はイベントであるものの、これまでやってきた雑誌編集の仕事に必要な「様々な能力を集めて」「記事として編む」経験はある程度活かせる、はずだ。なにより、オレとHonmonoの初コラボにもなる。

 うん、やってみようか。


初回打ち合わせ

 9月17日、午前10時からポーラオルビスの担当者と第1回目の打ち合わせが決まっていた。場所は東京駅近くの「ワークスタイリング八重洲」。当日、少し早めに着くと「1階のカフェにいます」と三井所さんからメッセージが入っていた。
BMWがアンテナショップ的にやっているそのカフェに入ると、木目と白を基調にしたインテリアが爽やかなうえに、広い通りに面した一面がガラス張りになっていてとても明るく、居心地がいい。

 席を見回すと三井所さんがいた。そしてもう1人、今回SNS発信で広報に能力を発揮してくれるだろう矢嶋巧さん(やじーさん)も一緒にいる。そうか、やじーさんってこの日で会うの2回目だけど、名前「巧」っていうんだ、いかにもHonmonoっぽい。

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BMW GROUP TERRACE、始まりの場所


 打ち合わせに入ると、ポーラの担当者、神倉諒さんは少し肩に力が入っているように見えた。今回のイベントを開くポーラオルビスが展開する『ノワイエ』は、ポーラの社内ベンチャーとして神倉さんが手を挙げ、始まったプロジェクトらしい。そしてイベント開催自体がポーラオルビスとしては初めての試みで、その分、社内でも様々な声がある気配。

 ポーラオルビスとして初の勝負。会社の看板を背負い、期待という形をとった社内からのプレッシャー、集客失敗=イベント失敗に対する恐怖。話を聞いていてそんなものをひしひしと感じる。


 よっしゃ。ならばむしろ、やったろうじゃないの。
 まったく根拠はないけど、Honmonoの能力が集まればなんとかなりそうな気もしていた。隣を見るとやじーさんもそんな顔をして頷いている。大丈夫だ。

 Honmonoが担当するミニイベントとして、ビデオグラファーの佐久間一璃さんが先に進めている「カメラ女子」は決まっていたので、加えていくつかの案を提案する。神倉さんの中では案の最初に入れた日本酒試飲のインパクトが強かったようだ。試飲に関しては関西のヌイコさんからもたくさんの協力先や蔵元を挙げてもらった。
 やじーさんの軽快なトークと三井所さんが放つ得体の知れない代表オーラのおかげもあって、打ち合わせを始めてすぐ、企画の方向性はほぼ決まっていた。

・酒の試飲を柱とする

 試飲を軸に、その他の企画案も含めたイベント内容をポーラオルビス内部で9月末をメドに検討、決定してもらうことにして、打ち合わせは終わった。


冷める、切る

 10月3日、2回目の打ち合わせは同じく八重洲。タイミング悪くHonmonoから参加できたのは、結果的に自分一人だった。それも悪かったのかもしれない。終始、打ち合わせの空気が重く冷たい。


 提案した企画はもちろん、決まったはずの試飲を軸とすること自体、神倉さんの反応が鈍い。前回あんなに盛り上がった話題なのに。理由は、直属の役員からの「酔っ払いが会場で暴れたらどうする」、といった一言だと。
神倉さんの中で試飲に対する熱、加えてまずいことにHonmono自体がこのイベントに参加する意味合いまでも、急速に冷めてしまっている。


 そして、とどめを刺された。

 「ノワイエのアプリユーザー120万人を通してイベント告知をします。それに、ポーラの営業先にも声をかけていて、期間中通しで1000人という集客目標は軽く達成できる見込みになりました。むしろお聞きしておきたいのが、Honmonoとしてこのイベントにどれだけの集客ができるのか、です」

 悔しいことに、そう言われて即座に効果的な言葉を返せない。

 切られるのか?

 たしかに集客は当初からの課題だった。このプロジェクトが始まってすぐ、漆作家の伊藤ミナ子さんからも「大手企業から工芸系のイベントについて仕事の相談は来るものの、結局集客ができなくて続かないケースも多いので、だから集客は大切な鍵になります」とアドバイスを受けていた。
なのに、まだなにも用意が出来ていなかった。

 打ち合わせを終えて三井所さんに報告すると、彼は彼なりに、ある悩みを感じていた。
 「Honmnoがこのイベントに参加する意味がどこにあるのか、試飲を軸にすると意味合いが難しい気はしてたんです」


 そうか、試飲に限らずおれから出した企画案は、Honmmonoメンバーならではという要素が弱かった。だから前回の打ち合わせでもイマイチすっきりしない表情だったのか。
 そうか、それも失敗だった。

(だめだ、おれ、あちこち完璧に失敗してるわ)

 その週末の土曜日、10月5日には九段でHonmono協会の半期を振り返るミートアップが開かれていた。その場でポーライベントの途中経過報告。当然ながら、話を聞いたメンバーは一様に暗い顔になる。
 口数が減る。
 空気が重くなる。
 気持ちも空気も、すべてが冷める。

 俯いたまま、三井所さんがポツリと言った。
 「場合によっては、そこまでして今回のイベントに参加する理由もないと、考えるようになりました」

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どんより……


 ただ、実際にはそこからがHonmonoの底力だった。


立て直す

 報告の後、ディスカッションに参加していたディレクター高橋真優さんはすぐ、企画者としての観点から悔しさに同調してくれつつ、企画へのアドバイスを送ってくれる。稲石勝人さんは「女性向けのイベントなので、次の打ち合わせは女性メンバーに同席してもらったら?」と一言。たしかに、これまでの打ち合わせに出たのは三井所さんとやじーさん、それにおれ、女性向けイベント提案としては微妙なメンツかもしれない。

 いずれにしても、そんなアドバイスの1つ1つが沁みる。


 さらに料理研究家の槻谷順子さんとお花の先生の諸我和美さんにも救われた。2人はもともと「ワークショップなど必要なら喜んでやる」と言ってくれていた。槻谷さんから「蕎麦猪口を使って和食を盛り付けるレッスン」、諸我さんには「蕎麦猪口を使った花のアレンジメントと花セラピー」の提案をしてもらう。

 大丈夫。局面は替わった。淀みは既に消え、再び流れが生まれた。

 そうやって、あらためて方向性が決まった。

・蕎麦猪口和食盛り付け
・花セラピー

 この2本なら内容としてポーラ上層部が心配するような事態は起きない。三井所さんが危惧していたHonmonoとして参加する意味合いも深くなる。もちろん、ポーラが期待する客層、女性に向けたイベントとして力がある。

(これで立て直せた。いや、立て直してもらった)

 そこでフト思い出した。自分がHonmonoに初めて触れたのは、8月の「体感イベント夏の陣」だった。あれだ。そうだよ、そうしよう。

「POLA×Honmono体感イベント 冬の陣」

これで行こう。

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ミートアップ会場の九段下「REYADO HOTEL KUDAN」、再起の場所


一気呵成

 10月18日、八重洲で神倉さんと3回目の打ち合わせ。今回は槻谷さんにも参加してもらう。槻谷さんの和食盛り付けイベント企画書、同席はできなかったが諸我さんが事前に用意した花セラピーイベント企画書、この両案を出す。
 槻谷さんの淀みないプレゼンで、神倉さんも一気に企画に引き込まれていくのが分かる。実際、この日の打ち合わせは一瞬も立ち止まったり、後戻りしたりすることなく、両案ともに完璧にポーラ、神倉さんに受け入れられた。

 ここからは早かった。ミニイベントの内容と準備はお2人にそれぞれ進めてもらい、三井所さんはイベントを進めるための環境整備と、小道具の確認。やじーさんにはSNS広報のイメージを広げてもらう。
 またその間に、TeaRoomの岩本涼さんからイベント来場者に供するお茶の提供を受ける、そのお茶を飲んでいただくために漆塗りのお猪口をミナ子さんからお借りする、メンバーではないけど企画段階で協力してもらった益子焼の川尻製陶所のお猪口も使ってもらう、さらに展示用にはミナ子さんから漆のお猪口の新作、日本工芸の松澤斉之さんから酒器、ジュエリーデザイナーの犬塚崇文さんからお猪口風の金胎陶芸アクセサリーをお借りする、そんなことがどんどん決まっていく。

 Honmonoメンバーの力、すげーな。


 霧の中にあったミニイベントの全体像がどんどんクリアに見えてきた。
同時に、食べ物を扱うので念のため、港区のみなと保健所に必要な申請事項も確認しておいた。パートナー企業の規模に関わらず、共催相手がある限り、些細なことでも相手に迷惑をかける可能性は避けたかった。

 11月6日のSNSプロモーション会議にはやじーさん、槻谷さん、諸我さんと、オレの計4名、ツイッターとFacebookを中心に展開してくことを確認。気づけば開催までもう残り3週間。実はインスタグラムでのプロモーションでモデルをやっているYukiさんの手を借りたかったもののどうしても予定が合わず、その代わりイベント開始日からはバリバリ参加してもらうことになっていた。
 SNS展開で難しいと感じたのは、やはりツイッター、Facebookともに、発信するテキスト(文章)をつくる手間。事前のイメージではこの6日の場で極力そのテキストを用意しようと思っていたのだが、実際には叶わなかった。そこはおれ含めたライターにとって、次の課題。


華やかなレセプションからの泥臭い作戦

 11月22日の会場ロケハン(下見)で初めて、青山一丁目にあるポーラビル「Studio164」に入る。思ったよりも広い。加えて思ったより展示がシンプルな印象。展示に使う台は会議室の事務机だ。現場に来られなかった人のためにチャットワークへ写真をアップすると、やはりこのシンプルさ、むしろ素っ気なさに驚きの声が返事として上がってくる。


 ただこのシンプルさが、逆に犬塚さんや槻谷さん中心に “展示者魂” に火をつけた。
 「うちらのミニイベントでは本職の違いを見せてやろう。少しの工夫でぜんぜん見え方の印象が変わるところを披露しよう」


 同時に槻谷さんは水回りなどもチェック。展示がシンプルすぎることを除けば、ワークショップの運営に問題はない。

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イベント会場の「Studio164」、Honmonoブースロケハン


 11月26日、ポーラのイベント自体は11/27から12/1のため、初日を迎える前にレセプションが開かれた。普段から忙しい松澤さんも仕事の予定の合間を縫って15分だけ来場、初めて挨拶を交わす。三井所さんはもちろん、槻谷さんと諸我さん、やじーさん、そしてYukiさんも顔を出し、賑やかになってきた。

 その帰り際だ。諸我さんがポツリと言った。

 「ビラ配りとかやりませんか? 最後まで泥臭く集客したいんです」

 ビラは自分がつくるから配ろうと。ならばとHonmonoが担当するミニイベント前日、28日の18時に集まって周辺でビラ配りすることに決定。ビラ配り隊長の諸我さん、やじーさん、そして自分の3人でやることになったが、27日の夜に諸我さんからメッセージが入った。

「ビラを配るのに道路許可証が必要と聞いたのですが、どうしましょう⁉」

 え、そうなのか!

  三田警察署に電話し確認するとやはり道路許可証が必要だそうで、申請から取得まで早くて中1日、通常2~3日はかかるそう。28日はもちろん、29日のミニイベント当日にも間に合わない。
 「せめて会場内でだけでも配りましょうか」と28日の18時にビラ配り隊でいったんポーラビルに集合し、神倉さんに相談してみることに。

 すると、正直ちょっと意外な感じの答えが返ってきた。

 「そこまでやってもらって、ありがとうございます。本当はこちらがやらないといけないんですが。いや、私も実は少しビラ配りはしたんです。だから、もうやっちゃってもらってかまいません! 配っていてなにか言われたら『神倉も配っていたから』って言ってもらって構いませんから」

 おー!!!
 お墨付きを得た3人でポーラビル周辺、青山一丁目駅付近でビラを配る。

 が、11月末の日が落ちた18時は暗いし寒いし、だから余計に足早に家路につく人たちばかりで、ビラなんて誰も受け取ってくれない。しかも駅前にはお巡りさんがいて、我ら「非公認なビラ配り隊」としてはビビる。


 方針を変えて居酒屋のレジ脇に置いてもらおうと、ポーラビル地下の「笑笑」へ。なんとそこで感じよく置いてもらえた! ありがとう笑笑! その勢いで隣の居酒屋「旬海山台所 ひだまり」にも、さらに勢い余って2階の「青山外苑前クリニック」、多少ビビりつつも1階の超高級外車ディーラー「CORNES 青山ショールーム」、再び外に出てポーラビル近くの蕎麦屋「青山長寿庵」にも飛び込み、なんとすべてに置いてもらう。すごい!

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11月末夕方の青山一丁目、暗く寒く、優しかった場所


冬の陣、開幕!

 11月29日、ついにこの日がやってきた。「ちょこっと展×体感イベント 冬の陣」の開幕だ。開場は午前11時、その前の9時半に三井所さん、犬塚さん、槻谷さん、諸我さん、やじーさんが集まって準備を始める。

 事前の盛り上がりの通り、展示は犬塚さんと槻谷さんが中心になってどんどんセッティングが進む。それぞれが持ってきた布やシート、そして関西の北村充望さんから送ってもらった布も効果的だ。

 朝からの準備メンバーに加えて、会場ではカメラマンの李嘯さんが記録用の写真と映像を撮影している。会場の外にいるYukiさんにはやじーさんが頻繁に動画を撮って送り、インスタ用に加工してもらいつつ、送るたびに「もう少しブレないよう撮ってください」とツッコまれているようだ。さらに夕方からはミナ子さんも参加する。

 当日はHonmonoからの招待客が40~50人程度の集客だったろうか? 絶対数は小さいが来場者数全体からすれば、半分以上はHonmono関係で占めた印象がある。そして「ビラを見て来た」という人も、少なくとも3人はいた。
 ワークショップに参加した方々には確実に喜んでいただけている。メイン企画ではなくなったものの日本酒の試飲コーナーも開かれ、Honmonoとして蔵元から提供してもらった男山本店の「蒼天伝」も好評で嬉しい。
午後の早い時間帯に人波が途絶えたことはあったが、ランチタイムと夕方から夜にかけてはそこそこの賑わいにはなった。

 もちろん、大成功とはいえない。ただし次に向けての貴重な機会にはなっているはずだ。

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エピローグ

 無事に閉幕し、片づけをしている最中、神倉さんに笑顔で言われた。

 「明日も明後日も来てくださいよ。試飲コーナーでバーテンやってください」

 そう言われて真に受けて、本当は最終日の日曜、12/1も少し顔を出す予定だった。ただ結局は別の予定が入ってしまって青山に行くことはできなかった。
 神倉さんとつながったばかりのFacebookでその旨を伝え、謝ると、短いやりとりの最後に、巨大なサムアップ。


 9月の企画段階からメンバーが知恵を集めたこと、10月から11月にかけて波乱がありながらも準備がスムーズに進んだこと、東京だけでなく名古屋や関西のメンバーからもサポートをしてもらえたこと、終盤のビラ配りもきっと効いただろう、そんな1つ1つを通して、ポーラとHonmonoの縁を次につなぐことは出来たんじゃないか。
 最後にそんな手応えとともに終えられたことが、PMとしては、少し幸せだったりする。


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