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「人類を裏切った男~THE REAL ANTHONY FAUCI(下巻) 」⑤ ポイント抜き出し 5/6~第12章 病原体ゲーム 軍事演習ーバイオセキュリティ国家の誕生(前半)

 2021年11月9日に米国で発売された本書は、書店に置かれず、様々な妨害を受けながらもミリオンセラーとなり、この日本語版も販売妨害を避けるためか、当初はAmazonでは流通させず、経営科学出版からの直売のみになっていたが、現在はAmazonで買うことができるようになっている。

 日本語版は1000ページを超えるために3巻に分けられた。

 本書はその下巻「ビル・ゲイツの正体と医療植民地プロジェクト」だ。

 極めて重要な情報が満載で、要旨を紹介して終わりでは余りにも勿体ないので、お伝えしたい内容を列記する。

 今回は第12章「病原体ゲーム 軍事演習ーバイオセキュリティ国家の誕生」の前半部分。

 生物兵器開発は軍と諜報機関の連携により行われて来た。
 生物兵器開発が禁止された後、抜け道として使われたのが「ワクチン開発のため」との言い分であり、軍産複合体の新たな予算確保のネタが「バイオセキュリティ」だった。

以下、抜き出し。

生物兵器の歴史

 米国が初の大規模な攻撃型生物兵器の研究を開始したのは、1943年春、第二次世界大戦中だった。フランクリン・ルーズベルト大統領の下命を受け、米軍とその盟友である製薬業界が共同で研究を始めた。 製薬業界の大物、ジョージ・W・メルクは、国防総省の攻撃型生物兵器プログラムを運営しながら、同時に自身の巨大製薬企業を経営していた。 メルクは、生物兵器ならば、巨額の費用をかけずに、また巨大な施設を建設せずに供給できると豪語した。そして、生物兵器のもうひとつの利点は、合法的な医学研究という名目で開発を進められることだと指摘した。

 諜報機関は当初から極秘プログラムに関与していた。 ジョージ・メルクの直属の部下フランク・オルソンは、アメリカの細菌学者で生物兵器の専門家であり、CIA職員でもあった。彼はフォート・デトリックの米陸軍生物兵器研究所 (USBWL)で、メルク社や米軍と共に生物兵器や心理戦術の開発に携わった。

 プロジェクト・アーティチョークはCIAの実験的な尋問プログラムであり、LSDなどの向精神薬を使って、より「強化された」 尋問手法を追求した。 このプロジェクトは、個人と集団の両方をコントロールする方法を探っていたCIAの大規模なプログラムの一部だった。

 アメリカ陸軍感染症医学研究所(USAMRIID)の司令官を2年間務めたデビッド・フランツによれば、 1969年までに米国の生物兵器プログラムは「核兵器に匹敵する」兵器を開発していたという。何より難しいのは、生物兵器を偶発的に流出させない管理だ。皮肉にも、フランツは後に、COVID-1パンデミックを招く国防総省とファウチ博士による機能獲得プログラムで重要な役割を果たすことになる。

 1969年末、プログラムには表面上、終止符が打たれた。この年、ニクソン大統領はフォート・デトリックを訪れ、道徳的、戦略的な観点からアメリカの生物兵器プログラムを終わらせると発表し、アメリカは1972年に生物兵器の開発、使用、備蓄を禁止する生物兵器禁止条約に調印し、ほぼすべての研究施設設を閉鎖した。だが、ジュネーブ条約を補完するこの協定の後には、プログラムの復活を待ち焦がれる何千人もの科学者、軍需産業に携わる者たち、国防総省の指導者たちが取り残された。

 生物兵器禁止条約には、ワクチン製造のために炭疽菌などの病原体の製造を認めるという抜け穴があったため、国防総省とCIAの秘密工作員たちは、生物兵器の種子を培養し続けた。

 1983年から1988年にかけ、サール社のCEOだったドナルド・ラムズフェルドは、ロナルド・レーガンのイラク特使として、炭疽菌や腺ペストなどを含む化学・生物兵器を何トンも極秘裏にイラクのサダム・フセイン大統領に送った。イランの百万人規模の軍隊に押されて今にも敗北しそうな戦況を覆そうとしたのだ。

「バイオセキュリティ」なる課題の誕生

 1988年から1991年にかけてソ連が崩壊した後、軍産複合体は揺るがぬ敵を探し求めた。GDPに占める業界の高いシェアを恒久的に正当化するためだ。大半のアメリカ人は「平和の配当」を心待ちにしていた。

 結局、平和の配当が実現することはなかった。1993年の世界貿易センター爆破事件に始まり、9.11に至るまで、イスラムのテロリズムはソビエトに代わって米国の外交政策において最も重要な敵と位置付けられている。

 軍とその下請け業者にとっては、「テロリズム」がソビエトとは異なり、万人にとって長期的な敵であることが安心材料になったかもしれない。テロは戦術であって国家ではない。厳密な定義のない 「テロリズム」は、決して打ち負かすことのできない敵という魅力があった。

 ディック・チェイニー副大統領が「長い戦争」を宣言したときの防衛関連企業の安堵感は想像に難くない。 チェイニーは、この戦争が何世代にもわたって続き、その戦場は「50ヵ国以上に分散する」だろうと請け合った。

 だがテロリズムにも欠点があった。

 年間の犠牲者数が落雷による死者数よりも少ないのだ。そんな脅威に対してGDPのかなりの割合を費やすことを正当化できるくらい、国民の恐怖心を持続させねばならなかった。先見の明のある国防総省の策士たちは、1999年にはすでに、尽きない対戦相手を見据えていた。病原体との戦いだ。

 多くの歴史家は、 2001年10月に起きた炭疽菌事件が現代の「バイオセキュリティ」なる課題の誕生だとしている。しかし、軍事・医療産業複合体の策士たちは、その何年も前からバイオセキュリティを、潜在的なパンデミックやバイオテロを莫大な資金増加につなげるための有力な戦略、あるいは模範的民主国家である米国を世界支配の安全保障国家に変貌させる手段とみなすようになっていた。

ゲームを開始したロバート・カドレック

 生物兵器の専門家ロバート カドレックは、アメリカ人医師であり米空軍の退役大佐だ。2017年8月から2021年1月まで米国保健福祉省準備・対応次官補を務め、トランプ政権時代にコロナウイルス感染症の危機管理を担った。

 感染症は国家安全保障上の脅威であり軍事的な対応を要する、というもっともらしい論理を掲げて、ロバート・カドレックは長年の同志かつ戦友のアンソニー・ファウチに次いで重要な役割を果たした。彼は、1993年の世界貿易センター爆破事件以来、アメリカの生活様式を一変させる炭疽菌テロが差し迫っていると説いてまわった。

 2020年2月1日の早朝2時4分、アンソニー・ファウチ博士は慎重に言葉を選び、カドレック宛にメールを送信した。 ファウチ博士の忠実な研究員であるウイルス学者クリスチャン・アンダーセンから、ある知らせを受け取った4時間後だった。

 その知らせとは、アンダーセン以下、気鋭の生物学者の見解は、「新型コロナウイルスの表面に存在するスパイクタンパク質は、ヒトの細胞表面にあるACE-2受容体と結合することによって感染が成立する。このスパイクタンパク質にはフーリンという酵素によって切断される部位があり、切断の結果、感染が成立するのだが、その部位をコードする遺伝子配列が自然選択の産物である可能性は極めて低い」としたものだった。

 ファウチ博士が同日の夜に送った他のメールからは、新型コロナウイルスにこの遺伝子配列を組み込んだ可能性のある中国の実験に、自分の痕跡が残っていないかと強く懸念していた様子がうかがえる。ファウチ博士の機能獲得研究が新型コロナウイルスを生み出したのだとすれば、カドレックもまた関与していたことになる。

 カドレックは、国立衛生研究所(NIH)の機能獲得実験を承認するP3COと呼ばれる小規模な委員会の委員を務めていた。彼の頭にもこの問題が引っかかっていたことは、ファウチ博士のメールから明らかだ。 ファウチ博士がカドレック宛のメールに添付した論文は、「バット・ウーマン」ことシー・ジェンリー(石正麗)による欺瞞に満ちた内容で、実験室から漏出したとの説から世間の目を逸らそうとする悪あがきだった。

 その後の一連の出来事から、武漢の研究所が新型コロナウイルス感染症を引き起こした微生物とほぼ同じコロナウイルス病原体を操作したことを隠すために、この論文の著者が意図的に嘘をついていたことが証明された。

 カドレックもファウチも10年以上にわたり、国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)とアメリカ生物医学先端研究開発局(BARDA)―――カドレックが設立にかかわったバイオセキュリティ資金提供機関―――を通じてこれらの危険な実験の推進と資金提供にかかわってきた。弁解論文を書いた不運なシー・ジェンリーに数百万ドルもの米国の資金が流れたこともわかっている。

 ファウチ博士のメールには、この2人の技術官僚と彼らの関係者たちが、世界に向けて発信するための疑惑まみれの公式見解を立てるべく証拠をつぎはぎしている様子が描かれている。それから数週間、ファウチ博士は何十年も使い古した手段に頼って、都合の良い作り話を公式な正論へと変えていった。

 1998年、カドレックは国防総省の内部戦略文書を作成し、自らが関与した証拠を残さずに敵に対して展開できるステルス兵器として、パンデミックを起こす病原体の開発を推進した。

 生物兵器は、風土病や自然病の発生を隠れみのにできるため、攻撃する側はもっともらしく関与を否定できる。生物兵器は、多大な経済的損失とそれに伴う政治不安を引き起こす。攻撃側の関与をうまく否定できる点も合わせると、他のいかなる兵器よりも大きな可能性がある。

 カドレックは1999年、米国が生物兵器による攻撃に対して脆弱であると論証するために、自身の妄想をいくつかの「例示的シナリオ」にまとめた。中には「コーン・テロ」と題する終末論もあり、中国が民間航空機を使い、トウモロコシのベト病菌を中西部一帯にひそかに散布するというストーリーだった。

 カドレックは、 2001年4月に国防総合大学ナショナル・ウォー・カレッジで行った研究で、ワクチンや抗生物質などの対策物質を貯蔵する「戦略的国家備蓄」の創設を緊急に提言した。

 この職務を通じてカドレックは熱心なロビー活動を展開し、米国議会に「戦略的国家備蓄」の創設を働きかけた。現在その備蓄は70億ドルに相当する。後にこの備蓄品の購入を管理できる立場になると、カドレックは同志であるビル・ゲイツやトニー・ファウチに倣い、ワクチン産業の友人を儲けさせ、公衆衛生は後回しにするようになる。 ジャーナリストのアレクシス・バーデン=メイヤーが指摘するように、「カドレックは今日のバイオディフェンス産業複合体を作り上げ、それを皇帝のように支配している」。

軍事訓練さながらの「バイオセキュリティ」

 1999年、カドレック博士は米国本土における天然痘テロのシミュレーションを実施した。ジョンズ・ホプキンス大学に新設された民間バイオディフェンス戦略センターと保健福祉省(HHS)との合同訓練だった。

 センターの創設者は、1977年に天然痘の撲滅プログラムを主導したことで有名なドナルド・A.ヘンダーソンであり、共同設立者はタラ・オトゥールだ。彼女はセンターのシニア・フェローでCIAの諜報員でもあり、そして製薬業界のロビイストだった。 ヘンダーソンが去った後は彼女がセンターの指揮を執った。

 3代目のセンター長はトム・イングルスビーで、現在もその任にある。1999年、ビル&メリンダ・ゲイツ財団はジョンズ・ホプキンス大学に2000万ドルを拠出し、 Bill & Melinda Gates Institute for Population & Reproductive Health(ビル&メリンダ・ゲイツ人口・リプロダクティブヘルス研究所)を設立した。

 その後20年間、ビル・ゲイツはバイオセキュリティを国家の優先事項に押し上げる事業に膨大な資金を投入することになる。最も目立った投資先として、バイオディフェンス戦略センターでイングルスビーが主宰した一連のシミュレーションがあった。

 カドレックのシミュレーションと、その後20年以上にわたるビル・ゲイツの指導のもとで継承された多くのシミュレーションには、共通する特徴があった。いずれも、免疫力の強化や適切な食事、減量、運動、血中ビタミンD濃度の維持、化学物質の回避など、健康を守る方法を国民に示すことには重点を置いていなかった。

 パンデミック時に現場で働く医師とのつながりの維持や、最適な治療プロトコルの開発・改良の促進、あるいは重要な通信インフラの整備に焦点を当てているわけでもなかった。また、死者数を減らし、パンデミックの期間を短縮できるような市販薬の特定、つまり既存薬転用の必要性を真剣に検討してはいない。病人を隔離して弱者を守る方法、介護施設などにいる人々を感染から守る方法について考える研究もなされていない。マスク、ロックダウン、ソーシャルディスタンスの有効性に疑問を投げかける研究も皆無だった。世界的なパンデミックの中でいかにして憲法上の権利を守るのかの振り返りもできていない。

 彼らのシミュレーションは、警察権力を利用して市民を拘束し隔離する方法、戒厳令を敷く方法、プロパガンダを展開して言論を統制する方法、検閲により反対意見を封じる方法、マスクやロックダウンや強制的なワクチン接種を義務付け、こうした対策に消極的と思われる人々の追跡監視を行う方法など、軍事訓練さながらに計画されたものだった。

 生物兵器の専門家メリル・ナス医学博士は言う。「パンデミックにおいて強制措置は最後の手段であるべきです。 効果のある治療薬があれば、人々はそれを求めて集まってきます。最初にして唯一の選択肢が警察国家の創生だったというのは問題です」

9・11後に起きた未解決の炭疽菌事件

 天然痘テロのシミュレーションと並行して、国防総省はネバダ砂漠の核実験場跡地で極秘プロジェクトを開始した。それは、ホームセンターや生物学実験用品のカタログから簡単に入手できる既製品を使って、小規模な炭疽菌生産施設を建設できるかを検証するプロジェクトだった。

 軍事兵器の専門家で構成された少人数の偽テロリスト集団にはプロジェクト・バッカスというコードネームが付与された。彼らは数ポンド(訳注・1ポンドは約450グラム)の炭疽菌を製造することに成功した。

 この国防総省によるネバダ炭疽菌プロジェクトから2年後、アメリカ陸軍の関係者が連邦議会議員や主要メディアの関係者に炭疽菌を送り付けるという大事件が起き、「バイオセキュリティの時代」が正式に幕を開けた。

 その後の一連の出来事を考えると、何か大きな目的を正当化するために、政府の誰かが自国民に対して偽旗作戦を実行した可能性を排除することはできない。これは決して荒唐無稽な陰謀論などではない。伯父のケネディ大統領の時代、統合参謀本部は「ノースウッズ作戦」なる計画を提案した。キューバへの侵攻を正当化するための偽旗作戦で、アメリカ国民を無差別に大量に殺害するという内容も含まれていた。

 アメリカの諜報機関や軍産複合体の内部関係者は当初、2001年の炭疽菌郵送事件をサダム・フセインやアルカイダのせいにした。これは最終的には間違っていたのだが、その後、同じように間違った口実でイラクに戦争を仕掛けた。

 なるほどテロリストは目立つビルや旅客機を破壊する。だがバイオセキュリティのシナリオは、病原体であれば無差別にアメリカの一般家庭に入り込み、誰の目にも留まらずに居住者を殺害できるのだと警告する。

 つまり、確実性の高いテロの源泉という意味で、病原体はアルカイダを軽々と凌駕した。 これこそが、カドレックが5年も前から吹聴してきた教訓だった。

 こうして2020年を迎えるころには、バイオセキュリティはイスラムのテロリズムを完全に抑え、米国の軍事・外交政策の頂点に据えられる課題になった。「感染症」というトピックは突如として、政府の財布の紐を緩める最も効果的な手段となった。

炭疽ワクチンをめぐる疑惑

 1998年、レバノン生まれの資本家イブラヒム・エル・ヒブリとその息子ファウドは、元統合参謀本部議長ウィリアム・クロウ・ジュニア海軍大将と共にバイオポートという会社を設立した。彼らはミシガン州に2500万ドルを支払い、老朽化したワクチン製造工場を買い取った。この工場で炭疽ワクチンを製造し、米軍に売る計画だった。

 エル・ヒブリ・シニアはロバート・カドレックとクロウ大将(レーガン、ブッシュ両大統領のもとで統合参謀本部議長を務めた)の長年の友人だった。エル・ヒブリ親子には、炭疽ワクチンのビジネスで成功した経験があった。英国政府が製造した炭疽ワクチンを購入し、サウジアラビア政府に購入価格の100倍で転売して小金を稼いだのだ。

 ミシガン州の工場を買収してから1ヵ月もしないうちに、バイオポート社は海外に駐留するアメリカ軍のために「炭疽ワクチンの製造、試験、瓶詰め、保管」する独占契約を、2900万ドルで国防総省と結んだ。1998年9月3日、契約書にサインをする前日に、陸軍長官が工場に免責を保証した。

 エル・ヒブリ親子は自社ワクチンの安全性試験を一度も行わなかった。その必要がなかったからだ。 たとえ健康被害が出ても、彼らに法的責任はなかった。

 買い取った工場はワクチンの品質など様々な問題を抱えており、結局は取り壊して新しく建て直したが、それでもFDAの監査に合格できなかった。
 そして2001年半ば、ついに倒産する以外に道がない状況にまで追い詰められた。

 2001年9月と10月の炭疽菌事件は、エル・ヒブリ親子にとってまさに救いの手になった。 国防総省はこの一風変わったテロを待ちに待った口実に転じ、生物兵器の研究を拡充する聖戦を正当化した。

 1972年の生物兵器禁止条約では、軍部も諜報部も生物兵器の合法的な研究・製造ができなくなった。だがこの条約には、防衛上の正当な理由さえあれば、軍民両用(デュアルユース)のワクチンや兵器を開発できるという抜け穴が残されていた。

 炭疽菌事件の後、「ワクチン」は急遽、生物兵器の婉曲表現となり、岸に乗り上げた生物兵器産業が海原へ戻る切符になった。

 こうして「デュアルユース」の研究は、突如として大流行したのだった。

2001年の「ダーク・ウィンター」演習

 9.11同時多発テロの3ヵ月ほど前、2001年6月2日から23日にかけて、国防総省はアンドルーズ空軍基地で軍事演習を行った。その演習は「ダーク・ウィンター」 演習のコードネームが付され、軍の生物兵器に対する真摯な取り組みを強調していた。コードネームを命名したのは、このパンデミックシミュレーションの主宰者でもあるロバート・カドレックだった。

 その「机上の」シナリオは、オクラホマシティ(1995年にオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件が起きたことがある)を震源として米国各地へ広がる天然痘のテロ攻撃を想定していた。ダーク・ウィンター演習の参加者は、パンデミックに対する唯一の合理的な対応として、強制的な検疫、検閲、 マスク着用、 ロックダウン、ワクチン接種、警察権の拡大といった戦略をシミュレートした。

 演習ではこうした対策を迅速に実施できず、国防総省が想定した天然痘は、猛烈な勢いで拡散してアメリカの対応能力を圧倒した。民間人が大量に犠牲となり、パニック、社会崩壊、暴動が起きた。 演習を総括した国防総省は、伝染病の拡大を抑えるワクチンの不足が、作戦における最大のネックになったと結論づけた。

CIAが関与している疑い

 カドレックのダーク・ウィンター演習で米国大統領を演じたのが、上院国防委員会の委員長を長く務めたサム・ナン上院議員だった。

 他の主要な参加者はほとんどがカドレックと同じ諜報機関の出身者で、その後のシミュレーションでもCIAの関与が見られた。以下に他の参加者を紹介しよう。

 まずロバート・カドレックの仲間の諜報部員で、 ウォー・カレッジの教授でもある空軍のランドール・ラーセン大佐。 彼は生物兵器の専門家として演習の立案に加わり、架空のニュースクリップにも出演した。

 CIA元長官のジェームズ・ウールジーは、製薬業界のロビイストや生物兵器の専門家らと同様、参加者であり主宰者でもあった。インキュテル (In-Q-Tel)社でCIAのヘッジファンドを統括するタラ・オトゥール。CIAの元科学技術局副局長ルース・デイビッド、ジョンズ・ホプキンス大学のバイオテロ専門家トム・イングルスビー、そして『ニューヨーク・タイムズ』紙のジャーナリスト、ジュディス・ミラー。

 ジェームズ・ウールジーやラーセン大佐、ルース・デイビッド、タラ・オトゥールの存在は、バイオセキュリティやワクチン全般に、諜報コミュニティが広く、しかしひそかにかかわっていることを暗示していた。

 オトゥールはバイオディフェンス狂で、ジョンズ・ホプキンス大学民間バイオディフェンス戦略センターの共同設立者であり、CIAの投資先のインキュテル社の副社長だ。

 その胡散臭い会社は、米国諜報機関が技術革新の最先端企業に潜入する足掛かりになっている。

 2009年、オバマ大統領がオトゥールを国土安全保障省(DHS) の科学技術担当次官に指名した際、ジョン・マケイン上院議員は、彼女が製薬業界のロビー団体であるアライアンス・バイオサイエンスの戦略責任者であるという事実を隠していたと批判した。 アライアンスは、イブラヒム・エル・ヒブリと彼のパートナーである元統合参謀本部議長のウィリアム・クロウ大将が創設した、法人格を持たない企業の皮をかぶったグループで、他の生物兵器企業から資金提供を受けている。

 連邦議会の議事録によれば、アライアンスはいわゆる「ステルスロビー」を行う会社で、2005年から2009年にかけて50万ドルをかけ、議会とDHSに対して炭疽ワクチンを中心とするバイオディフェンス関連の予算増額を働きかけていた。 アライアンスの他の出資者にはファイザー社、国際医薬品エアロゾルコンソーシアム、バイオディフェンスの請負会社である Sig Technologies (シグ・テクノロジーズ)社が含まれている。

 オトゥールのDHS次官への指名については、ラトガーズ大学の著名な微生物学者リチャード・エブライトなど、確固たる権威のある生物兵器専門家からも異論が出た。 エブライトは「彼女は政府の内外を問わず最も過激な思想を持つ人物であり、バイオディフェンスの大規模な拡大と、安全と危機管理にかかわる規定の緩和を主張している」と訴え、次のように続けた。
「彼女に比べたらストレンジラブ博士がまともに思えるほどだ。 ブッシュ政権時代、彼女はバイオディフェンス、バイオセーフティ、バイオセキュリティに関するあらゆる誤った決定や、逆効果の政策を支持していた。オトゥールは、まったくもって現実離れした・・・・・・ パラノイアだ。(中略)この職務に、これほどふさわしくない人物は他にいないだろう」

 議員はさらにこう指摘した。 「オトゥール博士は、バイオテロリストによる極秘の国土攻撃をシミュレートした2001年6月のダーク・ウィンター演習を設計し、立案した重要人物です」

 レビンは、オトゥールがこのシミュレーションを利用し、架空のパンデミックを大げさに演出してバイオセキュリティ政策を推進したと非難した。「しかし、一流と言われる多くの科学者がダーク・ウィンター演習は天然痘の感染率についての誤った、かつ誇張された仮定に基づいたものだったと述べているのです」

皮肉にも、当時すでにパンデミックの誇張と捏造の第一人者であったファウチ博士ですら、オトゥールとカドレックによるダーク・ウィンター演習の過度な水増しには反対の声を上げた。

 ダーク・ウィンター演習を計画し、参加したもうひとりの重要人物は、元CIA副局長のルース・デイビッドだ。1998年、彼女はCIAと深い関係を持つ非営利団体ANSER (訳注・社名はAnalytic Services Inc.) の代表取締役に就任した。

 ANSERは、政府を9・11以降の「国土安全保障」に誘導するうえで重要な役割を果たし、国内の法執行機関に生体認証や顔認証ソフトウェアの導入を促す主要な存在になった。ANSERはまた、サウスカロライナ州の謎の防衛関連企業 Advanced Technology International (ATI)に資金を提供している。

 ATIは、オペレーション・ワープ・スピードによる少なくとも600億ドルの極秘契約を政府が取り決める際の仲介役になっている。 契約相手は、ファイザー社、ビル・ゲイツのノババックス社、ジョンソン・エンド・ジョンソン社、サノフィ社だ。オペレーション・ワープ・スピードの予算100億ドルの大半を占めるこれらの契約は、ビッグファーマとのなれ合い取引となった新型コロナワクチン事業にCIAが深く関与していると示唆している。

 2021年1月、『ニューヨーク・タイムズ』紙は秘密裏に交わされたカドレックのワクチン契約を暴露した。
「入手可能な文書によると、(中略) 製薬会社は柔軟な納期、特許保護、万が一の場合の免責などを要求し、 そして認められた。ワクチンの寄贈や転売を禁じられている国もあり、貧しい国々にワクチンを届ける取り組みを妨げる可能性がある」

CIAの目的はいったい何なのか

 問題はあったものの、ダーク・ウィンター演習は異例の大成功を収めた。3ヵ月もたたないうちに本物の生物兵器事件が起こり、国民の恐怖をあおったのだ。
 9月18日の最初の炭疽菌郵送テロの後、サダム・フセインやアルカイダを犯人とする公式見解にお墨付きを与えた。

 ジェローム・ハウアーもダーク・ウィンター演習の立案者だった。彼は、諜報部のジェームズ・ウールジー、そして『ニューヨーク・タイムズ』紙のジュディス・ミラー記者と共に、9月11日から10月4日までの3週間、炭疽菌テロが差し迫っていると騒ぎ立てた。テレビのトークショーに片っ端から出演し、夜のニュース番組でしゃべり、日曜の朝のテレビ番組でもまくし立てた。

 そして驚くべきことに、この攻撃はミラー、ハウアー、ウールジーが予測したとおりに、しかも絶妙のタイミングで、炭疽菌攻撃に対するアメリカの脆弱性を論じる上院公聴会の真っ只中に起きたのだ。バイオテロの専門家であり製薬業界の工作員でもあるハウアーは、現在、企業のセキュリティに関するコンサルティングを行う Teneo 社の幹部だ。 雇用の条件として従業員にワクチン接種を義務付けることを提唱している代表的な人物でもある。

 シンクタンクのアメリカ新世紀プロジェクト(PNAC)のメンバーも 9・11に続いて生物兵器による攻撃が確実であると積極的に警鐘を鳴らし、また炭疽菌郵送テロを受けてパニックをあおり、イラクを非難した。

 世界貿易センターを攻撃したウサマ・ビンラディンは、アフガニスタンの洞窟からこの作戦を指揮したとされている。しかし、ドナルド・ラムズフェルドは「アフガニスタンには良い標的がない」と不満を漏らした。 PNACのチキンホークスは、9・11を口実にしてイラクと開戦しようと決意した。

 炭疽菌テロはうってつけの口実になった。 PNACにとって、世界の石油資源の支配は、来るべき世紀のアメリカ帝国主義への重要な足がかりだった。アメリカに対する生物兵器テロは、 先制攻撃のための理想的なきっかけになったのである。

 注目すべきは、ジュディス・ミラーが『ニューヨーク・タイムズ』紙でダーク・ウィンター演習を採り上げただけでなく、作戦そのものの企画にも携わり、またリポーター役としてシミュレーションに参加していた点だ。

 911同時多発テロのちょうど一週間前、2001年9月4日に、国防総省が 「より強力な炭疽菌を作るプロジェクト」にゴーサインを出したと、ミラーは好意的に報じた。

 ミラーの記事は、サダム フセインが生物兵器を隠し持っていて炭疽菌攻撃と関係がありそうだとする国防総省とCIAの主張を繰り返し伝え、アメリカのイラク侵攻を後押しした。 『ニューヨーク・マガジン」誌にはこう書かれている。

2001年の冬から2002年にかけ、ミラーはサダム・フセインの野心と大量破壊兵器を製造する能力を伝える驚くべき記事を次々と発表したが、(中略)そのほぼすべてが驚くほど不正確であると判明した。

 ミラーの排他的な報道は、ホワイトハウスの戦争推進派によるイラク侵攻計画を正当化するのに決定的な役割を果たした。後に『ニューヨーク・タイムズ』紙は、おそらくは米国史上最悪のこの外交政策を決定し報道に関して前例のない謝罪をした。

 当時のCIAは、戦争を積極的に推進していた。ジョージ・W・ブッシュは後に、ホワイトハウス時代の最大の失敗は、自信たっぷりなCIAの言い分を鵜呑みにしてしまったことだと語っている。

 ミラーは侮辱罪で3ヵ月間服役した後、共犯者の身元を明かすことに同意した。 その共犯者とは、チェイニー副大統領の首席補佐官ルイス・"スクーター”・リビー(訳注・スクーターは小柄でちょこまか動く人につけるニックネーム)だった。リビーはプレイムがCIAの諜報員であることをミラーに教え、暴露を指示したとして、刑務所に収監された。

 リビーはPNACの創設者で、アメリカ100年帝国を夢想して推進し、現代のバイオセキュリティ構想をいち早く支持した人物である。

 リビーは、製薬業界、モンサント社、CIAと深いつながりのあるシンクタンクのハドソン研究所の副社長も務めており、国の安全保障と防衛問題に関するプログラムを指導している。

 世界的なワクチン騒動にCIAが広く関与していることに戸惑いを覚える。CIAの歴史にも、設立趣意書にも、その構成や組織文化にも、公衆衛生や民主主義を推進するという意図は見当たらない。CIAの関心事は旧来、権力と支配だった。同局は1947年から1989年にかけ、世界の政府の約3分の1にかかわる少なくとも2回のクーデター未遂と成功に関与してきた。その多くは民主主義を機能させるためだった。 CIAは公衆衛生を実行しておらず、民主主義も実行しない。CIAが実行しているのはクーデターだ。

天然痘ワクチン接種によるバイオセキュリティの開花

 ダーク・ウィンター演習は諜報機関や生物兵器のロビー団体による執拗なキャンペーンの一環で、その目的は天然痘に対する人々の恐怖を新たにすることにあった。

 1977年、この病気が根絶される前から、アメリカでは公衆衛生当局が天然痘の予防接種を中止していた。

 ジョージ・W・ブッシュ政権はこの警告を無視しただけでなく、さらに増幅させた。イラク戦争に向かう中で、ブッシュ大統領は国民への天然痘ワクチン接種を目指したのだ。メリル・ナス博士は、後に天然痘ワクチンの歴史について、こう記述している。

 天然痘ワクチンは、副反応が強いことが知られていた。(中略)2003年に医療従事者や救急隊員にワクチンが投与されると、心不全、心臓発作、心筋炎、死亡などの報告が急増した。

 接種が4000万回に達したところで憂慮すべき健康被害が続出したため、政府はそれ以上の民間人への接種を断念した。

 一方で軍は未検証、未承認の致命的なワクチンを兵士に接種し続け、壊滅的な結果を招いた。米陸軍の2015年の研究によれば、このワクチンによって兵士の216人に1人が症候性心筋炎を発症し、35人に1人が無症候性心筋炎に罹った。

 その後、政府関係者は、湾岸戦争症候群の原因として、ワクチンの可能性が高いと認識するようになった。 湾岸戦争症候群を発症したのはワクチン接種を受けた兵士たちで、派遣された兵士も、派遣前にワクチン接種を受けた予備兵も、どちらも罹患した。

炭疽菌テロで暗躍する面々

 ダーク・ウィンター演習から4ヵ月足らず、9・11から3週間後に、炭疽菌の白い粉末が入った謎の封筒が、いくつかの報道機関およびトム・ダシュルとパトリック・リーヒーの2人の上院議員の事務所に郵送された。この2人の上院議員は、9・11以降にPNACを中心とする派閥が推し進めた人権侵害を、最も声高に非難していた人物だ。

 5人のアメリカ人が死亡した炭疽菌テロの犯人がサダム・フセインであるとする政府やマスコミの報道を受け、議会は愛国者法を性急に可決し(マイケル・ムーアが証明したように、選出議員は誰ひとりとして法案を読んでいなかった)、独善的にイラクへ宣戦布告した。

 Action Center on Race and Economy (人種と経済に関するアクション・センター)の2021年の報告書によると、愛国者法は従来のプライバシー保護を廃止することで「完全なテロ産業」を作り出した。最大の受益者はシリコンバレーのハイテク企業で、特にアマゾン、マイクロソフト、グーグルは国の諜報機関から個人情報を得て、「2001年以降、テロ撲滅キャンペーンによって少なくとも440億ドルの利益を得た」という。

 報告書は、愛国者法の可決により「何よりもまず、大手IT企業が我々の個人データのブローカーとなる道が開かれた」と述べている。「彼らはそのデータを国内外の内偵機関や民間企業に売り、デジタル経済の時代を解き放った」

 ロバート・カドレックは、炭疽菌騒動で利益を得た製薬会社や軍事請負業者の一大グループの中心的人物だった。炭疽菌入りの封書が届けられてほどなく、カドレックは、当時の国防長官ドナルド・ラムズフェルドとその副官でPNACのポール・ウォルフォウィッツを補佐する生物兵器の特別顧問に就任した。

炭疽菌郵送事件の本当の容疑者

 PNACは、炭疽菌テロの責任を何としてでもサダム・フセインに負わせるつもりだった。そこで、ラムズフェルドの副官ポール・ウォルフォウィッツはカドレックに、炭疽菌にベントナイトが含まれていることを確認するよう命じた。

 ラムズフェルドとウォルフォウィッツは専門家から、ベントナイトはイラクの炭疽菌に特有の「フィンガープリント(訳注・識別できる顕著な特徴)」だと聞いていた。つまり、炭疽菌にベントナイトが含まれていれば、サダムの責任となる。

 しかしカドレックは、FBIが検査した炭疽菌サンプルの中にベントナイトを発見できなかった。ところが、事実とは逆の報道が繰り返されたため、戦争推進派はサダムに対する愛国主義的ヒステリーをあおることに成功した。

 サダム・フセインの責任だと指摘できなかったFBIだったが、その研究所での調査の結果、炭疽菌の出どころはアメリカ軍の3つの研究施設 フォート・ デトリックか、スクラントン大学の研究室か、 あるいはウエスト・ジェフォーソンにあるバテル記念研究所(エル ・ヒブリのビジネスパートナーが所有)のいずれかであることが判明した。

 FBIが最有力な容疑者としたのが、米軍のフォート・デトリック研究所を運営していたワクチン学者のブルース・イビンズ博士だった。彼は自殺したと伝えられており、FBIは捜査を打ち切った。

 当局の粗雑で場当たり的な捜査を批判する多くの有識者が、イビンズはFBIのずさんな捜査の犠牲者だと訴えた。FBIの元主任捜査官リチャード・ランバートによると、捜査チームはイビンズの無罪を証明する「山ほどの」証拠を隠していたという。

 2008年のイビンズの「自殺」は間が悪かった。弁護士らは、イビンズが犯人であるとするFBIの主張を公然と否定し、「エル・ヒブリと関係のあるバテル記念研究所の管理下にあるオハイオ州の民間研究所がテロに関与した可能性」を示唆した。

炭疽菌テロで大金を手にした者たち

 カドレックは1995年以降、士官学校でバイオテロについて熱弁を振るい、ワクチンその他を保管する戦略的国家備蓄の創設を強く訴えてきた。  ブッシュ政権時代にラムズフェルド長官のもとで働いていた2004年当時、議会はカドレックが起草した Public Health Security andBioterrorism Preparedness Act (公衆衛生安全保障およびバイオテロリズム対策法)を可決し、DHSとHHSが共同で管理する戦略的国家備蓄をHHS長官が整備するよう指示した。

 同じ週、議会は、カドレックが起草に関わったプロジェクト・バイオシールド法を可決した。また、カドレックの備蓄に関連する新たな技術開発を支援するBARDAを発足させた。

 カドレックの指導により、BARDAはビッグファーマ、バイオディフェンス請負業者、機能獲得研究者のATMと化したのだ。 BARDAは、ファウチ博士のNIAIDや国防総省のDARPAと並び、パンデミックを起こす病原体を作り出す武漢などの実験の大口資金源となっただろう。カドレックの定めた法令では、ワクチンを含め50億ドルの備蓄資材の購入が認められ、後述するように、カドレックの友人であるエル ヒブリ親子にとってはまさに金脈となった。

 もうひとり、戦略的国家備蓄の恩恵を顕著に受けたのが、カドレックの上司だったドナルド・ラムズフェルド国務長官である。彼は2004年の偽鳥インフルエンザパンデミックで大儲けしたが、このパンデミックは、ウェルカム・トラストの研究員で野心的な若き英国人医師ジェレミー・ファーラーとトニー・ファウチが共謀して盛り上げたものだ。

 16年後の2020年、ファーラーはウェルカム・トラストの責任者として、武漢での隠蔽工作で重要な役割を果たすことになる。国防総省は2004年と2005年に、ファーラーのでっちあげた伝染病に応え、ギリアド社のインフルエンザ治療薬タミフルを8000万回分備蓄した。

 ラムズフェルド長官は1988年から2001年までギリアド社の取締役を務め、1997年以降は、国防長官としてブッシュ政権に入るまで同社の会長を務めていた。彼はその後も同社の株を手放さず、タミフルの高騰で500万ドルの利益を手にした。

 だが、最大の勝者は何と言ってもエル・ヒブリ親子だった。炭疽菌テロは彼らに免罪符と救済、そして途方もない報酬をもたらした。

 炭疽菌は、エル・ヒブリ一家にとって絶好のタイミングでやってきた。バイオポート社は当時、まさに窮地に追い込まれていた。エル・ヒブリの炭疽ワクチン工場は倒産寸前で、営業許可の取り消しは時間の問題だった。

 カドレックの上司であるドナルド・ラムズフェルドは、炭疽菌郵送事件の後、バイオポート社を救うことがバイオセキュリティの優先事項だと側近に語っている。

新しいゴールドラッシュの始まり

 9.11同時多発テロの2ヵ月前の2001年夏、国防総省は炭疽菌、天然痘、その他の外来生物兵器から軍隊を守るためのワクチン開発のシステムは「不十分であり失敗するだろう」とするカドレックの報告書を議会に送り、生物兵器研究を正式に復活させた。

米国政府が細菌戦への関心を復活させたことで、新たなチャンスが生まれた。

 1997年には1億3700万ドルだった米国のバイオディフェンス予算は、2001~2004年には145億ドルに跳ね上がった。

 生物兵器はまだ違法だったので、数十億ドル規模の産業の復活にとってワクチン開発は建前ととして重要だった。

 チェイニー副大統領とPNACの仲間たちは、ジュネーブ条約に都合の良い抜け穴を見つけ、それを利用して生物兵器研究への支出を4倍に拡大させた。

 国防総省には、生物兵器禁止条約を遵守するための厳しいシステムがあった。そのため国防総省は、特に「バイオディフェンスの最先端」と呼ばれるような新しい研究プログラムに取り組む自由を制限されていた。

 NIAIDのバイオセキュリティ予算は、2000年にはゼロだったが、2001年に炭疽菌郵送事件があってから177億ドルに膨れ上がり、その多くは生物兵器用ワクチンにあてられた。

 ファウチ博士は自分たちの取り分を確保するため、炭疽菌郵送事件から5ヵ月の間に、NIAIDに2つの新たな下部組織を作った。「バイオディフェンス研究のための戦略プラン」と「CDCカテゴリーA病原体のためのバイオディフェンス研究アジェンダ」だ。

 カテゴリーA病原体とは、CDCがパンデミックを起こす可能性が高い病原体と指定した微生物だ。これら下部組織の人員として、ファウチ博士は忠実な副官たち、そしてHIVで大成功を収めた感染症の治験責任医師らを呼び集めた。彼らの使命は、差し迫ったテロの脅威として伝染病を位置付け、パンデミック・パニックをあおり、バイオディフェンスに向けたNIAIDの新しいワクチンを集団接種するよう政府の支援を取り付けることだった。

 ファウチ博士とエル・ヒブリには、互いに協力するメリットがあった。ファウチ博士はFDAに働きかけることで、バイオポート社の研究施設と製品の安全性に関する規制上の懸念を払拭することができた。一方のエル・ヒブリは、既成のバイオディフェンス用ワクチンと、軍事契約という難解な迷路への足掛かりを提供できた。

 ファウチ博士はエル・ヒブリを自分の保護下に置き、 FDAが抱いていた安全性の懸念を一掃し、バイオポート社の実験的炭疽ワクチン、バイオスラックス (BioThrax) を公に称賛した。 バイオスラックスの安全性は確立されていないという批判的な意見も、いつもどおりのごまかし方で一蹴した。

 ファウチは2001年12月の公共放送(PBS)のインタビューで、バイオスラックスを記録的なスピードで提供すると約束した。だがそれは、それまでの4年間で一度たりともFDAの審査に通っていなかったものだ。ファウチは「通常であれば何年もかかるプロセスです」としたうえで、バイオスラックスを必要とする人に届けるプロジェクトは「緊急を要するため、著しく短縮されるだろう」と明言した。

 軍の医療部隊はあふれんばかりのバイオテロ資金の取り分を求め、あらゆる生物兵器から身を守るために、入隊したすべてのアメリカ兵に15種類の新しいワクチンを投与しようと提案した。

 NIAIDのバイオディフェンス予算だけでも2002年から2003年にかけて6倍- 2億7000万ドルから17億5000万ドルに増加した。

 その後10年間、生物兵器テロは発生しなかった。だがファウチ博士は、テロを前面に押し出していた論調を巧みに修正しつつ、年間17億ドルのバイオセキュリティ資金を維持し続けた。テロの代わりに、自然由来の新しい感染症というパニックを生み出したのだ。

 ファウチ博士は感染症をテロと結び付けた。これはパンデミック対策を軍事化するうえで、画期的な転換点となった。また、ニュルンベルク憲章に規定された「人道に対する罪」への意識から、強制的な医療介入に対する西欧民主主義諸国の根強い反感も克服できた。

 2002年から2004年にかけて発生したSARSのアウトブレイクは、死者数こそ800人にとどまったものの、ファウチ博士にとってまさに天の恵みだった。実際のところ、いくつかのアウトブレイクは、中国、台湾、シンガポールの研究施設から漏出したコロナウイルスが原因だった。

CIAの生物兵器プログラム

 CIAには、アメリカの生物兵器プログラムを秘密裏に推進してきた卑しむべき長い歴史がある。
CIAの最初のプロジェクトのひとつは、いわゆる「ラットライン」と呼ばれるネットワークの構築だった。

 第二次世界大戦後、陸軍の情報将校はこのネットワークを使い、およそ1600種類もの化学兵器や生物兵器、さらには大量破壊兵器の専門家(多くはナチス党の大物や悪名高い戦争犯罪者)を、連合国のニュルンベルク裁判の手の届かないところへと運んだ。悪名高い「ペーパークリップ作戦」の責任者は、これらの研究者に新しい身分を与え、フォート・デトリックなどで米国が細菌戦を戦える能力の開発に従事させた。1972年以降も研究は続けられ、CIAは1997年にも、生物兵器禁止条約を無視して極秘に、そして極めて違法に、人類を滅ぼす「細菌爆弾」の製造に着手した。

 2004年、CIAは178カ国の生物学的脅威、テロリスト、パンデミックの出現を監視するプロジェクト「アーガス」を立ち上げ、バイオセキュリティ分野への参入を公にした。CIAの工作員で小児科医のジム・ウィルソンは、DHSとIntelligence Innovation Center (情報革新センター)からの資金提供を受けてジョージタウン大学にプログラムを設置した。彼らは、新たな生物学的事象を世界規模で検出して追跡し、社会行動に関する数百万件の情報を毎日評価する能力を構築・行使して、政府関係者にパンデミック対策の訓練を実施した。この世界的な監視活動の中心人物のひとりが、CIAのマイケル・キャラハン博士である。

 マイケル・キャラハン博士は、生物兵器研究の大御所だ。 キャラハン博士は、かつてCIAの業務の一部を代行していた米国国際開発庁(USAID)でバイオセキュリティプログラムを担当し、その後DARPAの生物兵器研究プログラムのディレクターを務めるようになった。 DARPAでは、NIHを出し抜いて資金洗浄を行い、武漢の研究所などの生物兵器研究を推進した。 資金洗浄はピーター・ダザックのエコヘルス・アライアンスを通じて行われた。

 DARPAの長官であったキャラハンは、ジェレミー・ファーラーによる鳥インフルエンザ偽パンデミックに続き、2009年にPREDICTという伝染病研究プロジェクトを立ち上げた。

 PREDICTは、CIAのプロジェクト「アーガス」がUSAIDを隠れみのにして復活したようなものだった。PREDICTは、機能獲得研究の最大の資金提供源となり、また機能獲得カルテルにとっては、バラク・オバマが発した2014年の大統領モラトリアム(一時停止措置)を回避するための主要な資金獲得手段となった。

 ラルフ・バリックとテキサス大学医学部のビニート・メナチェリーは、大統領令による機能獲得モラトリアムの真っ只中だった2015年に、驚くべき研究を堂々と発表した。

 それは、ヒト化マウスで飛沫感染するコウモリコロナウイルスを作り出す、という無謀な実験だったが、彼らは最初のオンライン版で、USAIDが新しいパンデミックに対して支援するPREDICTが資金源のひとつだとはあえて触れなかった。

 USAIDのPREDICTプログラムは、エボラウイルスの変異株などを含めた1000種ほどの新型ウイルスを選定し、およそ5000人を教育訓練したと誇示している。新型コロナウイルスが出現する少し前の2019年10月にUSAIDはPREDICTへの資金提供を突然打ち切っている。

 キャラハンは、自分たちが火遊びをしていると十分に認識していた。2005年に、キャラハンはDARPAに移る際に議会で証言した。 彼は、二面性を持つ機能獲得研究に国家が積極的に取り組もうとしていると身も凍るような警告をし、ファウチ博士、ロバート・ コック博士、キャラハン博士自身、そして他の多くの人々が、それを平然と無視するようになるだろうと締めくくった。

 2020年1月4日、ちょうどコロナウイルスによる最初の犠牲者が出始めたころ、キャラハンは中国からロバート・マローン博士に電話をかけた。 米陸軍感染症研究所の元契約研究員であり、アルケム研究所 (Alchem Laboratories) の最高医学責任者だったマローンは、 mRNAワクチンの技術基盤の開発者だ。 ギャロウェイはCIA職員で、ギャロウェイは、キャラハンをCIAの仲間だと紹介した。

 1月4日の電話で、キャラハンはマローンに、自分は武漢の郊外にいると話した。マローンはキャラハンがハーバード大学やマサチューセッツ総合病院での仕事を装って中国を訪れているのだと考えた。キャラハンはこの電話で、自分は新型コロナウイルス感染症の患者を「何百人も」治療してきたと言った。その後、キャラハンは『ナショナルジオグラフィック』誌の取材に応じ、感染の震源地で何千もの事例研究に目を通したと語った。彼はウイルスの「爆発的な感染力」と、「音もなく確実にコミュニティを襲う誘導爆弾のような」 破壊力について、興奮した様子で報告した。

 その後、DTRAで上位職にある科学者のデイビス・ホーンは「発生当時、武漢に我が国の軍人はおらず、現地にいたというマイケルの話は嘘だ」として、キャラハンの話を止めるようにマローンに警告した。

カドレックの「贈り物」で大儲けしたエル・ヒブリ親子

 2011年までに、バイオポート社は生物兵器やワクチンの分野ですでに大きな利益を上げていた。9・11の後、ブッシュ大統領は、おそらくはラムズフェルド国防長官、ロバート・カドレック、ファウチ博士の助言もあり、バイオポートのミシガン研究所を「国益のため」として保護下に置いた。

 2001年以降、ラムズフェルド率いる国防総省は、バイオポート社への報酬を1998年の契約時の1回あたり3ドル35セントから4ドル70セントへと30%引き上げ、軍人240万人分の炭疽ワクチンを購入することに同意した。

 軍人はそれぞれ、1ヵ月間で計6回の注射を義務付けられた。二度と表面化しない脅威に対し、性能の悪い未承認のワクチンを6000万ドル分も購入した計算になる。そもそも炭疽菌の脅威は幻影でしかない。というのも、炭疽菌はヒトからヒトへ伝染しないからだ。

 この手の炭疽菌対策が特別に馬鹿げている理由は他にもある。炭疽菌に対しては抗生物質という、はるかに安全で有用な防御手段があるからだ。

 加えて、エル・ヒブリの炭疽ワクチンは著しく粗悪だった。このワクチンは30年以上前のもので、製造上の問題や副作用の苦情が絶えなかった。

 地位の高い友人の力もあって、エマージェント社は戦略的国家備蓄を独占した。

「エマージェント社の成長に伴い、パンデミック時の備蓄用治療薬に取り組んでいた他の企業は、政府の支出決定から締め出されるようになっていった」。連邦政府の複数の保健当局者が匿名で『ニューヨーク・タイムズ』紙に語ったところによれば、「新型コロナウイルス感染症のようなアウトブレイクに対する準備は、定常的に、エマージェント社の炭疽ワクチンのために後回しにされて「いた」

 エマージェント社は、2014年の大規模製造に向けて NuThrax (従来の炭疽ワクチンに新たなアジュバントを使用したもの)を開発した。

 バイオスラックスと同様、エル・ヒブリはNuThrax の安全性試験を行わず、FDAもこのワクチンを承認していない。

 エマージェント社は、今では、オックスフォード大学との提携やゲイツ財団の資金提供により、新型インフルエンザや結核のワクチン開発も手掛けている。

 NuThrax がFDAの承認を得られなかったにもかかわらず、2020年以前の戦略的国家備蓄の年間予算5億ドルのほぼ半分がエマージェント社の2種類の炭疽ワクチンに使われた。

 エル・ヒブリ親子に本当の意味での追い風が吹き始めたのはこのころからだ。

 カドレックが連邦政府を去った後も、エル・ヒブリ親子は自分たちを破産や逮捕の危機から救ってくれた恩人のことを忘れなかった。2012年夏、ファウド・エル・ヒブリは、ロバート・カドレックを自身のバイオディフェンス企業イースト・ウエスト・プロテクションの最高経営責任者兼共同所有者に任命した。同年、この会社は国防総省の支援を受け、HHSと共同でユタ州に国のバイオディフェンス拠点を建設した。

 2015年、エル・ヒブリ親子はカドレックの所有するイースト・ウエスト社の株を買い取り、これにより、カドレックは米国上院情報特別委員会の副委員長に就任できた。2年後、ドナルド・トランプ大統領は、カドレックを保健福祉省事前準備・対応担当次官補局(ASPR) の次官補に指名した。

 エル・ヒブリ親子は、カドレックの着任でエマージェント社に利益がもたらされると見越していたのだろう。 カドレックの指名から4日後、2017年7月には、エマージェント社はサノフィパスツール社から天然痘ワクチンの権利を取得すると発表した。

 カドレックは就任早々巧みに立ち回って、自らが発案し創設した戦略的国家備蓄の管理をCDCから自身のオフィスに移管し、70億ドル分の備蓄の取得権限を手に入れたのだ。

 エマージェント社がサノフィ社の天然痘ワクチンの買収を完了すると、カドレの無価値で危険なワクチンの政府備蓄を増やそうと動き出した。

 それまで、サノフィパスツール社はワクチン1回あたり4ドル27セントを請求していた。また、4億2500万ドル相当の10年間の政府契約は、この時点で5年を残していた。当初、エル・ヒブリ親子は小幅な値上げしか求めていなかった。しかしカドレックは寛大にも、友人やかつての取引先と交渉し、エル・ヒブリが要求した5年という期間を2倍の10年に延長した。また、カドレックは年間の購入数を900万から1800万に倍増し、ワクチン1回あたりの価格をサノフィ社の2倍にした。

 結局、カドレックは10年間で28億ドルの無入札契約で、エル・ヒブリから天然痘ワクチンを購入することになった。

 天然痘ワクチンの備蓄は2018年の時点ですでに過剰気味だった。CDCは2019年6月のウェブサイトで、備蓄されている天然痘ワクチンだけでアメリカ人全員分あると報告し、この見解は今も変わっていない。

 2020年3月、ドナルド・トランプ大統領の保健省長官アレックス・アザー(イーライリリーの元社長で製薬会社のロビイスト)はカドレッグを新型コロナウイルス感染症対応の指揮官に指名した。

 同年、カドレックは緊急使用許可を発動し、エル・ヒブリの炭疽ワクチンを認可品も未認可品も含め、3億7000万ドル分購入した。

 2021年2月にFDAがジョンソン・エンド・ジョンソン社の新型コロナワクチンの緊急使用を許可すると、カドレックはこの大手製薬会社に圧力をかけ、同社の新型コロナワクチンの製造をエル・ヒブリに4億8000万ドルで委託する契約を締結させた。

 エマージェント社は、メリーランド州ゲイザースバーグの工場でワクチンを製造するため、アストラゼネカ社およびビル・ゲイツのノババックス社と数億ドル規模の契約を結んだ。

 『ニューヨーク・タイムズ』紙は、新型コロナウイルス感染症への対応に必要とされる医療従事者用の防護服、人工呼吸器、そしてマスクが圧倒的に不足していると報じた。この状況を承知していたにもかかわらず、カドレックは「炭疽ワクチンの補充を減らしてまで資金を確保する気がなかった」のだ。

 ファウチ博士とビル・ゲイツが本命と定めたmRNAワクチンを開発するモデルナプロジェクトをカドレックが支援することになった。2020年4月中旬、ファウチとゲイツのワクチンの開発と製造を加速させるため、カドレックはBARDAからモデルナ社に最大4億8300万ドルが提供されるよう取り計らった。

 カドレックはビル・ゲイツに対しても寛大だった。カドレックは、ゲイツ選りすぐりのバイオテクノロジー企業、ノババックス社に16億ドルの助成金を手配した。

 メリーランド州ゲイザースバーグに本社を置くノババックス社は、30年の歴史の中で一度もワチンを市場に出したことがなく、当時は倒産寸前だった。

 新型コロナウイルス感染症が広がり始める半年ほど前の2019年9月、ゲイツ財団はビオンテック社に5500万ドルのプレIPO投資 (訳注・株式公開が見通しに入った状況で行うベンチャー投資の一形態)を行った。

 同社もまた、製品を市場に出したことがなかった。

 2020年10月、「基礎療法」としてファウチ博士のレムデシビルを含めた併用治療の臨床試験を4社共同で行う計画が立ち上がり、エマージェント社はそのうちの1社となった。

 ビル・ゲイツはレムデシビルの製造元であるギリアド社の株を大量に保有していた。 レムデシビルが新型コロナウイルス感染症に無効であることはWHO自体の調査で明らかになり、同機関も認めている。それどころかレムデシビルは毒性が非常に強く、その副作用は新型コロナウイルス感染症の末期症状にも似ている。かえって病気を悪化させる可能性があるのだ。

 これらの問題を乗り越えるために、ファウチ博士は一連のずさんな研究に資金を提供し、不正な操作をし、レムデシビルが入院日数をわずかに減らす可能性があるという誤った示唆を与えた。WHOによる大規模調査では、入院期間が短縮されないと証明されていたにもかかわらず、ファウチ博士はあからさまに仕組まれた「研究」を利用して、レムデシビルを新型コロナウイルス感染症の「標準治療薬」としてFDAに承認させた。

 同時に、ファウチ博士とビル・ゲイツはクロロキンとヒドロキシクロロキンの信用を落とし、イベルメクチンの使用を妨害するための研究に資金を提供して推進した。いずれも新型コロナウイルス感染症に有効な治療薬で、レムデシビルの存在を脅かし、ファウチとゲイツの新型コロナワクチン大事業全体を揺るがしかねない存在だったからだ。

 2021年4月、エマージェント・バイオソリューションズ社は品質管理の不備(すなわちボルチモアの生産施設の運営に問題があるのだが)により、ジョンソン・エンド・ジョンソン社の新型コロナワクチン1500万本を廃棄した。

 議会はこれを受け、エマージェント社には契約を満足に履行できなかった過去があるにもかかわらず、強力なコネを使って数十億ドルの連邦契約を獲得したのではないかとして、調査を開始した。議会の調査団は、同社の不十分な人材育成、繰り返される品質管理の問題、また政府を騙して炭疽ワクチンを「不当に」800%値上げしたことについても懸念を表明した。

 2021年4月、『ニューヨーク・タイムズ』紙はまたもや大規模な暴露記事を掲載し、エマージェント社は使用可能な新型コロナワクチンをいまだにただの1回分も製造できていないと伝えた。

 HHSはエマージェント社に、汚染された数百万人分のワクチンを廃棄するよう命じた。だが2021年3月、同社は数百万人分の欠陥ワクチンをカナダ、ヨーロッパ、南アフリカ、メキシコに出荷した。

 政界で無敵の強さを誇るエマージェント社は、一連のスキャンダルに屈することなく会社を存続させた。2021年7月には、エマージェント社はジョンソン・エンド・ジョンソン社のCOVID医薬品の製造を5年間、4億8000万ドルで請け負うと発表した。また、HHSも2021年2月にエマージェント社と新たな契約を結んでいる。新型コロナウイルス感染症の治療薬を開発する最大2200万ドルの契約だった。

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