マネー・ボールに見るデータを使う人と受け入れられない人

『マネー・ボール』を読んだ。

 メジャーリーグの弱小貧乏チームが、統計データを駆使して強豪チームに成り上がっていく実話である。そんなあらすじ程度は知っていたが、本書を実際に読んでみたら、思っていた以上に面白かった。いくつか印象的な点があるので、ここでは二点をメモ代わりに書いておこう。

一点目は主人公的立場であるビリー・ビーンが、元有望な野球選手であったということ。データ野球で勝ち上がるなんて話なので、てっきり先入観の無い外部の人間がプロ野球に取り入れたのかと思っていた。それもずっと統計をやってきたようなオタクのような人が。

現実は違う。ビリー・ビーンは若い頃、スポーツ万能で将来を有望視されていた。高校ではスカウトが連日ビリーと繋がりを得るべく押し寄せてきた。本人は大学進学するか迷いながらも、結局は高校卒業後にプロ入りする。

そんな才能の塊みたいなビリーであったが、挫折を経験したことが無かったせいか、プロでは活躍できなかった。誰もがビリーをスターの原石として見るが、原石のままで選手生命を終えたのだ。そんなスカウトの語る「才能」がいかに当てにならないか誰よりも知っているビリーだからこそ、セイバーメトリクスに出会った時に「これだ」と思えたのだろう。

二点目はビリーがセイバーメトリクスでオークランド・アスレチックスを強豪チームに仕立て上げたその後のことである。明らかにアスレチックスは強くなった。そうすると素人考えとしては、他の球団も真似するようになると考える。

アスレチックスは統計を個々のプレー選択だけに使うのではなく、スカウトにも活用する。印象は冴えないが、統計的には優秀な選手を雇うのだ。統計の観点で割高な選手を放出し、代わりに割安な選手を入手する。そうやってチームを強化していった。

これができるのは、他球団が選手の価値を正確に把握していないからできることである。アスレチックスが正確に選手の実力を把握していることが広まれば、どこもアスレチックスとのトレードに応じなくなるだろう。だからアスレチックスの優位は続かないのではと考えた。

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