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うらない

彼とは長く続きそうよ。

さびれた商店街の中にあるお店。たこ焼き、たこせんとマジックで書かれたそのとなりに「占いできます」とある。

高校生のころ、このお店の占いが当たると話題になった。

友達に誘われた。以前から気になってはいたので二人でそのお店に寄って帰ることにした。

占ってくれたのは、パーマのかかった髪を後ろで一つにまとめ、淡い色のチェック模様のエプロンをしたおばちゃん。前ポケットにはネコのアップリケが付いている。

ぽっちゃりしていて大きな明るい声で話す。親しみやすい、庶民的、そんな言葉が浮かぶ。

私が思う占い師のイメージとはまるで違った。黒い布をかぶっていなければ水晶の前に座ってもいない。

タロット占いだった。カードを卓上でシャッフルしもう一度ひとまとめにする。上から順番にカードを並べ、最後私に一枚選ばせる。

そして冒頭の一言を口にした。



高校三年生。部活は夏に引退した。

同じ部活内に彼がいた。

一年生のころからずっと友達だった。彼はあまり異性を感じさせない、自意識過剰なその年頃には珍しいタイプの、誰とでもフラットに接することのできる人だった。

決して派手なタイプではないが信頼できる人。そして話しやすい男の子。

三年生の夏。彼に対する気持ち、これは恋だと思った。思ったらすぐに行動したくなりメールで想いを伝えた。彼からはすぐに返信があった。

良い返事がもらえた。



楽しかった。ずっと友達だったから話したいことは尽きることがなく、特別なデートをしなくてもいつも笑っていた。

カラオケにもよく行ったし、うちで映画を観ることも多かった。一人では怖くて観られなかった「バトル・ロワイアル」も観た。「ダンサー インザ ダーク」のあとは二人して、ショックのあまりしばらく言葉が出なかった。

そう、彼とは無言でいるのも平気だった。それがどんなに特別なことなのか気付いていなかった。

夏から秋になり、空気が冷たくなってくると、私は彼のアラ探しばかりするようになっていた。

そして冬の始め、友達にもどろうとメールした。そんな大切なこともメールだった。彼からなんと返信があったのかは思い出せない。ただ夏の返信に比べて、それはずいぶん時間が経ってからだったと記憶している。



それから7年。私は結婚した。

彼も同じ年に結婚した。

彼の結婚式の二次会に誘われた。年に一回、同じ部活のメンバーで集まっており、その友人達と共に行くことになった。

彼は幸せそうだった。奥さんになる人はキレイで笑顔の素敵な人だった。

友人達に囲まれ、彼女の好きな所は?とマイクを向けられた彼はこう答えた。

「一途で、いつも僕のことを一番に考えてくれる所です。」

あ、私が一番できなかったことだ、と思った。少しだけ胸が痛んだ。



その後、私は母になり、彼も父親になった。

今でも年末に一度、友人達を含め家族ぐるみで集まり、顔を合わせている。子供同士が遊んでいる姿を見ながら、ふと商店街のおばちゃんの占いを思い出す。

彼とは長く続きそうよ。

そうか、こういう続き方もあるんだな。おばちゃん、占い当たってたよ。

年の暮れとは思えない、穏やかなあたたかい陽が射していた。


◎◎◎


虚と実のあわい。

川上弘美の「ハヅキさんのこと」のあとがきにこう書かれていた。

エッセイだと思うと書けないけど、小説だと思えば書ける。そんな、エッセイと小説の中間のような、大人のショートショートが詰まった本だった。

記憶をたどって文章を書いていると「これってホントにあったことだったかな。」とか、正直細かい所まで覚えていないことも多い。

だから最初から、フィクションでもあるしノンフィクションでもあるよと思いながら書く。

これはおそれ多くも真似してみたい!と今回書いてみた。

楽しかったので、時々この「エッセイと小説の間」を書いてみよう!とワクワクしています。







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