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みんなアイドルだった

1歳半の女の子に会ってきた。

地元の友人の娘であるサトちゃんはおととしの夏に生まれた。
2歳上のお兄ちゃんがいる。

友人がネットで見つけた洋服を試着してみたいといい、ショッピングモールで待ち合わせすることになった。
お兄ちゃんは幼稚園なのでサトちゃんだけ連れてのお買い物。
わがやの子供達は小学校へ行っている。
平日の昼間、数時間のチャンスに3人で過ごすこととなった。

サトちゃんは最初カートに乗っていた。
ショッピングモール内にあった大好きなアンパンマンのカート。
しばらくゴキゲンで乗っていた。
しかし、小さな子供というのはすぐ飽きてしまうものだ。
途中から身体を反らせてカートに座ることを拒否した。

歩きたいようだ。
昨年末まではふらふらと数歩あるく程度だったそうだが、年明けから急にしっかりと1人で歩くようになったという。
時おり横揺れしつつおぼつかない足どりながらも、サトちゃんは大好きなアンパンマンの自動販売機まで歩いていく。

「あんまんまん」

サトちゃんが小さな手で指さす。

通りがかりの人々が目尻を下げてサトちゃんを見る。
平日の昼間なので年配の方が多い。
「かわいいなー。」
そう言ってサトちゃんの前で少し足を止める老夫婦。
彼らもサトちゃんに昔の誰かの姿を重ねたりするのだろうか。
娘、息子、孫、甥っ子や姪っ子、近所のあの子。
わたしももちろん、サトちゃんの向こう側に幼かった息子達を見ている。
こんな頃もあったなあと。

幼い子を連れての買い物は一筋縄にはいかない。
脱線につぐ脱線。
逃走につぐ逃走。
ちょっと商品を見たいなーと思っても、すぐふらふらと目的の場所へ、あるいは目的はなくとも違う方向へ歩き出してしまう。
最終的に左手にサトちゃんを抱え、右手で商品を見る友人。
しかし一歳半ともなれば体重もそこそこある。
そして腕の中から脱出しようと身体を反ったり捻ったり。

小さい子を育てるお母さんは大変だ。
そうだった、大変なんだった。

だけどショッピングモール内でサトちゃんはたくさんの人を笑顔にした。
お店の人に、通りすがりのおじちゃんおばちゃんに、かわいいねーかわいいねーと声をかけてもらっている。
ただそこにいるだけで、やわらかい空気をつくってしまうという存在。

それはまさにアイドル。

うちの息子達も幼い頃買い物に連れ出すとたくさんの方が声をかけてくれた。
かわいいね、男前だね、やさしい顔だね、お母さんにそっくり。
他にも自分の子供や孫の話を聞かせてくれる年配の方なんかもいた。
そして、みんな笑顔だった。


サトちゃんと友人とはお昼過ぎにサヨナラした。

サトちゃんはまだまだお昼寝が必要なのだ。

友人はわたしに、振りまわしてごめんと言った。
全然やでーと答えた。
本当に全然だった。
少しくらいは友人の役に立てただろうか。

育児の渦中にいると目が回るような慌ただしさの中で、毎日をどうにかやり過ごすことに精一杯になってしまう。
でも、ただ存在しているだけで無条件に愛らしい、よちよち歩きのあの期間は本当に本当に一瞬なのだ。

サトちゃんと過ごしたことで、息子達のアイドル時代を思い出したよ。

ショッピングモールで現地解散。
サトちゃんが小さな手を振ってくれる。

帰宅すれば1時間ほどで次男、その1時間後には長男がそれぞれ学校から帰ってくる。

なんだか2人の顔が見たいなと、満たされた気持ちで帰路についたのだった。



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