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雨の日に

記憶をたどってみると雨の日の光景は断片的にいくつか思い出せる。

一番古いのは小学生。
田んぼ道を、傘をさしながら帰る。
赤ちゃんがえるがあちこちでぴょんぴょん跳ねている。
ピンク色の長靴を履いたわたし。
小さなかえるを踏まないよう、つま先立ちで歩く。
あまりにもたくさんいるからヒヤヒヤして、息を止めて歩いた帰り道。
アスファルトで跳ねるチビガエルと雨水の光景。

それから中学生の頃。
片想いしていた同じクラスのあの子。
雨が降ると教室に閉じ込められたみたいで、あの子と同じ空間にいることをいつもより濃く感じられるような気がした。
人生で一番ロマンチストだった思春期のわたし。
朝の教室にみんなが運んできた雨のにおい。
なんとなくうれしくて、でも誰にも言わなかった。
2階の窓から眺めた広い運動場。

初めての職場でのこと。
わたしは社員寮に入っていた。
その日は大雨で、駐車場には大きな水たまりができていた。
どういう経緯かは不明だが、同期の友人とその水たまりにダイブした。
傘もささずに泥だらけ。
子どもの頃に戻ったように遊ぶ。
クロールの真似をしてみたりして。
楽しくて大笑いして、その声をかき消すほどにザアザアと降る雨。
その後すぐ寮のお風呂に飛び込んだはず。
若い頃の何をしてても楽しいという感覚。
バカみたいできらきらしている20歳頃の記憶。

赤ちゃんは雨だとよく眠る。
第1子を出産したばかりの11年前。
お昼寝から2時間3時間と目を覚まさない長男。
ちゃんと起きてきてくれるのか。
夜は眠ってくれるのか。
心配な反面、もっと寝ててほしいような気もする。
夕方は薄暗く、雨の音だけが聞こえる。
なんだか心許ない。
足が冷えて、先が見えないなんて思っていたあの部屋の光景。

子供達がそれぞれ幼稚園の頃。
雨の日は歩いてお迎えに行った。
片手で傘をさし、もう片方で小さな手を握る。
繋いだ方の手が雨に濡れて冷たい。
小さい黄色の長靴に歩幅を合わせた通園路。

今日、午後3時現在。
少し前にランドセルを背負った次男が小走りで帰ってきた。
玄関を開けるなり
「トイレトイレトイレトイレーッ」
と足踏みしている。
傘はさしてこなかった様子。
いつの間にか雨は上がっていたみたいだ。

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