好きになった人

「あなたは、いったい
ぼくが好きだったのでしょうか」

『オリンポスの果実』、
田中英光の代表作だ。
戦前のロス五輪に出場する
ひとりのボート選手の
淡い恋心を描いた作品。
ロスに向かう船の中で
恋した人への長い手紙。

やるせないほど内気で
情けないほど純情な男。
主人公坂本重道の
好きになった人、
熊本秋子への
最後の問いかけが
その言葉だったのだ。

坂本も熊本もすでに結婚、
初めて会ったときから
すでに何年も経過している。
それでいて尚、坂本は
熊本のことが忘れられない。
何度か恋文をしたためるが
返事は戻ってこなかった。

男は好きだった人を
ずっと思い続ける。
女は好きだった人を忘れ
新しい人を好きになる。
この小説だけでなく、
男と女の異なる性質、
そのような気がしてしまう。

さて、僕はどうなのだろう。
どうだったのだろうか?