雨の日の停電

「ほし」で蕎麦粉だけの
くろがねをいただいていたとき、
突然、停電になった。
電灯が消えて暗くなり、
小さな音でかかっていた
バロックの室内音楽が消えた。

雨の音が聞こえてきた。
この日はかなりの雨だった。
降る雨で庭の景色は煙り、
屋根や地面に雨が落ち、
その音が部屋にも聞こえてきた。
雨の音が音楽になる。

ショパンの「雨だれ」のような
柔らかな雨の音ではない。
ラヴェルの「水の戯れ」の
ロマンティックなものでもない。
ドビュッシーの「雨の庭」だと
雨のリズムが速すぎてしまう。

ブラームスのヴァイオリンソナタ、
「雨の歌」がいいかもしれない。
ブラームスが横恋慕していた、
シューマンの奥さん、クララと
亡くなった息子のために書いた曲。
「雨よ降れ」と雨に喜ぶ子供の情景。

停電はなかなか解消せず、
薄暗い部屋のまま雨の音だけ。
子供の頃の雨の日の情景、
いろいろな色の傘の花が咲く。
雨の音だけが聞こえる部屋で
ぼんやりと夢想に耽ってしまった。