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「義和団の乱(著松岡圭祐)」を読んで~穂麦むぎの読感No.1~

作品について

 「義和団の乱 黄砂の籠城・進撃総集編」(講談社)は、松岡圭祐さんの作品で、義和団事件の公使館防衛を描いた歴史小説。

作品のあらすじ

 義和団、公使館に立てこもるの人々の両方の視点からこの防衛線が描かれている。
 義和団の長である張徳成は、バラバラに洋人と対抗する集団をまとめあげ、「扶清滅洋」を掲げて公使館を包囲・攻撃する。
 北京公使館地域を包囲した義和団20万人に対して、列強連合軍は500人で立ち向かう。
 列強連合軍を率いるのは、新任駐在武官・柴五郎である。
 連日連夜、襲い掛かる義和団から、連合軍は陣地を守り抜くことはできるのか。
 2か月半の死闘がありありと描かれてる。

主題について

 プロローグは、現代、2017年の商談から始まる。プロローグの主人公である櫻井海斗は、柴五郎とともに義和団に立ち向かった櫻井隆一の玄孫であるが、その曾祖父の活躍を知らなかった。
 たしかに、義和団の乱は援軍の活躍がフォーカスされることが多いと思う。北京公使館区域の籠城・攻防戦については、有名な戦いであるが、授業や番組などで知る機会というのは、あまりないのではないだろうか。

 しかし、この櫻井海斗は、この商談で義和団の乱の公使館区域の攻防戦の話を聞いて、大きく心持を変えたようである。

 「与えられた機会を生かさねばならない。これは安易に語られがちな愛国心とは異なる。自分の血となり肉となるすべてだった。おそらくすべての日本人が内包する、なにものにも代えがたい財産だろう。歴史の断絶によりほとんど忘れられた記憶。だが過去に触れることで、いままで自覚していなかった強さを発揮できる。
 そう、この事件について真相を知れば、だれにとっても道が開ける。櫻井はそう思った。日本人なら誰もが。」

プロローグより一部を引用

日本人の財産

 作品で、日本人の財産として表現されているのは、行動力や協調性、集団に尽くすこと、相手の感情を推し量って行動することなどである。
 
 生死を掛けた場面での日本人の活躍や最前線にとどまって戦う姿、特にキリスト教会に監禁されたキリスト教徒の漢人3000人を救出した場面は印象的であった。また、各列強の中で最も義勇兵が集まったのは日本だった。

 作中の日本人は、自分の得意分野ではその能力を十分に発揮して、ピンチの場面ではその知識を活かし、全く経験のしたことのないことでも、籠城する外国人含め全員のために戦おうとする気合があった。

 柴五郎は、攻防戦開始直前の公使らの会議にて睨みあう公使・駐在武官らを圧倒的な情報と冷静な言葉によって会議の前進へと進めた。
 当時の日本は列強入りを果たそうとしているところで、列強からは軽視され、意見なども重要視されないことが多かった。
 しかし、この会議をきっかけに公使・駐在武官の枠の中で柴五郎と日本の存在感は強まった。

 日本公使館に避難していた白人女性が産気づいたとき、出産に立ち会い協力したのは、同じく避難していた日本人女性であった。その中でも中心となって動いていたのは数日前まで病院に入院していた女性である。
 その場の連帯感は非常に強かった。無事に出産が済んだときは周囲を取り巻いていた人たちが歓声をあげ、みんなで喜び合っていた。
 彼女らは、この混乱している情勢の中で、命の誕生に集中させ、気を向かせ、不安に希望を作ったのである。

 日本人の忠誠心と勇気は、日本人の財産として誇れるものである。特に、仲間に向けられる行動は周囲に勇気を与えるものになると思う。


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