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覚醒しだした小野


天体望遠鏡の小野(homes!ck)
1981年生まれの40才。

医学医術の進歩、公衆衛生活動の発展、国民経済の進展に伴う国民の所得水準の向上、衣食住の生活改善、社会保障の充実など、その様々な要因により

我々人間の平均寿命は伸びている。

俺の年齢は現代社会において、全然若いとされる年齢である。



しかし、俺の膝は常日頃から悲鳴を上げていた。



俺の同世代の奴はみんな気軽に立ち上がり歩きだす。何の違和感なく膝を曲げている。

それだけではない。

年上連中ですら軽快に身体を操っている。


俺にはそう見えるのだがー、


俺が同じ動きをすると激しい痛みを伴う。


この事実を前に俺はこう考えてしまう。


『俺の身体…壊れてるんじゃないか?』


そんな不安を他所に


人は皆、俺に優しい言葉を掛ける。


『皆んな、一緒だよ』


果たして本当にそうなのだろうか?


これから先…



俺の身体はどうなっているのだろう…。

homes!ck


ー裏話ー

『賛成の天体2021』本番直前。
客入れの曲が俺の耳に入ってくる。いつも客入れの時間には袖に待機し舞台に集中する。代表川辺が選曲した客入れ曲を独り耳にする。

それが自分の芝居に対するルーティンである。


しかし、今回はいつもと違った。


俺は人知れず窮地に立たされていた。


小野『こんな筈じゃぁ…』


脚に力が入らない…正確には膝の感覚が『無い』のである。



一体、何故?



原因と思われる大きな要因。

◯常日頃から身体が弱っていて『もやし状態』

運動していない。よくいる中年男性。

◯本番初日にゲネを2回行なっている

今回の舞台は段差を多用している。これまでの通常稽古より、膝への負担と体力の消耗が激しかったこと。

◯20年間吸い続けた喫煙

俺は心の内で1番の原因は『↑これだぁー‼︎』と大声を発した。


『小原嬢』『琳子姫』がダブルキャストであるため、ゲネを2回行うのは当然としても、『時』『場所』『状況』この全ての歯車がこうも『負』の方向へ噛み合ってしまうのは、演劇人生始まって以来の出来事だった。

よりによって本番初日にこの『体調不良』とは…。


『ポニョのオッパイ揉みしだき計画』どころの話ではない‼︎


あぁ、目の前がチカチカしてきた。酸欠状態にも陥りつつある。



『まだ始まってもないのにっ‼︎』



…。




目が霞んで何も見えない…。



…。



自分の生き方を後悔した。半年もの間、皆んなが頑張って創り上げてきた『賛成の天体』を俺は『今』ぶち壊そうとしている…。




〝あーあ…〟






〝運動すれば良かったナ…〟





今更の後悔である。






客入れが終わり、会場が暗転するー。

次の瞬間、美青年•淳也扮する『ヒロ』の声が舞台に響き渡る…。



物語は始まってしまった。



焦る俺は己の膝を叩くー。

『戻ってこいっ!』

俺は自分を鼓舞する。

このままでは皆んなに迷惑を掛けてしまうぞっ‼︎

俺の間抜けのせいで全部台無しだっ!



だがー、身体は元には戻らなかった。









〝あーあ、体力つけりゃ良かった…〟










〝煙草…〟







〝吸わなきゃよかったな〜〟









…。








『羞恥の心』


旧約聖書に書かれるアダムとイヴによる、禁断の果実を口にした行為により生まれ出た


最初の罪。


始まりの人類、アダムとイヴ。

その2人のお陰で、俺はその『羞恥の心』を拭えないまま、舞台の上に立されたー。






いや、






俺にはもう、


恥じらう感情はー、無かったのかも知れない。




『時』は本番






『場所』は舞台中央







『状況』は気を失ったポニョの姿…







そう、『彼女』はポニョを演じ続けなければならないのだ…。





…。







『彼女』はポニョを演じ続けなければならない?








なら、俺は…









舞台中央にスポットライトが当たる。












彼女は冒頭、ポニョの台詞を後に気を失う。












俺は彼女の、上半身を起こし後ろから手を伸ばす…。














俺は淡々と台詞を口にする













彼女は気を失ったままだ







いや…、





たとえ意識があっても、







『状況』がそれを許さない…













彼女の後ろから手を忍ばせる…













オッパイとの距離








〝0距離〟









物語は動き出す…







ハエ
 『見つけた〜、覚悟しろ〜』


アニキ、ヒロ
 『せーの、逃げろーーっ!!』




続くー

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