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PERCHの聖月曜日 89日目

パンで思い出すのは、北京の北京飯店の朝のマアマレイド。これは誰が煮るのか、澄んだ飴色をしていて甘くなく酸っぱくなく実においしい。
 私はめったに友人の家へ泊ったことがないけれど、鎌倉の深田久弥氏の家へ泊った時の朝御飯は、今でも時々、うまかったと思い出す。奥さんはみかけによらぬ料理好きで、ちょいちょいと短時間にうまいものをつくる才能があって、火鉢でじいじいと炒ためてくれるハムの味、卵子のむし方、香のもの、思い出して涎が出るのだから、よっぽど美味かったのに違いない。
 私は、朝の肉は気にかからないが、朝から魚を出されるのは閉口。中国地の魚どころへ行くと、朝からしゃこの煮つけなんか出される。朝たべられる果物は躯に金のような作用をするそうだけれども、全く、中国地でありがたいものは、果物がふんだんにたべられること。私はこのごろ、朝々レモンを輪切りにして水に浮かして飲んでいるけれど運動不足の躯には大変いいように思う。いまごろだと苺の砂糖煮もパンとつけあわせて美味いし、いんぎんのバタ炒り、熱い粉ふき藷に、金沢のうにをつけて食べるのなど夏の朝々には愉しいものの一つだと思う。うには方々のを食べてみたけれど、金沢のうにが一番うまいと思った。これは朝々パンをトーストにして、バタのように塗って食べるのだけれど、これは、ちょっとうますぎる感じ。――食べものの話になると、もっともっと書きたいのだけれど一息やすませて貰って、そのうち、うまいものをたべある記でも書きましょう。

ーーー林芙美子「朝御飯」1939年 https://www.aozora.gr.jp/cards/000291/files/45307_18535.html

Model of Brewers, Bakers, and Butchers
Middle Kingdom
ca. 2030–1640 B.C.

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