儀式

夜、眠りにつく時、ふと子供の頃のことを思い出した。

田舎で育ったことは、以前も書いた。
母家・新家が垂直に並んで同じ敷地内に建っていた。
その内側は、中庭のようでもあり、コンクリートで固められた敷地には洗濯物を干す空間もあった。前方には畑があり、色々な草花や、野菜を祖母が育てていた。
昼間は新家で過ごし、夜は母家の祖母の部屋で祖母と一緒に寝ていた。
と言っても、祖母の部屋に2段ベットが置かれていて、そこで寝るのであるが。夜、寝る時間になると、新家から一旦外に出て、母家に向かう。
今、考えると地域性と家の立地の特性、家族の性格もあるかもしれないが、家に鍵がかかっていた記憶がない。少なくとも、母家があった頃は、母家は戸が閉まっていても、いつも鍵は開いていた。だから、私と姉は好きなタイミングで母家と新家を行き来していた。それは夜(と言っても、子供が寝る時間なので、8時とか9時だと思うが)でもそうで、早くに寝てしまう祖母は、鍵をかけずに寝ていた。

「もう寝る時間だよ」と母に言われると、二人で外に出て、母家に向かう。
その時、いつも、色んなものに中庭で「おやすみなさい」を言うのが、私達二人の寝る前のルーティンだった。

「お星さま、おやすみなさい」
「お月様、おやすみなさい」
「お花たち、おやすみなさい」
「世の中のすべての人々、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
二人で、思いつく、様々なものを上げ、空に向かって「おやすみなさい」と言う。それは、さながら、儀式の様に、晴れた夜は毎晩、行うものだった。

その時の、星空のきらめきと、静謐の中に浮かぶ月が、その澄んだ空気が、今も忘れられない。


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