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シンデレラファイトDAY6観戦記

たくさんの聴衆の目が注がれる大舞台では、いつものように打つことが本当に難しい。

ただ、いつものように打てないことの原因は、「緊張」ではないと私は思う。
最も怖い敵は、自分を良く見せようとする「虚栄心」と、自分の欠点を隠そうとする「弱い心」。

つまりは、自分に「克つ」ことが大事。
それすら出来なければ、相手など超えられようもないのだと私は思う。

本日の1ゲーム目

供託が3本卓に乗せられた東4局2本場、ドラは中。
このゲームの序盤から、毎局ドラがたくさん手に入るものの和了に結びつかない火野ハルナの動きに注目した。

ドラの中バックの仕掛け。
これにはさすがに焦りがにじむ。

何故なら、この手の仕掛けの肝は、「相手の読みを上手く外すことが出来るかどうか」にかかっているからだ。

読みを外させる、と書いたが、決して相手を騙し、陥れるのではない。

「相手に考えさせる」
ことが出来るかどうか。これが仕掛けの上手下手に密接に関わっている。

ちなみに、切り出しが5ソウ、9万、そしてポン出しが北。
この手に読みを入れるとすれば、第1打が5ソウだからタンヤオは考えにくい。
そして、ドラが字牌故に、第一本線はピンズのホンイチ。それからトイトイ、もちろん役牌(ドラを含む)バック仕掛けで捌いて供託点を取りに行ったとも考えられる。
この辺りが第一感。

残念ながら、この仕掛けは正解にたどり着くまでの道が短すぎる。
そのため、相手が読みを外してくれることが期待できなさそう。

仕掛けずに手を進めていれば誰かに勝負手が入れば打ち出されてくる可能性もあっただろうが、タンヤオにミスリードも出来ない序盤の河…。
この手合いでは拾うことは難しいのでは?と感じる。

この2ピンに声をかけたのはどういう動機だったか…。
もしも、この2ピンのポンがいつも通りの間合いで、いつも通りの精神状態で為されたものであれば何も言うことはないが、前述のとおり、打点に対する手材料を得ても和了に結びつかないことに対する焦りや苛立ちから声が出てしまったのであれば…。
その辺りはご本人にしかわからないところだが、大舞台での戦い方の難しさを観たような一局だった。

前節では非常に独創的で観ている者に訴えかけるような麻雀を描いていた火野。
あの麻雀が打てるのだから、ぜひこの舞台に戻ってきて、再び素晴らしい麻雀を見せていただきたいと切に願う。

それに対して、泰然自若で自分の麻雀を淡々と打っていたのが、トップ抜けの廣岡璃奈。
供託点が先ほどの場面からさらに5本にまで積み上がった東4局5本場。

親の相川が1枚切れのカン7ピン待ちでヤミテンを入れているところへ、

廣岡がタンヤオドラ1のイーシャンテンから仕掛けを入れて、

8万を引いてこの形になった相川に、

6ピンを打たせて決着。

仕掛けるべき間合いでしっかり攻め切ると、

四者大競りの点数状況で迎えた親番、

ご覧の好配牌を得たものの、相川まりえの2フーロ攻勢もあって中々聴牌せず。
終盤にようやく手が進み、

カン8万でストレートにリーチ。
上家、そして下家の序盤にマンズの上が切られていることが物語るように、この時点で何と和了牌が全山。

軽々とツモり上げて4,000オールとし、これが決定打。

やるべきことを一つ一つこなすことが出来たのは、大舞台を数々潜り抜けてきた女流タイトル経験者の経験値の成せる業だろうか。
改めて廣岡の強さが際立った印象だった。

そして、もう一つの注目はこの日の#3。
場面は終盤の南3局。

親の松島桃花の手牌。
2巡目に北を離し、上記の格好から1枚目の東を叩いて打發。
ホンイチは見切って手広く構えるのかと思ったが、

上家の木下遥から出た9ソウに声をかけて、結局はホンイチへ渡る。
この辺りが、なんとも腰の入った仕掛けには感じられなかった。

最終的に、この仕掛けが相川の仕掛けを誘発してしまい親番が落ちてしまう。

2着権利のこのゲーム、ラス親の相川をトップ目のままにしてしまったのは下位陣には痛恨と言って良い。
何故なら、相川は放銃さえ避けてオーラスを伏せられたら勝ちという状況。
残り1席を3人で争わなくてはならないが、さあどうなるか。

南4局。相川は絶対に伏せるので、木下、松島には猶予がない。逆に桃瀬古都には流局で通過権利を手にすることが出来るが、ラス目の木下までその差は7,600点。満貫以上の和了が起これば即敗退で安穏とはしていられない。

泣いても笑ってもこの1局勝負。
進退窮まる状況こそ、「腹の括り方」がものを言う。

木下、多少手格好はまとまっているものの、満貫ツモか満貫以上の出和了り、桃瀬からの3,900以上の直撃が必要な条件。ドラは東で手に絡みにくい配牌を手にした。

私は、正直この時点で木下はここまでか…と感じていた。

ターゲットの桃瀬の手牌が良すぎるのだ。
そして、松島。

条件は1,000-2,000ツモか5,200以上の出和了。
字牌の重なりからホンイチを観るべく9ピンから。
そして、

木下が切った2巡目の白をスルー。
門前での進行じゃないと5,200になりにくいと考えたのかもしれないが、上家の木下はある程度まっすぐに行かざるを得ない状況で、親の相川の序盤の切り出しから(安全牌化しやすい)字牌の出が相当に遅くなりそうということを考えれば、ここは白を叩いていく手が一般的かと思う。

しかし、松島が白をスルーしたことで、

と、次々に好ツモが押し寄せて一気に456三色の姿が浮かび上がる。

そんな中、現状2番手の桃瀬。相川が慎重に選んで切った2ソウを見て手が止まる。

しびれを切らしてこれをチーして、一気通貫片和了りの仕掛け。

序盤に、タンヤオに渡ることが出来る牌がたくさんやってきたのだが、それをすべて拒否して難易度の高い手役に活路を求めた桃瀬の仕掛けは果たして?

と、この仕掛けで流れてきたのが、木下待望の6万。

万感の思いを指先にほとばしらせてのリーチ。
対する桃瀬も、相川から切られた現物の8万をチーして応戦。

互いに片和了りのめくり合い。
素晴らしい勝負となったのだが…。

この6ピンを持ってきて手が止まる桃瀬。

状況を考えれば、木下の打てば終わりであることは確か。
桃瀬の決断は「撤退」だった。

観戦者としては、少し残念だった。
カン2ソウを仕掛けた時の志と、今の志は果たして同じだっただろうか?
自分で決めるんだとその一歩を踏み出したのではなかったのか?
この8ソウを抜いた姿に、桃瀬の腹の括り方がほんの少しだけ弱かったような印象を受けた。

私見を挟んで恐縮だが、願わくば…ここは6ピンを叩き切って、木下との殴り合いを観たかったなと思う。

覚悟を決めて、凛として6ピンを叩き切る桃瀬の姿。
きっとその姿は観る者の心をつかんで離さないはず。
この勝負に勝つことと同じくらいの恵みを桃瀬にもたらしたはずなのだ。
その姿は、次の登場までの楽しみとしたい。

そして、この決着は鮮やかだった。

腹を括って前に出続けた木下が、最後のチャンスを手繰り寄せた。

勝負を決められた充実感か。
はたまた、厳しい緊張感から解放された安堵か。
それとも…?

様々な感情が綯い交ぜになって、一気にこみ上げてきた木下の表情は、これまでに全く見たことが無いものだった。

いつもは強気に振る舞う木下。
しかし、対局後の彼女の姿はいつものそれではなかった。
自然と零れ落ちる涙に、この戦いに賭ける思いと、追い込まれた苦しさが垣間見えるようだった。

敗退の憂き目の際の際まで追い込まれて、か細い蜘蛛の糸のようなタイトロープを夢中で渡り切った木下。
その先に見えた景色はどんなだっただろうか?

そして、戦いは続く。
ぜひ、北海道で待つファンにも、さらにその向こうの景色を見せてほしいと思う。


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