見出し画像

シンデレラファイトシーズン2 SemiFinal

最強の三冠牝馬と木下遥

ジェンティルドンナ。

イタリア語で「貴婦人」という意味の名を持つその馬は、2012年に史上4頭目となる牝馬三冠を達成。
その後、ジャパンカップを史上初めて連覇するなど通算GⅠ7勝という輝かしい成績を収めた。

ターフを駆ける彼女の姿は実に優雅で美しかった。
それでいて、速くて、強い。
直線で後続に追いすがられても、先頭をわずかに譲らずギリギリかわし切る。
優雅な中に見せる勝負根性が彼女の魅力だった。

木下遥プロが今日も勝ったから言うわけではないが、以前から僕は、彼女には偉大な三冠牝馬の姿が重なって見える時があると思っていた。

場面は終盤の南3局。

成海有紗、長谷川栞、木下遥の三者が競っていたところ、南2局の跳満ツモで頭一つ抜けた長谷川が畳みかけるように先手リーチ。
そこへ、もう後がない彩世来夏が自風の西と5万のシャンポンで追いかけた。

1枚切れの西が狙い所。
和了り方次第ではラス抜けに大きな一手となる。

一方、トップ目の親とダンラスの2軒リーチに挟まれた木下。

彩世からのリーチが来る前に安全牌として抱えた西が捕まっている。

木下としては、トップを狙うのであれば長谷川の連荘は早く止めたい。
さらに、彩世との差は25,200点で、長谷川を相手にひと勝負打って出るのも面白い点差。
例え失点したとしてもオーラスの親番が残っているので、ここでダメでももう一勝負できる。

何よりも攻めっ気が強い木下にとっては、この2軒リーチは勝負ができる「言い訳」が多い局面だった。

前述の手に4万を引き、さらにW南が暗刻になった。
親の手に2万と3万が並んでいることから、急所の3万待ちになっても拾いやすい。

しかし。

木下は、麻雀の世界に巣食う「魔物」に目を付けられた。

攻めるという「言い訳」にもたれて、比較的安全に見える西を切り出しても仕方がないと魔物はうそぶいていた。
そして魔物は、河から甘美な香りを漂わせて、木下が罠にかかるのを待っている。

万事休すかと思われたその刹那。

木下はノータイムで2万を抜いた。
全くノータイム。

それも、本当に事も無げに、だ。

2年前の彼女であれば、攻めっ気を全身に漂わせて西を打ち出していたかもしれない。
しかし、彼女はプロになってから変わった。
本当に成長した。
その成長の跡を、この2万がよく示している。

仕掛けた罠を見破られて、魔物は断末魔の悲鳴を伴って闇に消えた。

2軒リーチの結末は彩世が長谷川へ放銃で決着。
もしも木下が西を打ち出していたら、彩世への満貫放銃だった。確かに、木下の足元に奈落へ通じる落とし穴が口を開けていたのだ。
打2万は、まさにファインプレーと言って良いと私は思う。

因果応報~呼び込んだ6,000オール

流局を挟んでオーラス。

その昔、私の師匠である土田浩翔プロはこう言っていた。

「千嶋君、因果応報という言葉を知っているかい?良き行いには良きことが返って来る。ファインプレーの後にはご褒美が来るんだよ。」

「手積みで麻雀をしていた頃はすぐに神様が微笑む。だけど、現代は牌を2組使っている。だから、ファインプレーの後のご褒美は2局後、あるいは4局後といった偶数局後に起こりやすいよ。」

良い行いをした因果は、その牌に宿り、訪れる。

信じるか信じないかは、あなた次第。
オカルトだと一笑に付すのもいい。

だが、そこで笑っているあなたに聴きたい。

では何故、木下に突然こんな手が入るのか。
あなたは説明できるか?

赤2枚、さらにドラ入りメンツが完成された手牌をもらった木下。
ツモにも後押しされて、

ピンズとマンズの三面張でイーシャンテンを迎えていたところ、高めの4万を引き入れて6巡目にリーチ宣言。

神の遣いが高らかに奏でる祝福のラッパが聴こえてくる。

安目ながらも2ピンをツモ。
6,000オールで長谷川に並びかけると、その後6本場まで続く猛攻を繰り出し、一気に突き抜けた。

もしも、南3局であの西を彩世に打ち上げていると…。
この配牌は存在せず、あるいはここで敗退の憂き目に遭っていたかもしれない。
しかし、あの西をこらえられたからこそ6,000オールへの道が拓かれたのだ。

「アーニャ、赤赤三面張が好き!」

ファイナル一番手の切符を手にした木下。
近況の充実ぶりが集約された終盤だった。

終了後のインタビューでは、
「大好きな北海道コンサドーレ札幌の試合があるので#1で勝ち抜けたかった。」
旨のコメント。
これにはさすがに1周回ってイラっとしたがw
いや、本当に強いと感嘆するほかない。

並びかけてからの影をも踏ませない末脚。
まさに、ジェンティルドンナのそれのよう。
余りにも鮮やかな姿だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?