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北海道大学出版会(Hokkaido University Press・北大出版会)の公式アカウントです。1970年設立の学術出版社。新刊、重版、おすすめ本、イベント、フェア情報などを中心に発信します。HP:http://hup.gr.jp

マガジン

  • 『統一教会』「まえがき(第四刷)」全文公開

    櫻井義秀・中西尋子『統一教会 日本宣教の戦略と韓日祝福』(北海道大学出版会、2010年)の2022年8月重版時に加筆された「まえがき(第四刷)安倍元首相銃撃事件と統一教会への対応をめぐる一考察」の全文公開です。

最近の記事

【試し読み】宮澤安紀 『日本とイギリスの自然葬法 :現代社会における死の物語の再編』

イギリスに滞在していた時期、下宿先の近くに住んでいたインフォーマント の自宅を度々訪れる機会があった。彼女は最近夫を亡くし、自然埋葬地に埋葬したばかりだった。日本からきた学生が調査のため自然埋葬の実施者を探していると地元新聞の広告で見かけ、自ら連絡をくれた人物である。気丈な彼女は訪問のたび、玄関先で筆者を笑顔とハグで迎えてくれたが、その大きな瞳はいつも彼のいない孤独を湛えているように少しだけ潤んでいた。 彼女の家を訪れるときは決まって、小さな中庭の見える、少し薄暗いキッチ

    • 北大の先生が選んだ本(29)フィンランド・北欧に出会う本(田中佑実先生)

      三省堂書店札幌店様とのコラボレーションコーナー「北大の先生が選んだ本」が現在展開中です。テーマは「フィンランド・北欧に出会う本」、選者は北海道大学大学院文学研究院文化人類学研究室助教の田中佑実先生です。本記事では、三省堂書店札幌店様にて配布中の選書リストを公開します。みなさまぜひ足をお運びください! ★三省堂書店札幌店様の紹介ページ: 「北大の先生が選んだ本」第29弾更新しました! | 三省堂書店 (books-sanseido.co.jp) *「品切れ」などの在庫状況は20

      • 編集担当Xの拾い読み(2023/12)

        *仕事で読んだ本のメモです 三木理史『国境の植民地・樺太』(塙書房 2006年) プロローグ 国境と植民地  Peattie, M.R.によれば日本の植民地の地理的特徴は内地を取り囲む「防波堤」であること(インドやアルジェリアとは違う)。搾取・投資型植民地の研究にもとづく既成概念に対し、移住型植民地としてみた樺太、北海道の研究から植民地の問題と北海道史を再考する。  庶民の多くが国境を正確に意識するようになったのは大正~昭和初期。満州族政権の清朝期にはサハリン島を「庫頁島

        • 本は静かに積み上がる(2023/12特別篇── あなたに紙のお恵みを)

           本屋は誘惑の場所だ。  本たちが、「読んでみなよ」と誘う。  あるいは、「読めんのか?」と煽る。  さらに、本の中に引用された本、参考文献としてあげられた本、著者紹介に載っている既刊書などなど、本と本とが手に手を取って、声もなく我が袖を引く(イタロ・カルヴィーノ『冬の夜ひとりの旅人が』(脇功訳、白水Uブックス)の冒頭部分を思い出しながら)。  負けてはいけない。  いや、負けていいのだ(みんな、もっと負けよう)。  積極的に負けつづけた結果、本は静かに積み上がる。  そし

        【試し読み】宮澤安紀 『日本とイギリスの自然葬法 :現代社会における死の物語の再編』

        マガジン

        • 『統一教会』「まえがき(第四刷)」全文公開
          3本

        記事

          【試し読み】田中佑実『死者のカルシッコ:フィンランドの樹木と人の人類学』

          本書では、フィンランドのサヴォ地方を中心とする地域で行なわれていた死者のカルシッコ、フィンランド語でvainajan karsikko(ヴァイナヤンカルシッコ)と呼ばれる樹木をつくる風習を紹介しながら、樹木と人々の生身の繋がりを描く。 死者のカルシッコは、フィンランドのサヴォ地方を中心とする地域において一六世紀後半または一七世紀から盛んに作られたとされる死者の印を持つ樹木である。印を持つ樹木だけでなく、その印自体もカルシッコと呼ばれる。死者のカルシッコは、家から墓場へと繋がる

          【試し読み】田中佑実『死者のカルシッコ:フィンランドの樹木と人の人類学』

          おくりもの:フィンランドのスケッチ

          ユーカへ向かうある冬の日、私はヨエンスーのスーパーを出て、居候先の友人宅まで雪の地面を小走りしていた。腕には新聞紙にくるまれたチューリップのつぼみたち。マイナス15度の外気のために、せっかくの花が凍らないか心配で、両腕で子供を抱きかかえるようにして急いでいた。このかわいい花たちはユーカに住むイーリスとティモへのおくりものだった。 フィンランドの北カレリア地方、ピエリネン湖に面した小さな街に行くのも、今では随分こなれたものになった。この田舎町ユーカへは、フィンランドの首都ヘル

          おくりもの:フィンランドのスケッチ

          編集担当Xの拾い読み(2023/10)

          *仕事で読んだ本のメモです。 新潟大学日本酒学センター編『日本酒学講義』(ミネルヴァ書房 2022年)序章 日本酒学への招待 鈴木一史・岸保行 ・新潟大学で2018年にスタートした「日本酒学(Sakeology)」の取り組みについての紹介。日本酒学のコンセプトと設立の経緯について。 ・日本酒学とは日本酒という限定された対象を領域横断的に(農学、工学、理学、経済学、経営学、人文学、社会学、法学、教育学、歯学、薬学、保健学など)研究する総合科学。 ・新潟県、新潟県酒造組合、新

          編集担当Xの拾い読み(2023/10)

          本は静かに積み上がる(2023/10)

           積ん読と云うのは、人の思わくに調子を合わせてそう云うだけの話で、自分で勿論積ん読でいいやなどと考えてはいない。すぐに読む気がなければ本を買ってはいけないと云うわけはない。すぐ読む積もりはないけれど、本屋に行って本を買って来ようと思う。 (以上、内田百閒「特別阿房列車」書き出しを元に。『第一阿房列車』(新潮文庫)参照)。  てな具合いの、百鬼園阿房列車マインドで、日々の本屋旅行&積ん読である。件の内田百閒は、旅先で手持ちの高山樗牛全集第七巻を古本屋に売って切符代を捻出したり

          本は静かに積み上がる(2023/10)

          編集担当Xの拾い読み(2023/6)

          *仕事で読んだ本のメモです 井上暁子編『東欧文学の多言語的トポス』(水声社 2020) 編者まえがき 科研基盤Bの助成を受けたシンポジウムの報告に加筆・修正を加えた論文集。「東欧」「中欧」「中東欧」について。作家たちによって「中間性」を強調する「中欧アイデンティティ」の試みと、商業的な「中欧」イメージ、難民の流入を背景にしたナショナリズムの高まり。多様性の価値観は失われつつある。東欧とその外部(各言語圏の「中心」)の関係(横のつながり)の重なり合いによる「文化的ダイナミズ

          編集担当Xの拾い読み(2023/6)

          本は静かに積み上がる(2023/6)

           本を眠らせ、本の尾根に本ふりつむ。  いや、「尾根」という表現はこの部屋の実態を反映しておらず、本の山脈というよりも、本の群島がまずは起源的に形成され、それらが徐々に隆起して、初めは独立した島々と見えたものが結果的にひとつの高原(プラトー)として存在する状態。  ミル・プラトー(©ドゥルーズ&ガタリ)ならぬ、ヨム・プラトー。  簡潔に言うと、ほぼ読んでいない本が、床面積の大半を一定の高度で占拠している。 《本って、閉じているとき、中で何が起こっているのだろうな?》  ミヒ

          本は静かに積み上がる(2023/6)

          【終了しました】北大の先生が選んだ本(28) ヒグマ学と自然・文化の多様な世界(増田隆一先生)

          三省堂書店札幌店様とのコラボレーションコーナー「北大の先生が選んだ本」が現在展開中です。テーマは「ヒグマ学と自然・文化の多様な世界」、選者は北海道大学大学院理学研究院教授の増田隆一先生です。本記事では、三省堂書店札幌店様にて配布中の選書リストを公開します。みなさまぜひ足をお運びください! ★三省堂書店札幌店様の紹介ページ: 「北大の先生が選んだ本」第28弾更新しました! | 三省堂書店 (books-sanseido.co.jp) *「品切れ」などの在庫状況は2023年5月現

          【終了しました】北大の先生が選んだ本(28) ヒグマ学と自然・文化の多様な世界(増田隆一先生)

          編集担当Xの拾い読み(2023/5)

          藤本大士『医学とキリスト教』(法政大学出版局 2021年) 序章 先行研究で包括的な研究がないので、医学史とミッション史両方の観点から、幕末ーアジア・太平洋戦争後までに来日したアメリカ人医療宣教師を教派にかかわらず宣教看護婦も含めて網羅的に取り上げる方法をとる。すごい。 1章 幕末期。シモンズみたいに宣教よりも医学の普及に関心があった宣教師もいたのは意外。 2章 1870年代。アメリカ人医療宣教師は公立の医学校・病院にはあまり関わらなかったが医学生たちが臨床を学ぶために医療

          編集担当Xの拾い読み(2023/5)

          本は静かに積み上がる(2023/5)

           読んだ本の紹介文を書けと言われたものの、こちとら筋金入りの積ん読派である。  買った本を報告するだけでよいというので引き受けてみた。  自己紹介は省略する。  本よりも、私という人物に興味があるという奇特な御仁は、2018年のこちらの記事 http://www.core-nt.co.jp/syoten_nav/archives/12493 をご参照いただきたい。  さて、買った本の報告である。  どのくらいの頻度で更新するのか・できるのかわからぬままの見切り発車だが、とりあ

          本は静かに積み上がる(2023/5)

          編集担当Xの拾い読み(2023/4)

          *仕事で読んだ本のメモです 宮下遼『多元性の都市イスタンブル』(大阪大学出版会 2018年) 序章 イスタンブル人たちがイスタンブルがかつて「世界の中心」だったことを忘れられないでいる憂愁。 1章 イスタンブルという特別な都市へのアプローチについて文学資料の活用を提言。 2章 世界の中心近世イスタンブルの空想ツアー。ランドマークもショッピングも食事もするするイメージできて最高!地球の歩き方+歴史小説を頭に流し込んだ感じ。 3章 イスタンブルを理想化する都市頌歌の分析。神秘

          編集担当Xの拾い読み(2023/4)

          【開催レポート】“博士論文を本にするまで・本にしたあと”(2022/11/14 橋場典子オンライン講演会)

          1. 博論概要紹介これまでの経緯 こんにちは、橋場典子と申します。 今日は北海道大学出版会から出していただいた『社会的排除と法システム』をきっかけにお話しさせていただくことになりました。この本は博士論文をベースとしているものですが、出版に至る過程でどういった苦労があったか、出版した前後でなにが変わったか等を中心に、後輩の皆さんに役立ちそうなことや、出版に関して悩んでいる方にとってポジティブなメッセージをメインにお話しができればと思っています。 まず自己紹介から。 私の専

          【開催レポート】“博士論文を本にするまで・本にしたあと”(2022/11/14 橋場典子オンライン講演会)

          講座 サニテーション学1-5巻完結記念 まえがき「本講座の刊行によせて」 全文公開

          本講座の刊行によせて サニテーションとは,主として人のし尿の安全な処理・処分と,そのための施設やシステム,およびそれにともなう場の状態を意味する。国連のミレニアム開発目標(MDGs)終了時の2015 年には,世界人口のおよそ3 分の1(23 億人)は基本的なトイレをもっておらず,2017 年には世界人口の約1 割(7 億人)が野外排泄を行っていたという現実がある。MDGs を後継した持続可能な開発目標(SDGs)においては,2030 年までにすべての人が,設備が整い,かつ適

          講座 サニテーション学1-5巻完結記念 まえがき「本講座の刊行によせて」 全文公開