鈴木健史(保育ファシリテーター実践研究会 主宰)

東京立正短期大学 幼児教育専攻 准教授。 保育ファシリテーション実践研究会主宰。 専門…

鈴木健史(保育ファシリテーター実践研究会 主宰)

東京立正短期大学 幼児教育専攻 准教授。 保育ファシリテーション実践研究会主宰。 専門は保育者論、子育て支援、ファシリテーションなど。 講演・研修・執筆依頼は「保育ファシリテーション実践研究会ホームページ」から https://hoiku-facili.work

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相手の表情や仕草はフィードバック

キャッチボールは、投げ続けることで精度が上がってきます。 なぜ精度が上がるのでしょうか。それは、投げたボールがどこに飛んでいくかを目で追っているからです。 つまり、ボールがどこに飛んで行ったのかを目で確認して、次に投げる時に修正を行っているということです。 たとえば、目隠しをしてボールを投げたとしたら、何度投げても精度は上がりません。 コミュニケーションも、キャッチボールのように精度を上げるには、相手の反応を確認しましょう。 相手が首を傾げていたり、腕組みをしていたら

    • 【第35話】油井園長の葛藤③

      それから油井は、これまで順子とともに取り組んできた様々な取り組みを話した。とにかく職員が辞めないように、人間関係を考慮して人員配置を工夫したこと。仕事に負担を感じないように、極力職員に新しい仕事を振らないようにしたこと・・・。 「そうですか。お二人とも色々と職員に配慮されてきたのですね」 栗田の傾聴の姿勢が、徐々に油井を饒舌にした。 「そうなんです。どの先生もとても優しいので、子どもたちは安心して生活できていると思います。ただ・・・」 「ただ?」 「・・・先生たちは

      • 相手を傷つけたら「ごめん」と言えば良いだけ

        コミュニケーションはキャッチボールと同じです。相手がいないと成立しません。 そして、練習すれば必ず上達します。 コミュニケーションも練習しないと上達しません。 自分の思いや考えの伝え方や、聴き方など、対話のやり方も練習しないとうまくなりません。 練習するということは、失敗から学ぶということです。 ところが、コミュニケーションを失敗することを人は過度に恐れます。失敗を恐れて練習できなくなるのです。 キャッチボールで失敗しても、ボールを落とした相手を責めたり、自信を失ったり

        • 【第34話】油井園長の葛藤②

          さて、初回の研修後、ファシリテーター協会の栗田から電話があった。 どうやら栗田は大学で授業も担当しているようで、大学の都合で授業日が変更になったようだ。変更後の授業日はちょうど次回の園内研修が予定されている日であった。大学から園までは電車で2時間弱かかるため、授業後に移動すると、どうしても園内研修の時間に間に合わないようなのだ。 しかし運良く、栗田の変更希望日と、園の都合の良い日が一日だけ一致したため、その日に研修の日程を変更することにした。 「それでは失礼いたします・

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        • コミュニケーション・人間関係
          26本
        • ストーリーで読むファシリテーション 保育リーダーの挑戦
          37本
        • 保育ファシリテーション・リーダーシップ
          45本
        • ファシリテーションの素材・フレームワーク集
          23本

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          【第33話】油井園長の葛藤①

          油井益代(あぶらいますよ)は、長年保育現場で多くの子どもと関わってきた。そのため、管理職である園長という立場でありながら、常日頃から各クラスに入って子どもたちと関わっていた。 やはり自分は子どもと関わっている時が一番楽しい、と油井は感じていた。 保育者を志したのがいつだったのか、あまり明確ではない。 益代の実家は農家で、繁忙期には地域の子どもたちを集めた季節保育所に預けられていた。益代は一人っ子だったので、保育所で友達と遊んだり、自分より幼い子どもの面倒を見るのが好きだっ

          【第32話】幻想の中で生きる③

          子どもの理解において順子が大切にしていることは、複数の推測をすることだ。つまり、「ああかもしれない」「こうかもしれない」と、決めつけをせず色々な可能性を考えることだ。そうすることで、保育者の関わりも多様になる。保育には「こうすれば必ずこうなる」という正解がないからこそ、そのような保育者の姿勢が大切だと考えていた。 しかし職員に対してはどうだ。なぜか対象が大人に変わっただけなのに、いつも決めつけてしまう自分がいる。飛田が記録を書けないのも、努力や熱意が足りないせいだと決めつけ

          人材育成で欠けているもの「試させる」

          人材育成でよく欠けてしまうものが「試させる」です。 人は体験から多くを学びます。体験から学ぶには、「何が起こったのか」「なぜ起こったのか」など体験をふりかえり、「次にどうするか」を考えるという体験学習の循環過程を繰り返す必要があります。 体験から学ぶということは、失敗から学ぶということです。 人材育成において、失敗を恐れさせるような関わり(失敗を咎める、必要以上の責任を負わせるなど)をしてしまうと、新たな一歩を試そうとしなくなります。 すると、昨日のやり方を今日も繰り返す

          人材育成で欠けているもの「試させる」

          【第31話】幻想の中で生きる②

          自分が感じていることと現実には乖離があるのかもしれない、と順子は考えるようになっていた。 最近、順子が保育において気になっていたのは、保育者の子どもの理解が浅いということだ。 たとえば保育者の保育記録を読むと、「〜して遊んだ」「〜を楽しんでいた」という記述が多い。 しかしこれでは、子どもが何を楽しんでいたのか、記録を日々チェックしている順子には理解できない。 もう少し丁寧に子どもの興味関心や育ちを読み取って欲しいという思いが順子にはあった。 そんな思いから順子は、つい保育

          人材育成で欠けているもの「動機づける」

          「研修を企画する時に大切なこと」でも書きましたが、人材育成でよく欠けてしまうのが「動機づける」です。 保育では、子どもの興味関心を理解することや、「面白そう」「やってみたい」という思いをとても大切にしますが、大人を対象とした人材育成ではそれが欠けてしまうことが多いと感じています。 基本的に、人は自分で「変わりたい」とか、「成長したい」と思わないと、変化・成長しようとしません。 外側から他者が「変わりなさい」「成長しなさい」というプレッシャーを与えることは、ありのままの自分

          人材育成で欠けているもの「動機づける」

          【第30話】幻想の中で生きる①

          二人のリーダーから、「リーダー会議」への提案に対してあまりにもあっけなく同意が得られ、順子は拍子抜けしてしまった。 自分が恐れていたことは何だったのだろうか、と順子はぼんやり考えていた。 リーダー会議を実施することについては、二人から反対されるだろうと思っていた。また、もし同意が得られたとしても、それは主任の順子の機嫌を損ねることを恐れ、妥協するだけだろうと予測していた。 ところが実際には、リーダーの二人からはリーダー会議に対する前向きな姿勢と意欲を感じられた。実際に本

          研修を企画する時に大切なこと⑤

          研修を企画する時に大切なことの一つは、「試させる」時間を設けることです。 多くの研修は次のような構造になりがちです。 「研修で学ぶ→現実場面で試す」 ところが、研修は温泉のようなもので、研修中はあたたまって「よし、やってみよう!」と思うのに、研修後はその思いが冷めてしまって実践につながらないということが起きます。 そこで、研修中に「試させる」時間を設けることが大切です。 たとえば、コミュニケーションに関する研修では、様々なワークを通して体験をしてもらいます。 丁寧に聴くこ

          研修を企画する時に大切なこと④

          研修を企画する時に大切なことの一つは、「動機づける」時間を設けることです。 研修において「教える」ことばかり意識して、「動機づける」が不足している場合があります。 「動機づける」というのは、研修で学ぶ内容を、参加者が「学びたい」と感じられるようになるための工夫です。 たとえば、研修の最初に少し時間を取って、次のようなことを2〜3人で伝え合い、聴き合います。 ・今日の研修のテーマを聞いて思い浮かんだこと ・今日の研修のテーマに関して知りたいことや学びたいこと ・今日の研修の

          研修を企画する時に大切なこと③

          グループでの対話やグループワークを実施する際は、メンバー構成によって体験できることが変わってきます。 たとえば、普段から話す機会の多いメンバー同士だと、安心して話し合いやワークに参加できるでしょう。 特に、参加・対話型の研修に慣れていない場合に、積極的な参加を促したい場合には有効です。 ただし、個人的にはあまりおすすめできません。なぜなら、研修とはチャレンジの場だからです。 いつもと同じメンバーでいつもと同じ話をしていても、得られる気づきや学びは少ないです。 そのため、普

          【第29話】リーダーへのヒアリング⑤

          飛田が声をかけたことで、子どもたちの注目が一斉に夏子に集まった。なかなか話し出さない夏子であったが、子どもたちは日常の話し合いでもそうしているように、じっと待った。 「・・・・・走り終わった人がゴールをやる・・・」 絞り出すようにして夏子が言葉を発した。 「あぁ、なるほど!それなら全員がリレーに参加できるね」 飛田が感心して言うと、周りの子どもたちも夏子の提案に反応し始めた。 「じゃあさ、じゃあさ、スタートの合図はどうする?」 子どもたちは、この問題に突破口が見え

          研修を企画する時に大切なこと②

          研修を企画する時に大切なことの一つは、環境設定です。 机や椅子、プロジェクターなどの配置は、参加者の立場に立って考えましょう。 特にグループワークや、グループ間の移動などがある場合は、動きやすい配置にすることが重要です。 長時間座っていて疲れないか、プロジェクターは見やすいか、隣のグループの話し声が気にならないくらいの距離が保てているかどうか、など確認しましょう。 マイクを使用する場合は、スピーカーが近すぎるとストレスを感じます。 保育環境を考えるときと同じで、参加者(

          【第28話】リーダーへのヒアリング④

          しかし、話が煮詰まったのか、困った顔をして太陽は飛田の方にやってきた。 「じゃあ、どうしようか」飛田は子どもたちを集めて、お互いに相手の意見を聴くように促した。以前の飛田であれば、すぐに解決策を伝えていたかもしれない。しかし、今の年長の子どもたちと関わり対話を繰り返すうちに、子どもの力を信頼するようになっていた。 保育者は基本的に人の役に立つことを嬉しいと感じる。そのため、自分がどうしたら周囲に貢献できるかを常に考えている。しかしそれは、自分が有能感を感じるためにやってい